104.燃える夜空
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
小屋に戻ると夢主は一人、柄杓に水をすくって呟いた。
「大丈夫かな沖田さん……それに比古師匠と剣を合わせて、いいのかな」
もう沖田と緋村が関わることは無いだろうか。
緋村剣心の師匠である比古との手合わせが何か大きな影響を与えまいか。
「そうだ、鳥羽伏見の戦いで斎藤さんと剣心が出会うんだ……京の南、伏見……」
見えるかな……
そんな軽い気持ちで夢主は京の町を見渡したく願うが、小屋の辺りは木々が深く緑に囲まれて町の様子は分からない。
「あとで比古師匠に聞いてみよう、町が見える場所があるか」
鳥羽伏見で斎藤が緋村と対峙、その最中に錦の御旗が掲げられ、幕府側の兵士が一気に戦意を失い、御旗を畏怖するように撤退を始める。
やむなく斎藤達も撤退を開始……記憶を辿っていた夢主は突如ある史実を思い出し、下りてきた山道を振り返った。
「そうだ、源さん!源さんのこと、沖田さんに伝えた方がいいのかな、どうしよう……」
鳥羽伏見が開戦して間もなく井上が命を落とすのは、撤退先の淀での戦いだったはず。
試衛館以来の仲間、それ以上に近しい親戚、幼い頃から傍で見守ってくれた大切な存在。
伝えれば駆けつけてしまうのだろうか。
それでも共に歩むと決めてくれた彼の誠意に応える為、伝えるべきかもしれない。
夢主は決め兼ねて丸太に腰を下ろし、二人がいる岩場に続く小道に視線を投げ続けた。
その頃、当の沖田は久しぶりに手ごたえのある相手と向き合い、素直に楽しんでいた。
それは比古も同じだった。
自分には遠く及ばずとも確かな基礎と恵まれた才能の持ち主、相手に不足無しと捉えていた。
「なかなかのものだぞ、沖田!充分な疾さと判断力!」
「っ……く、貴方は、流石ですねっ……」
幾度か互角に鋼をぶつけ合い、最後は弾き飛ばされた沖田、横薙ぎに飛んでくる比古の刃をかわしながら言った。
「フッ、言われるまでも無い」
容赦ない比古の刀が止んだ。
比古は仁王立ちで、相手に僅かな時間を与えた。
普段の弟子に対する稽古ならば休む間を与えずどつく所だが、夢主に宣言したとおり、沖田を壊す気はない。
沖田は咄嗟に体勢と息を整え、一呼吸置く間にも比古に隙が無いことを確認していた。
そして剣を交えるうちに気付いた事を口にした。
「……はぁ……はぁ……新津さん、いや比古さん……あなたまさか……」
気になり始めたある事、はっきり問わない呟きに、比古はにやりとして応えない。
「剣を知るものならば言わずとも分かるだろう」
「ではやはり……あの人は、緋村さんは」
「そうだ、あの馬鹿は俺の弟子だった。過去の話さ。今は俺とは関わりのないただの流れ者、いやただの人斬りさ」
言い終わらないうちに比古は再び沖田に突進した。
気付けば息を荒げ、地面に転がる沖田がいた。
意識ははっきりしており、乱れた息を整えようと手足を伸ばし、肩を大きく揺らしている。それでも刀を手から離していないのは流石だ。
薄っすら開く目には、頭上に広がる木々の向こうにある、夕焼け空が見えていた。
耳に入る音は滝の音と僅かに聞こえるカラスの鳴き声。
沖田は眼を閉じて耳を澄ました。
「お前の太刀筋、疾さ、悪くない。だがお前にいいものをくれてやるには、まだ少し足りん」
「足りない……」
ジャリ……小石を踏みしめて鳴る音が頭の上で止まった。
目を開くと、比古が覗き込んで大きな影が出来ていた。
白い大きな体が温かな茜色に染まっている。
「あぁ。だが貴様は天賦の才に恵まれた剣客と見た。少し鍛えれば充分に値するものへと昇華するだろう。どうする、数日出立は遅れるがな。どうしても行くと言うのならば仕方ないが」
「いいえっ、是非お願いします!貴方の剣は凄い……正直、僕からお願いしたいほどです。ここで稽古を付けて頂きたい」
飛び上がって頭を下げたいところだが、今しばらくは体を起こせそうに無い。
沖田は穏やかな笑顔を向けて願い出た。
「やれやれ、困った男だな。夢主を忘れちゃいねぇだろうな。だがいい、後は何とでもなる。真っ直ぐな気持ちに変わりは無いな。俺が良しと思うまで稽古を付けてやる」
「ありがとうございます!」
決して鈍った訳でも、他人に比べ劣っている訳でも無い沖田の剣筋だが、比古は更に伸びると見て数日の間、面倒を見ると決めた。
自分が気に掛ける夢主を守る男が、より頼れる存在に変わるのだ。
