104.燃える夜空
夢主名前設定
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「何か間違えたと言うのならば、剣客になるには優し過ぎた彼の心を見抜けなかった貴方でしょう、比古さん」
「ははっ!そう言われると言い返せんな」
言ってくれるなと笑う比古に沖田は「ふふっ」と屈託の無い顔を見せた。
人を斬っても、人の死に散々直面しても穢れず曇らない沖田の笑顔、真っ直ぐ生きる意思と誰かを想う気持ちがそうさせているのか。
「今暫く見守ってあげてください、緋村さんを……僕が口にすべき言葉ではないかもしれませんが」
「フッ、やはりお前はいい男だな」
「それ程でもありませんが、ありがたくその言葉を頂いておきます。これから先、夢主ちゃんの傍で生きていくのに、支えになる言葉です……」
「辛かろう」
「正直に言えば……でも……」
ふぅっ……息を吐いて気持ちを整えたかったのか、沖田は間を空けて比古に応えた。
「平気ですよ」
「……そうか」
……離れることを選んだ俺とは逆の道を行くのだな、沖田……
この夜は二人、東の空が明らむまで語り合った。
それから何日も沖田の鍛錬は続いた。
夜になれば夢主の望みに応え、比古は二人を連れて山を登り、京の町が見渡せる場所へ足を運んだ。
暗闇の中、伏見が焼けていないのを確認して小屋へ戻るのだった。
そんな一日を何度繰り返しただろうか。
比古との激しい稽古の日々に、沖田の逞しさに磨きが掛かった。
小柄ながらも引き締まった体は更に鍛え上げられ、精神もまた研ぎ澄まされた。
そのうちに、時間に鈍感な山小屋にまで届く鐘の音が聞こえた。新年を告げる鐘だ。
日々の時の報せとは異なる鐘の音、夢主は新しい年の始まりを知り、戦の幕開けを予感した。
気になる伏見の地には、今後十年顔を合わせることは無い、そうと知らずに最後の戦いに挑む斎藤と緋村がいた。
幕府軍が古くからの袴姿で戦うのに対し、薩長をはじめとする倒幕兵達は真っ黒な洋装揃えで身軽に動き回っている。
こんなにも敵味方の区別がつきやすい戦の場も珍しい。
敵味方を判別する袖章すら必要無い状況だ。
しかし、そのおかげで斎藤は瞬時の判断で敵を次々散らすことが出来た。
斎藤を中心に円形の空間がぽっかりと空いている。
近くの敵は全て斬り倒したのだ。
辺りを見回すと、目に入る敵兵はみな味方と刃を交えている。
……加勢に回るか……
状況を確認して援護に向かおうとしたその時、突き刺さる視線にぞくりと反応し、肩からニヤリと振り向いた。
この戦場、どちらの軍にも不似合いな浪士風の男が鋭い目つきで斎藤を捉えている。
男の足元には幕兵が何人も動かぬ体となって横たわっていた。
幕府の者ではないが袴姿の剣客。斎藤が待っていた男だ。
「久しぶりだな、抜刀斎」
敵味方の鬨の声が飛び交う中、二人は動かず間合いを保っている。
四方八方で鋼が激しくぶつかり、鎬を削る音や弾きあう音が響く。
鉄砲が主役の戦争だが、ここは白刃戦の場となっていた。
「斎藤一……戦いを選んだか」
「何が言いたい」
フンと鼻をならし、手にある抜き身を持ち上げ、ゆっくり緋村に向ける。
空いている右手を刀の鎬に沿い切っ先へと滑らせ、射手の如くその先に宿敵の姿を捉えた。
「決着を付けてやる、抜刀斎」
「決着か、いいだろう」
緋村は密かな決意を抱いていた。
この戦いは未だ揺れている時流を一定の流れに決める大きなものとなる。
決定的なそれは、きっと元には戻せない。
薩長が中心となりここまで率いた倒幕の流れ、この戦いで味方につく藩が続々と出るはずだ。
そうなれば、一人の力など必要ない時代がやって来る。
……だから、これが、俺の最後の戦いだ!!
