105.駆けるものを求めて
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝、目覚めた夢主は小屋の中に自分ひとりと気が付き、飛び起きた。
布団は綺麗に畳まれて沖田の刀も無い。
だが旅立ちの荷はそのまま置かれていた。
「そっか……朝から修行に……」
昨夜、比古が最後の稽古とばかりに夢主も連れ出し、沖田に得意技を教えていたではないか。きっとその最終確認をしているに違いない。
夢主は落ち着きを取り戻し、枕の下からある物を取り出した。
以前ここで比古の教えを受け、皆の為に作った桜の陶器だ。
特に斎藤と自らの物だけは特別な猪目の合わせに仕上げた、ふたりだけの秘密である。
光沢ある表面を指で撫でながら斎藤の顔を思い出し、頬を緩めた。
桜の猪目の片われを手に握り、寝巻の上に半纏を羽織って、冷たい山の朝の空気を吸いに外に出た。
「伏見はどうなったんだろう……みんな無事に逃げられたかな……」
小屋から少し上がれば伏見の辺りも見渡せる。
いてもたってもいられなくなった夢主は、一人小走りで山道を登った。
下草の短い歩きやすい小道を登り、目印となる大きな二股の木の脇で道を外れ、木々の間を抜けると京の市中、その先まで広く見渡せる場所に出た。
御所や二条城を越えた遥か向こう、煙がくすぶる様子も無く、火はすっかり消えていた。
「淀城はもっと南の……大坂よりだったかな、もう淀にはいないのかな……」
井上はまだ存命なのか……
夢主が必死に戦の流れを思い出そうと眉根を寄せていると、背後で草を掻き分ける音がした。
「あっ、驚かないでください、大丈夫、僕ですよ!」
「あ……良かった……何か獣が来たのかと思って吃驚しました……」
「あははっ、僕達で良かったですけど……でも危ないですから一人で山を歩かないでくださいね、普段獣の姿が無いとは言え、何が起きるか分かりません」
「すみません……」
ぎゅっと握った手にある小さな物に目が留まり、沖田は「あぁ……」と目を細めた。
「心配ですね、確かにここからはよく見えます。斎藤さんなら大丈夫、土方さんも、皆だって」
自分を慰めるように呟く沖田の後ろから、比古が現れた。
別々に探していたが、聞こえた声に導かれやって来たのだ。
「ここにいたか。夢主を見つけたな」
沖田に向かい、でかしたと大袈裟に顎を引き「うむ」とする比古に、夢主はくすりと笑った。
「笑えるならば大丈夫だな、夢主。沖田の稽古は終いだ。よく頑張ったな、沖田。……今日のうちに発つのか」
「そうですね……早い方が。でも明るいうちに南に向かうのは少し怖いですね」
自分一人ならば大丈夫だが……沖田は守らねばならない夢主を案じ、苦手な頭を使って考えた。
「夢主ちゃん、前に歴史上の僕も江戸に向かったと話してくれましたよね。どのように江戸に移動していたんですか」
「船です」
「船……」
「はい、船で江戸へ向かっていました」
迷わず応えた夢主に沖田は顔をしかめた。
江戸へ向かうほどの船だ、大きな船にどのように乗り込めるというのか。土方には自分が新選組と共にいるよう装ってくれと伝えてある。彼らが船に乗るのならば、話は合わせてくれるだろう。
だが、別の道を行くとして、この状況下で本当に東海道や中山道を行けるものか……沖田の顔はますます歪んでいく。
布団は綺麗に畳まれて沖田の刀も無い。
だが旅立ちの荷はそのまま置かれていた。
「そっか……朝から修行に……」
昨夜、比古が最後の稽古とばかりに夢主も連れ出し、沖田に得意技を教えていたではないか。きっとその最終確認をしているに違いない。
夢主は落ち着きを取り戻し、枕の下からある物を取り出した。
以前ここで比古の教えを受け、皆の為に作った桜の陶器だ。
特に斎藤と自らの物だけは特別な猪目の合わせに仕上げた、ふたりだけの秘密である。
光沢ある表面を指で撫でながら斎藤の顔を思い出し、頬を緩めた。
桜の猪目の片われを手に握り、寝巻の上に半纏を羽織って、冷たい山の朝の空気を吸いに外に出た。
「伏見はどうなったんだろう……みんな無事に逃げられたかな……」
小屋から少し上がれば伏見の辺りも見渡せる。
いてもたってもいられなくなった夢主は、一人小走りで山道を登った。
下草の短い歩きやすい小道を登り、目印となる大きな二股の木の脇で道を外れ、木々の間を抜けると京の市中、その先まで広く見渡せる場所に出た。
御所や二条城を越えた遥か向こう、煙がくすぶる様子も無く、火はすっかり消えていた。
「淀城はもっと南の……大坂よりだったかな、もう淀にはいないのかな……」
井上はまだ存命なのか……
夢主が必死に戦の流れを思い出そうと眉根を寄せていると、背後で草を掻き分ける音がした。
「あっ、驚かないでください、大丈夫、僕ですよ!」
「あ……良かった……何か獣が来たのかと思って吃驚しました……」
「あははっ、僕達で良かったですけど……でも危ないですから一人で山を歩かないでくださいね、普段獣の姿が無いとは言え、何が起きるか分かりません」
「すみません……」
ぎゅっと握った手にある小さな物に目が留まり、沖田は「あぁ……」と目を細めた。
「心配ですね、確かにここからはよく見えます。斎藤さんなら大丈夫、土方さんも、皆だって」
自分を慰めるように呟く沖田の後ろから、比古が現れた。
別々に探していたが、聞こえた声に導かれやって来たのだ。
「ここにいたか。夢主を見つけたな」
沖田に向かい、でかしたと大袈裟に顎を引き「うむ」とする比古に、夢主はくすりと笑った。
「笑えるならば大丈夫だな、夢主。沖田の稽古は終いだ。よく頑張ったな、沖田。……今日のうちに発つのか」
「そうですね……早い方が。でも明るいうちに南に向かうのは少し怖いですね」
自分一人ならば大丈夫だが……沖田は守らねばならない夢主を案じ、苦手な頭を使って考えた。
「夢主ちゃん、前に歴史上の僕も江戸に向かったと話してくれましたよね。どのように江戸に移動していたんですか」
「船です」
「船……」
「はい、船で江戸へ向かっていました」
迷わず応えた夢主に沖田は顔をしかめた。
江戸へ向かうほどの船だ、大きな船にどのように乗り込めるというのか。土方には自分が新選組と共にいるよう装ってくれと伝えてある。彼らが船に乗るのならば、話は合わせてくれるだろう。
だが、別の道を行くとして、この状況下で本当に東海道や中山道を行けるものか……沖田の顔はますます歪んでいく。