104.燃える夜空
夢主名前設定
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夢主が昨夜の空が燃えるような恐ろしい光景から現実に意識を引き戻すと、滝に突き出た大きな岩の上で比古と沖田が距離を取って向かい合っているのが目に入った。
冬の水場はとても寒い。
連れて来られて、離れた場所で立って見ているだけの夢主は、比古に預けるつもりで持ってきた斎藤から貰った半纏を羽織っていた。
「得意は突き技」
「はい」
確認する比古の前で、沖田はその指示に従い刀を抜かずに立っていた。
「いいか、今から俺が一番得意な技を見せてやる。動かないで構えていろよ。いいな、動けば死ぬぞ」
抜刀する比古の正面で、緊張する沖田の全身に力が入った。比古の「死ぬぞ」は脅しではないと分かる。
冷たい空気の中で、噴き出た汗が何度も首筋を伝っていく。
「お前の得意技が三段突きならば、しいて言うなら九段突きだろう」
「九段突き……九度も続けて突きを放つのですか」
「まぁ受けてみれば分かるさ」
じりっと音を立てて比古が強く地面を捉えた。正眼の構えを取ると、取り巻く空気ががらりと変わる。
比古の視線に全身捕らわれた沖田の肌が、びりびりと痺れる。
嫌でも身動きが取れなくなるが強張った体のまま、これから繰り出される比古の斬撃の筋を見逃すまいと、目だけは大きく開いていた。
比古が動いた。
沖田がそう感じた次の瞬間には、目の前に突進してきた大きな体から、九つの衝撃を受けた。
壱、弐、参、肆、伍、陸、漆、捌、玖……
唐竹、袈裟斬り、左薙、左切上、逆風、右切上、右薙、逆袈裟、刺突!!!
確かに沖田の目に九つ全ての斬撃が見えた。
微動だに出来ず、ただ比古が技を放ち、そのまま自らの背後に着地するまで息も出来なかった。
「これが……」
「今のが俺の一番得意な技さ。技の名前なんざどうでもいいが、御剣流の使い手でないお前が使うならばただの九段突きになるだろう」
「九段突き……」
「一つ約束しろ。俺の馬鹿弟子にその技は使うな。飛天御剣流のあいつに見せる訳にはいかないのさ。奴はこの技を目にして良い程には育っていない……」
「え……」
「いや、こっちの話だ。すまなかったな。技の名前は必要ないだろう。約束は守れ」
「はい、分かりました。九点同時……九段突き、確かに凄まじい技です」
「この技で、夢主を守って見せろ沖田」
「はい!必ず」
「もしあいつを守りきれなかった時は沖田、俺がお前を殺しに行く」
突然の殺気に全身粟立つ沖田。背筋が一瞬で凍りついた。
「さぁ、掛かって来い」
「はっ、はい」
沖田は震えそうな手を制し、柄を握ると抜刀して比古に向かって構えた。
技は単純だ。
疾さと正確さを確実のものに、沖田は精神を統一し地面を蹴った。
……壱!弐!参!肆!伍!陸!漆!捌!玖!!!間違いない、出来た!……
「悪くは無い」
「はぁ……はぁ……はいっ」
比古は打たれた九つ全ての斬撃、放った沖田と全く同じ力に抑えた太刀で受け止めた。
……なんて凄いんだ比古さんは……全ての筋を読んで、尚僕と同じまでに力を抑えて……
「どうした沖田、怯んだか」
「いえ、比古さんが余りに凄いもので……本気で返せば僕なんて瞬殺なのでしょう」
「フフッ、察しがいいな。その通りだ、本気で俺が返せばお前は耐えられまい。腕力も重量も比ぶべくもない。しかし剣においてはお前は本当に飲み込みがいいな。技や相手に対する洞察も見事なものだ」
「それは褒め言葉ですね、ありがとうございます。しかし比古さんには本当に敵いそうも無い」
「当たり前だろう」
「はははっ、はっきり言いますね!嬉しいですよ!」
