103.いつかの二人への旅立ち
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斜めに荷物を背負う小さな背中には、九枚笹の覗き紋が見えている。気付く者は気付いただろう。
更に白い首筋に残る赤い痕には、ほぼ全ての男が気付き、斎藤を睨み付けたり、やりやがったなとニヤニヤ目を向けたりした。
既に沖田が挨拶を済ませていた。旅装束姿で皆と共に立っている。
「夢主ちゃん、新しい着物ですね……可愛いですよ」
「あっ、ありがとうございます……」
背中の覗き紋と首筋の痕に気付く沖田だが、何も言わずにこやかな笑顔を斎藤へ向けた。
「さぁ、夢主。皆に挨拶をしろ」
斎藤に促され、夢主は皆に一言ずつ声を掛けることになった。
夢主は俄かに困った。
これでもう二度と会えない大好きなこの人に、どのように声を掛ければいいのだろうか。また会えるかもしれない者もいる。
きっと自分の気持ちの差は見ている者に伝わってしまう。
そんな夢主に沖田は近付いた。
「大丈夫ですよ、誰もが覚悟は出来ています。始まりから終わりまで、何も気にすることはありません」
顔を見ると「うん」と力強く頷いてくれる沖田に力を貰い、夢主は一人ずつ言葉を掛けて頭を下げていった。
「永倉さん、約束、お待ちしていますよ」
「あぁ。必ず冷やかしに行ってやる」
「ふふっ、お待ちしてます。……源さん、お体に気を付けて……」
「ははっ、随分と年寄り扱いだね」
「す、すみませんっ!あの、でも無理は為さらないでください……」
「分かりましたよ、ありがとう」
声を掛けては笑顔を向け、一人ずつ挨拶を済ませていく。
「はっ……原田さん……あの……」
「……よぉおっっと!お前本当に軽いな!童みたいだぜ!」
「わっ、あのっ、原田さんっ!!」
子供を抱え上げるように夢主を持ち上げた原田、慌てて原田の手を掴んで下ろすよう頼むが、楽しそうに笑い、なかなか下ろしてもらえなかった。
「もぅっ、驚きました……」
「ははっ、悪かったな!」
目の前で言葉に詰まる夢主に業を煮やした原田の優しさだった。
大きな体で夢主を力いっぱい抱きしめ、そっと耳元で囁いた。
「斎藤のことは俺が見てるからな、大丈夫さ」
「原田さん……原田さんも、死なないでください、奥さんやお子さんの為にも」
「あぁ。可愛い妹のためにも、なっ」
頭をぐしゃりとしそうになるが、これから旅路が待っていると思い出し、分厚い手の平をぽんと夢主の頭に乗せた。
その時、離れた場所からの熱視線に幹部達が振り返った。
そこには堪らず顔を出した鉄之助がいた。
「鉄之助君!」
気まずそうに会釈をしてこちらへやって来る鉄之助、夢主の前に立つと今度は深く腰から頭を下げた。
「失礼とは思いつつ……私もどうしても別れを……述べたく……さっ、桜の陶器!ありがとうございました!お礼が遅くなりました事っ……」
頭を下げたまま震える声で懸命に言葉を搾り出す鉄之助に、夢主は優しく微笑んで応えた。
「鉄之助君……私こそ色々とお世話になりました。本当にありがとう……あのね、土方さんをよろしくお願いします」
「えっ」
頭を上げると顔を寄せて、こっそり伝えてきた夢主に、鉄之助は驚きの声を上げた。
「僕なんかっ、むしろお世話になるばかりで」
「ふふっ、土方さんの言うことはちゃんと聞かないと駄目ですよっ、お願い事は聞いてあげてくださいね……じゃないと……斬られちゃいますよ」
鉄之助の耳に手を当て内緒話として伝えるが、それと同時に廊下から大きな咳払いがひとつ響いた。
「土方さんっ!」
「何、吹き込んでやがるんだ!」
「……ふふっ、内緒です」
土方は周りの目を気にしながらも、腕を組んで悠然と夢主の前にやって来た。
何だか照れ臭そうにしている……周りに立つ男達は土方の表情をそう読み取った。
「お前、しっかりやれよ!総司、頼んだぞ……」
夢主と沖田は土方に向かい大きく頷いた。土方は腕を組む手に何か握り締めているようだ。