比古は沖田に稽古を付ける理由を、私情だろうかと自嘲して首を振った。
「大丈夫かな沖田さん……それに比古師匠と剣を合わせて、いいのかな」
もう沖田と緋村が関わることは無いだろうか。
緋村剣心の師匠である比古との手合わせが何か大きな影響を与えまいか。
「そうだ、鳥羽伏見の戦いで斎藤さんと剣心が出会うんだ……京の南、伏見……」
見えるかな……
そんな軽い気持ちで夢主は京の町を見渡したく願うが、小屋の辺りは木々が深く緑に囲まれて町の様子は分からない。
「あとで比古師匠に聞いてみよう、町が見える場所があるか」
鳥羽伏見で斎藤が緋村と対峙、その最中に錦の御旗が掲げられ、幕府側の兵士が一気に戦意を失い、御旗を畏怖するように撤退を始める。
やむなく斎藤達も撤退を開始……記憶を辿っていた夢主は突如ある史実を思い出し、下りてきた山道を振り返った。
「そうだ、源さん!源さんのこと、沖田さんに伝えた方がいいのかな、どうしよう……」
鳥羽伏見が開戦して間もなく井上が命を落とすのは、撤退先の淀での戦いだったはず。
試衛館以来の仲間、それ以上に近しい親戚、幼い頃から傍で見守ってくれた大切な存在。
伝えれば駆けつけてしまうのだろうか。
それでも共に歩むと決めてくれた彼の誠意に応える為、伝えるべきかもしれない。
夢主は決め兼ねて丸太に腰を下ろし、二人がいる岩場に続く小道に視線を投げ続けた。
その頃、当の沖田は久しぶりに手ごたえのある相手と向き合い、素直に楽しんでいた。
それは比古も同じだった。
自分には遠く及ばずとも確かな基礎と恵まれた才能の持ち主、相手に不足無しと捉えていた。
「なかなかのものだぞ、沖田!充分な疾さと判断力!」
「っ……く、貴方は、流石ですねっ……」
幾度か互角に鋼をぶつけ合い、最後は弾き飛ばされた沖田、横薙ぎに飛んでくる比古の刃をかわしながら言った。
「フッ、言われるまでも無い」
容赦ない比古の刀が止んだ。
比古は仁王立ちで、相手に僅かな時間を与えた。
普段の弟子に対する稽古ならば休む間を与えずどつく所だが、夢主に宣言したとおり、沖田を壊す気はない。
沖田は咄嗟に体勢と息を整え、一呼吸置く間にも比古に隙が無いことを確認していた。
そして剣を交えるうちに気付いた事を口にした。
「……はぁ……はぁ……新津さん、いや比古さん……あなたまさか……」
気になり始めたある事、はっきり問わない呟きに、比古はにやりとして応えない。
「剣を知るものならば言わずとも分かるだろう」
「ではやはり……あの人は、緋村さんは」
「そうだ、あの馬鹿は俺の弟子だった。過去の話さ。今は俺とは関わりのないただの流れ者、いやただの人斬りさ」
言い終わらないうちに比古は再び沖田に突進した。
気付けば息を荒げ、地面に転がる沖田がいた。
意識ははっきりしており、乱れた息を整えようと手足を伸ばし、肩を大きく揺らしている。それでも刀を手から離していないのは流石だ。
薄っすら開く目には、頭上に広がる木々の向こうにある、夕焼け空が見えていた。
耳に入る音は滝の音と僅かに聞こえるカラスの鳴き声。
沖田は眼を閉じて耳を澄ました。
「お前の太刀筋、疾さ、悪くない。だがお前にいいものをくれてやるには、まだ少し足りん」
「足りない……」
ジャリ……小石を踏みしめて鳴る音が頭の上で止まった。
目を開くと、比古が覗き込んで大きな影が出来ていた。
白い大きな体が温かな茜色に染まっている。
「あぁ。だが貴様は天賦の才に恵まれた剣客と見た。少し鍛えれば充分に値するものへと昇華するだろう。どうする、数日出立は遅れるがな。どうしても行くと言うのならば仕方ないが」
「いいえっ、是非お願いします!貴方の剣は凄い……正直、僕からお願いしたいほどです。ここで稽古を付けて頂きたい」
飛び上がって頭を下げたいところだが、今しばらくは体を起こせそうに無い。
沖田は穏やかな笑顔を向けて願い出た。
「やれやれ、困った男だな。夢主を忘れちゃいねぇだろうな。だがいい、後は何とでもなる。真っ直ぐな気持ちに変わりは無いな。俺が良しと思うまで稽古を付けてやる」
「ありがとうございます!」
決して鈍った訳でも、他人に比べ劣っている訳でも無い沖田の剣筋だが、比古は更に伸びると見て数日の間、面倒を見ると決めた。
自分が気に掛ける夢主を守る男が、より頼れる存在に変わるのだ。
比古は沖田に稽古を付ける理由を、私情だろうかと自嘲して首を振った。