104.燃える夜空
夢主名前設定
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落ち着いた二人が小屋に戻ると、中からは心地よい温もりが漂っていた。
散々に動いた二人には嬉しい夕餉の匂いだ。
「ただいま……」
すっかり放ったらかしにしてしまい、申し訳無さそうに入ってきた沖田を、夢主は優しく迎え入れた。
「おかえりなさい、お疲れ様です」
随分と懸命に、笑って言葉を続けたい夢主だが、井上源三郎の死をどう伝えるべきか、そちらの方が大事だと顔を伏せてしまった。
沖田が名前を借りるほどの存在だ、告げない訳にはいかない。
「美味そうな飯だな」
浮かない顔の夢主を気遣い、腰を下ろした比古が大きな空の器を差し出した。
以前二人で過ごした頃に比古がいつも作っていた煮物と同じ物がぐつぐつと音を立てていた。
小屋にあった食材で、夢主が手伝った鍋を思い出しながら作ったのだ。
「注いでくれるか」
「はい」
比古に続き沖田にもたっぷりと煮物を注いだ器を渡し、静かに食事を始めた。
「師匠……」
「どうした」
「京の町を見渡せる場所はありますか……」
「町をか。少し登ればあるが、気になるのか」
「はい……今日は何日でしょうか」
「さぁな、俺は日付なんざ気にして暮らしてねぇからな。年の暮れが迫っているとしか分からねぇよ」
「そうですか……」
「戦が見たいのか」
頷くべきか、首を振るべきか、自分でも分からないと首を傾げた。
「年が明けてからだったと思うんです……戦が始まります……きっと、見えると思って……夜に燃え上がるんです。伏見の陣が……」
「伏見、まさか!ではっ」
沖田の悲痛な声に夢主は大きく頷いた。
「伏見には会津藩と新選組のみんなが……」
「そんな、では……まさか」
沖田は手にある箸と器を思わず下ろして、声にならない声で呟いた。
最悪の結果を思い描いていた。
「幕府側のみんなは撤退出来ます……でも、源さんが……」
「源さんが、源さんがっ?!」
言われなくとも分かる、この状況で名前が上がる意味。
「伏見を出て、淀に入るんです。その淀の……千両松の戦いで源さん……」
困惑する沖田だが、先を続けられず俯く夢主を見て己の中の迷いを打ち消した。
自分が惑っている場合ではない。
「源さんが死ぬんですね……大丈夫、僕達は京の町に入ったあの日から覚悟していました。自らの死も、互いの死も」
その言葉に比古は眉を動かし、死を覚悟するなど賛同出来んと横目で見るが、沈む夢主を前にした沖田の言葉を無下に否定も出来なかった。
「行かないんですか、沖田さん……」
「僕は貴女の傍にいると誓ったはずです。行きませんよ、どこにも。皆の運命を信じます。皆の力を……」
逆らえない大きなうねりに巻き込まれていくのだと、仲間達の身を案じて唇を噛み締めた。
止められない悔しさ、知って尚も目を背けられない辛さ、沖田は顔を上げ夢主を見つめた。
急に顔を上げ、何かを悟ったように見つめる沖田に夢主は戸惑い、合わせた目を泳がせていると、いつもの柔らかい笑みが戻ってきた。
「こんなに苦しい想いを抱えていたんですね、夢主ちゃんは一人で……ずっと……」
「沖田さん……」
覚悟を決めた沖田の笑顔に、夢主はうっすらと笑みを浮かべて首を振った。
「一人じゃありません、斎藤さんがずっと寄り添ってくださいました。それに、沖田さんも。ですよね」
悪戯に首をかしげる仕草に、沖田はぽっと赤い顔で頭を掻いた。
「ははっ……そっか、まいったな……そうでしたね」
「はい、そうですよ!」
「源さんの死は悲しいです。でも、本当なら……現実になれば僕は受け入れるしかありません。これからきっと、他にも大切な人が危険な目に合うのでしょう、……それも僕は受け入れて見せますから。大丈夫です、思う事があれば僕に伝えてください。迷わないで……苦しまなくていいですよ、一人で抱えないと、約束してください」
「沖田さん……わかりました、ありがとうございます」
僅かに軽くなる心だが、夢主の胸には近藤や土方といった沖田の家族と言える者達の最期が浮かんでいた。
