105.駆けるものを求めて
夢主名前設定
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市中を突っ切るのは流石に勇気がいる。
なるべく藩邸が無い辺りを、街道に続かない道を。
沖田は知り尽くした京の道を夢主を連れて静かに歩いていた。
「この先は少し人通りがありそうですね……見つかると厄介です。暗くなるまで待ったほうがいいかもしれません」
「暗くなってからでも大丈夫なのですか」
「えぇ、幸い今夜は月も大きいですし、僕は夜目も利く。夜に強い馬を連れて行けば大丈夫です」
小声で話す沖田に、黙って顔を動かして応えた。それを見て沖田が覚悟を決めて声を潜めた。
暗くなるまで潜む場所を選んだ沖田、顔を隠すように衿巻をくっと摘まみ上げた。
「怪しまれない場所……怒らないで下さいよっ」
沖田は微かに染まった頬を夢主が巻いてくれた衿巻で隠していた。
口を閉ざして夢主を案内したのは一軒の出会い茶屋だった。怒られるのを覚悟で中に引き入れる。
「昼間から怪しまれずに顔を見られず姿を隠せる場所、逢引茶屋です」
了承してくれるか困った顔で確認する沖田に、夢主は構わないと頷いた。
信じてついて行くと決めたのだ、これくらい気にも留めないと平然として見せた。
階段を上がって気付いたが、ここは以前斎藤と来た茶屋だった。
沖田も部屋に上がるなり、夢主が口をぽかんを開いて室内を眺める様子が、物珍しさで見ているのではないと気が付いた。
「夢主ちゃん……」
「ここ、一さんと来たことがあります……」
「えぇっ!」
大きな声を出してしまい自分の口を手で塞ぐ沖田を、夢主はクスクスと笑った。
「任務のひとつでですよ、総司さん。ふふっ……ほら、新見さんの一件の頃に」
「あぁ……随分と懐かしいですね……」
その時は血生臭い現場にいた沖田、ここで二人過ごしていたのかと改めて部屋を見回した。
「懐かしい、か。ほんの何年か前なのにね。京で頑張ろうって意気込んでた頃だ。もう離れちゃうのか……」
感傷に浸る沖田に夢主も切なく首を傾げた。
「斎藤さんとはその……こんな場所で大丈夫でしたか、怖くありませんでした」
今更ですがと気に掛ける沖田が可笑しく、再びクスクス笑いながら口を開いた。
「ふふっ、大丈夫でしたよ、一さんは少し開いた窓からずっと月を眺めていました。一人でお酒を楽しんでいましたよ、離れていましたから……私はお布団で休ませていただいたんです」
「そうですか……」
「はい。でも一さんが寝てる間に目が覚めて……お酒をちょっと呑んじゃって……ふふっ、気付いたら朝でした」
「あははっ、夢主ちゃんらしいなっ。斎藤さんのお膳から呑んだんでしょ?よく布団まで戻れましたね」
酒の弱さはよく知っていると笑う沖田に、夢主は首を振った。
「覚えていないんですよ、一さんが寒そうだったので肌掛けを掛けてあげようと思ったんです。それでお酒を呑んで……気付いたら、お布団にいましたから……記憶が……」
「へぇ……」
斎藤さんだな……きっと酒を呑む所からずっと承知で、寝込んだ夢主を抱えて布団まで運んだのだろう。
簡単な話だと沖田は一人で笑った。
「えっ、どうしたんですか?」
「いえ、夢主ちゃんは本当にもう」
突然どうしたのかと、声を殺して笑う沖田を覗きこむ夢主は目をしばたいて、きょとんとしていた。
……全く今も昔も無防備で、斎藤さん本当に不安じゃ無いのかな、それ程までに信じてるのかな、夢主ちゃんのこと。僕のことも……
にこりと笑い、沖田は正座をした自分の膝をぽんぽんと叩いた。
「なんならここで一休みしますか」
「なっ、何を仰るんですかっ!」
「あははははっ!」
真っ赤な顔で本気で怒る夢主を笑い、沖田は足を崩した。
「冗談ですよ、あはははっ!本当に可愛いんですからっ。暗くなったら動きますから、今のうちに休んでおいてください。もちろんお布団でねっ」