小さな何か……悟った夢主が微笑むと、土方も夢主にだけ分かるようそっと表情を緩めた。
更に白い首筋に残る赤い痕には、ほぼ全ての男が気付き、斎藤を睨み付けたり、やりやがったなとニヤニヤ目を向けたりした。
既に沖田が挨拶を済ませていた。旅装束姿で皆と共に立っている。
「夢主ちゃん、新しい着物ですね……可愛いですよ」
「あっ、ありがとうございます……」
背中の覗き紋と首筋の痕に気付く沖田だが、何も言わずにこやかな笑顔を斎藤へ向けた。
「さぁ、夢主。皆に挨拶をしろ」
斎藤に促され、夢主は皆に一言ずつ声を掛けることになった。
夢主は俄かに困った。
これでもう二度と会えない大好きなこの人に、どのように声を掛ければいいのだろうか。また会えるかもしれない者もいる。
きっと自分の気持ちの差は見ている者に伝わってしまう。
そんな夢主に沖田は近付いた。
「大丈夫ですよ、誰もが覚悟は出来ています。始まりから終わりまで、何も気にすることはありません」
顔を見ると「うん」と力強く頷いてくれる沖田に力を貰い、夢主は一人ずつ言葉を掛けて頭を下げていった。
「永倉さん、約束、お待ちしていますよ」
「あぁ。必ず冷やかしに行ってやる」
「ふふっ、お待ちしてます。……源さん、お体に気を付けて……」
「ははっ、随分と年寄り扱いだね」
「す、すみませんっ!あの、でも無理は為さらないでください……」
「分かりましたよ、ありがとう」
声を掛けては笑顔を向け、一人ずつ挨拶を済ませていく。
「はっ……原田さん……あの……」
「……よぉおっっと!お前本当に軽いな!童みたいだぜ!」
「わっ、あのっ、原田さんっ!!」
子供を抱え上げるように夢主を持ち上げた原田、慌てて原田の手を掴んで下ろすよう頼むが、楽しそうに笑い、なかなか下ろしてもらえなかった。
「もぅっ、驚きました……」
「ははっ、悪かったな!」
目の前で言葉に詰まる夢主に業を煮やした原田の優しさだった。
大きな体で夢主を力いっぱい抱きしめ、そっと耳元で囁いた。
「斎藤のことは俺が見てるからな、大丈夫さ」
「原田さん……原田さんも、死なないでください、奥さんやお子さんの為にも」
「あぁ。可愛い妹のためにも、なっ」
頭をぐしゃりとしそうになるが、これから旅路が待っていると思い出し、分厚い手の平をぽんと夢主の頭に乗せた。
その時、離れた場所からの熱視線に幹部達が振り返った。
そこには堪らず顔を出した鉄之助がいた。
「鉄之助君!」
気まずそうに会釈をしてこちらへやって来る鉄之助、夢主の前に立つと今度は深く腰から頭を下げた。
「失礼とは思いつつ……私もどうしても別れを……述べたく……さっ、桜の陶器!ありがとうございました!お礼が遅くなりました事っ……」
頭を下げたまま震える声で懸命に言葉を搾り出す鉄之助に、夢主は優しく微笑んで応えた。
「鉄之助君……私こそ色々とお世話になりました。本当にありがとう……あのね、土方さんをよろしくお願いします」
「えっ」
頭を上げると顔を寄せて、こっそり伝えてきた夢主に、鉄之助は驚きの声を上げた。
「僕なんかっ、むしろお世話になるばかりで」
「ふふっ、土方さんの言うことはちゃんと聞かないと駄目ですよっ、お願い事は聞いてあげてくださいね……じゃないと……斬られちゃいますよ」
鉄之助の耳に手を当て内緒話として伝えるが、それと同時に廊下から大きな咳払いがひとつ響いた。
「土方さんっ!」
「何、吹き込んでやがるんだ!」
「……ふふっ、内緒です」
土方は周りの目を気にしながらも、腕を組んで悠然と夢主の前にやって来た。
何だか照れ臭そうにしている……周りに立つ男達は土方の表情をそう読み取った。
「お前、しっかりやれよ!総司、頼んだぞ……」
夢主と沖田は土方に向かい大きく頷いた。土方は腕を組む手に何か握り締めているようだ。
小さな何か……悟った夢主が微笑むと、土方も夢主にだけ分かるようそっと表情を緩めた。