……二人の事はもう少し、経ってから……
微笑み返す夢主が儚く見えるのを、比古は眉間に皺を寄せて見守っていた。
散々に動いた二人には嬉しい夕餉の匂いだ。
「ただいま……」
すっかり放ったらかしにしてしまい、申し訳無さそうに入ってきた沖田を、夢主は優しく迎え入れた。
「おかえりなさい、お疲れ様です」
随分と懸命に、笑って言葉を続けたい夢主だが、井上源三郎の死をどう伝えるべきか、そちらの方が大事だと顔を伏せてしまった。
沖田が名前を借りるほどの存在だ、告げない訳にはいかない。
「美味そうな飯だな」
浮かない顔の夢主を気遣い、腰を下ろした比古が大きな空の器を差し出した。
以前二人で過ごした頃に比古がいつも作っていた煮物と同じ物がぐつぐつと音を立てていた。
小屋にあった食材で、夢主が手伝った鍋を思い出しながら作ったのだ。
「注いでくれるか」
「はい」
比古に続き沖田にもたっぷりと煮物を注いだ器を渡し、静かに食事を始めた。
「師匠……」
「どうした」
「京の町を見渡せる場所はありますか……」
「町をか。少し登ればあるが、気になるのか」
「はい……今日は何日でしょうか」
「さぁな、俺は日付なんざ気にして暮らしてねぇからな。年の暮れが迫っているとしか分からねぇよ」
「そうですか……」
「戦が見たいのか」
頷くべきか、首を振るべきか、自分でも分からないと首を傾げた。
「年が明けてからだったと思うんです……戦が始まります……きっと、見えると思って……夜に燃え上がるんです。伏見の陣が……」
「伏見、まさか!ではっ」
沖田の悲痛な声に夢主は大きく頷いた。
「伏見には会津藩と新選組のみんなが……」
「そんな、では……まさか」
沖田は手にある箸と器を思わず下ろして、声にならない声で呟いた。
最悪の結果を思い描いていた。
「幕府側のみんなは撤退出来ます……でも、源さんが……」
「源さんが、源さんがっ?!」
言われなくとも分かる、この状況で名前が上がる意味。
「伏見を出て、淀に入るんです。その淀の……千両松の戦いで源さん……」
困惑する沖田だが、先を続けられず俯く夢主を見て己の中の迷いを打ち消した。
自分が惑っている場合ではない。
「源さんが死ぬんですね……大丈夫、僕達は京の町に入ったあの日から覚悟していました。自らの死も、互いの死も」
その言葉に比古は眉を動かし、死を覚悟するなど賛同出来んと横目で見るが、沈む夢主を前にした沖田の言葉を無下に否定も出来なかった。
「行かないんですか、沖田さん……」
「僕は貴女の傍にいると誓ったはずです。行きませんよ、どこにも。皆の運命を信じます。皆の力を……」
逆らえない大きなうねりに巻き込まれていくのだと、仲間達の身を案じて唇を噛み締めた。
止められない悔しさ、知って尚も目を背けられない辛さ、沖田は顔を上げ夢主を見つめた。
急に顔を上げ、何かを悟ったように見つめる沖田に夢主は戸惑い、合わせた目を泳がせていると、いつもの柔らかい笑みが戻ってきた。
「こんなに苦しい想いを抱えていたんですね、夢主ちゃんは一人で……ずっと……」
「沖田さん……」
覚悟を決めた沖田の笑顔に、夢主はうっすらと笑みを浮かべて首を振った。
「一人じゃありません、斎藤さんがずっと寄り添ってくださいました。それに、沖田さんも。ですよね」
悪戯に首をかしげる仕草に、沖田はぽっと赤い顔で頭を掻いた。
「ははっ……そっか、まいったな……そうでしたね」
「はい、そうですよ!」
「源さんの死は悲しいです。でも、本当なら……現実になれば僕は受け入れるしかありません。これからきっと、他にも大切な人が危険な目に合うのでしょう、……それも僕は受け入れて見せますから。大丈夫です、思う事があれば僕に伝えてください。迷わないで……苦しまなくていいですよ、一人で抱えないと、約束してください」
「沖田さん……わかりました、ありがとうございます」
僅かに軽くなる心だが、夢主の胸には近藤や土方といった沖田の家族と言える者達の最期が浮かんでいた。
……二人の事はもう少し、経ってから……
微笑み返す夢主が儚く見えるのを、比古は眉間に皺を寄せて見守っていた。