斎藤とは対照的に、緋村は鞘に収めたままの刀。
腰を落として左の親指で鍔の裏をクンと静かに押し上げる。
その間も斎藤の切っ先は緋村に向いたまま、斎藤もいつしか腰を深く落とし、絶対的な得意技の構えに入っていた。
「いくぞぉおおお!!!」
牙突、そして抜刀術。互いの渾身の技が放たれた。
「うぉおおああっ!!!」
山の中腹、安定しない傾いた足元にも関わらず、斎藤は地面を強く蹴り一直線に緋村へ突進した。
斎藤の刃が間合いに届くのを待ち抜刀した緋村、正面から牙突を受け止めギリギリと刃を震わせる。
「ははっ!そう言われると言い返せんな」
言ってくれるなと笑う比古に沖田は「ふふっ」と屈託の無い顔を見せた。
人を斬っても、人の死に散々直面しても穢れず曇らない沖田の笑顔、真っ直ぐ生きる意思と誰かを想う気持ちがそうさせているのか。
「今暫く見守ってあげてください、緋村さんを……僕が口にすべき言葉ではないかもしれませんが」
「フッ、やはりお前はいい男だな」
「それ程でもありませんが、ありがたくその言葉を頂いておきます。これから先、夢主ちゃんの傍で生きていくのに、支えになる言葉です……」
「辛かろう」
「正直に言えば……でも……」
ふぅっ……息を吐いて気持ちを整えたかったのか、沖田は間を空けて比古に応えた。
「平気ですよ」
「……そうか」
……離れることを選んだ俺とは逆の道を行くのだな、沖田……
この夜は二人、東の空が明らむまで語り合った。
それから何日も沖田の鍛錬は続いた。
夜になれば夢主の望みに応え、比古は二人を連れて山を登り、京の町が見渡せる場所へ足を運んだ。
暗闇の中、伏見が焼けていないのを確認して小屋へ戻るのだった。
そんな一日を何度繰り返しただろうか。
比古との激しい稽古の日々に、沖田の逞しさに磨きが掛かった。
小柄ながらも引き締まった体は更に鍛え上げられ、精神もまた研ぎ澄まされた。
そのうちに、時間に鈍感な山小屋にまで届く鐘の音が聞こえた。新年を告げる鐘だ。
日々の時の報せとは異なる鐘の音、夢主は新しい年の始まりを知り、戦の幕開けを予感した。
気になる伏見の地には、今後十年顔を合わせることは無い、そうと知らずに最後の戦いに挑む斎藤と緋村がいた。
幕府軍が古くからの袴姿で戦うのに対し、薩長をはじめとする倒幕兵達は真っ黒な洋装揃えで身軽に動き回っている。
こんなにも敵味方の区別がつきやすい戦の場も珍しい。
敵味方を判別する袖章すら必要無い状況だ。
しかし、そのおかげで斎藤は瞬時の判断で敵を次々散らすことが出来た。
斎藤を中心に円形の空間がぽっかりと空いている。
近くの敵は全て斬り倒したのだ。
辺りを見回すと、目に入る敵兵はみな味方と刃を交えている。
……加勢に回るか……
状況を確認して援護に向かおうとしたその時、突き刺さる視線にぞくりと反応し、肩からニヤリと振り向いた。
この戦場、どちらの軍にも不似合いな浪士風の男が鋭い目つきで斎藤を捉えている。
男の足元には幕兵が何人も動かぬ体となって横たわっていた。
幕府の者ではないが袴姿の剣客。斎藤が待っていた男だ。
「久しぶりだな、抜刀斎」
敵味方の鬨の声が飛び交う中、二人は動かず間合いを保っている。
四方八方で鋼が激しくぶつかり、鎬を削る音や弾きあう音が響く。
鉄砲が主役の戦争だが、ここは白刃戦の場となっていた。
「斎藤一……戦いを選んだか」
「何が言いたい」
フンと鼻をならし、手にある抜き身を持ち上げ、ゆっくり緋村に向ける。
空いている右手を刀の鎬に沿い切っ先へと滑らせ、射手の如くその先に宿敵の姿を捉えた。
「決着を付けてやる、抜刀斎」
「決着か、いいだろう」
緋村は密かな決意を抱いていた。
この戦いは未だ揺れている時流を一定の流れに決める大きなものとなる。
決定的なそれは、きっと元には戻せない。
薩長が中心となりここまで率いた倒幕の流れ、この戦いで味方につく藩が続々と出るはずだ。
そうなれば、一人の力など必要ない時代がやって来る。
……だから、これが、俺の最後の戦いだ!!
斎藤とは対照的に、緋村は鞘に収めたままの刀。
腰を落として左の親指で鍔の裏をクンと静かに押し上げる。
その間も斎藤の切っ先は緋村に向いたまま、斎藤もいつしか腰を深く落とし、絶対的な得意技の構えに入っていた。
「いくぞぉおおお!!!」
牙突、そして抜刀術。互いの渾身の技が放たれた。
「うぉおおああっ!!!」
山の中腹、安定しない傾いた足元にも関わらず、斎藤は地面を強く蹴り一直線に緋村へ突進した。
斎藤の刃が間合いに届くのを待ち抜刀した緋村、正面から牙突を受け止めギリギリと刃を震わせる。