「はぃ……」
むすりと不機嫌ながら素直に応じ、夢主は布団の中に一人潜り込んだ。
なるべく藩邸が無い辺りを、街道に続かない道を。
沖田は知り尽くした京の道を夢主を連れて静かに歩いていた。
「この先は少し人通りがありそうですね……見つかると厄介です。暗くなるまで待ったほうがいいかもしれません」
「暗くなってからでも大丈夫なのですか」
「えぇ、幸い今夜は月も大きいですし、僕は夜目も利く。夜に強い馬を連れて行けば大丈夫です」
小声で話す沖田に、黙って顔を動かして応えた。それを見て沖田が覚悟を決めて声を潜めた。
暗くなるまで潜む場所を選んだ沖田、顔を隠すように衿巻をくっと摘まみ上げた。
「怪しまれない場所……怒らないで下さいよっ」
沖田は微かに染まった頬を夢主が巻いてくれた衿巻で隠していた。
口を閉ざして夢主を案内したのは一軒の出会い茶屋だった。怒られるのを覚悟で中に引き入れる。
「昼間から怪しまれずに顔を見られず姿を隠せる場所、逢引茶屋です」
了承してくれるか困った顔で確認する沖田に、夢主は構わないと頷いた。
信じてついて行くと決めたのだ、これくらい気にも留めないと平然として見せた。
階段を上がって気付いたが、ここは以前斎藤と来た茶屋だった。
沖田も部屋に上がるなり、夢主が口をぽかんを開いて室内を眺める様子が、物珍しさで見ているのではないと気が付いた。
「夢主ちゃん……」
「ここ、一さんと来たことがあります……」
「えぇっ!」
大きな声を出してしまい自分の口を手で塞ぐ沖田を、夢主はクスクスと笑った。
「任務のひとつでですよ、総司さん。ふふっ……ほら、新見さんの一件の頃に」
「あぁ……随分と懐かしいですね……」
その時は血生臭い現場にいた沖田、ここで二人過ごしていたのかと改めて部屋を見回した。
「懐かしい、か。ほんの何年か前なのにね。京で頑張ろうって意気込んでた頃だ。もう離れちゃうのか……」
感傷に浸る沖田に夢主も切なく首を傾げた。
「斎藤さんとはその……こんな場所で大丈夫でしたか、怖くありませんでした」
今更ですがと気に掛ける沖田が可笑しく、再びクスクス笑いながら口を開いた。
「ふふっ、大丈夫でしたよ、一さんは少し開いた窓からずっと月を眺めていました。一人でお酒を楽しんでいましたよ、離れていましたから……私はお布団で休ませていただいたんです」
「そうですか……」
「はい。でも一さんが寝てる間に目が覚めて……お酒をちょっと呑んじゃって……ふふっ、気付いたら朝でした」
「あははっ、夢主ちゃんらしいなっ。斎藤さんのお膳から呑んだんでしょ?よく布団まで戻れましたね」
酒の弱さはよく知っていると笑う沖田に、夢主は首を振った。
「覚えていないんですよ、一さんが寒そうだったので肌掛けを掛けてあげようと思ったんです。それでお酒を呑んで……気付いたら、お布団にいましたから……記憶が……」
「へぇ……」
斎藤さんだな……きっと酒を呑む所からずっと承知で、寝込んだ夢主を抱えて布団まで運んだのだろう。
簡単な話だと沖田は一人で笑った。
「えっ、どうしたんですか?」
「いえ、夢主ちゃんは本当にもう」
突然どうしたのかと、声を殺して笑う沖田を覗きこむ夢主は目をしばたいて、きょとんとしていた。
……全く今も昔も無防備で、斎藤さん本当に不安じゃ無いのかな、それ程までに信じてるのかな、夢主ちゃんのこと。僕のことも……
にこりと笑い、沖田は正座をした自分の膝をぽんぽんと叩いた。
「なんならここで一休みしますか」
「なっ、何を仰るんですかっ!」
「あははははっ!」
真っ赤な顔で本気で怒る夢主を笑い、沖田は足を崩した。
「冗談ですよ、あはははっ!本当に可愛いんですからっ。暗くなったら動きますから、今のうちに休んでおいてください。もちろんお布団でねっ」
「はぃ……」
むすりと不機嫌ながら素直に応じ、夢主は布団の中に一人潜り込んだ。