「フン、さぁ続けるぞ」
殆ど何も目に捉えられず、それでも二人を見守る夢主は、日が暮れるまで続けられた稽古に最後まで付き合った。
冬の水場はとても寒い。
連れて来られて、離れた場所で立って見ているだけの夢主は、比古に預けるつもりで持ってきた斎藤から貰った半纏を羽織っていた。
「得意は突き技」
「はい」
確認する比古の前で、沖田はその指示に従い刀を抜かずに立っていた。
「いいか、今から俺が一番得意な技を見せてやる。動かないで構えていろよ。いいな、動けば死ぬぞ」
抜刀する比古の正面で、緊張する沖田の全身に力が入った。比古の「死ぬぞ」は脅しではないと分かる。
冷たい空気の中で、噴き出た汗が何度も首筋を伝っていく。
「お前の得意技が三段突きならば、しいて言うなら九段突きだろう」
「九段突き……九度も続けて突きを放つのですか」
「まぁ受けてみれば分かるさ」
じりっと音を立てて比古が強く地面を捉えた。正眼の構えを取ると、取り巻く空気ががらりと変わる。
比古の視線に全身捕らわれた沖田の肌が、びりびりと痺れる。
嫌でも身動きが取れなくなるが強張った体のまま、これから繰り出される比古の斬撃の筋を見逃すまいと、目だけは大きく開いていた。
比古が動いた。
沖田がそう感じた次の瞬間には、目の前に突進してきた大きな体から、九つの衝撃を受けた。
壱、弐、参、肆、伍、陸、漆、捌、玖……
唐竹、袈裟斬り、左薙、左切上、逆風、右切上、右薙、逆袈裟、刺突!!!
確かに沖田の目に九つ全ての斬撃が見えた。
微動だに出来ず、ただ比古が技を放ち、そのまま自らの背後に着地するまで息も出来なかった。
「これが……」
「今のが俺の一番得意な技さ。技の名前なんざどうでもいいが、御剣流の使い手でないお前が使うならばただの九段突きになるだろう」
「九段突き……」
「一つ約束しろ。俺の馬鹿弟子にその技は使うな。飛天御剣流のあいつに見せる訳にはいかないのさ。奴はこの技を目にして良い程には育っていない……」
「え……」
「いや、こっちの話だ。すまなかったな。技の名前は必要ないだろう。約束は守れ」
「はい、分かりました。九点同時……九段突き、確かに凄まじい技です」
「この技で、夢主を守って見せろ沖田」
「はい!必ず」
「もしあいつを守りきれなかった時は沖田、俺がお前を殺しに行く」
突然の殺気に全身粟立つ沖田。背筋が一瞬で凍りついた。
「さぁ、掛かって来い」
「はっ、はい」
沖田は震えそうな手を制し、柄を握ると抜刀して比古に向かって構えた。
技は単純だ。
疾さと正確さを確実のものに、沖田は精神を統一し地面を蹴った。
……壱!弐!参!肆!伍!陸!漆!捌!玖!!!間違いない、出来た!……
「悪くは無い」
「はぁ……はぁ……はいっ」
比古は打たれた九つ全ての斬撃、放った沖田と全く同じ力に抑えた太刀で受け止めた。
……なんて凄いんだ比古さんは……全ての筋を読んで、尚僕と同じまでに力を抑えて……
「どうした沖田、怯んだか」
「いえ、比古さんが余りに凄いもので……本気で返せば僕なんて瞬殺なのでしょう」
「フフッ、察しがいいな。その通りだ、本気で俺が返せばお前は耐えられまい。腕力も重量も比ぶべくもない。しかし剣においてはお前は本当に飲み込みがいいな。技や相手に対する洞察も見事なものだ」
「それは褒め言葉ですね、ありがとうございます。しかし比古さんには本当に敵いそうも無い」
「当たり前だろう」
「はははっ、はっきり言いますね!嬉しいですよ!」
「フン、さぁ続けるぞ」
殆ど何も目に捉えられず、それでも二人を見守る夢主は、日が暮れるまで続けられた稽古に最後まで付き合った。