103.いつかの二人への旅立ち
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立ち上がって障子に手を掛ける斎藤に、気付けば夢主は後ろからしがみ付いていた。
この障子を開けばそれぞれの道が待っている。夢主の体が勝手に動いてしまった。
結んでもらったばかりの髪がしがみ付いた衝撃で大きく揺れた。
「やれやれ……」
「一さん……」
斎藤はもう掛ける言葉は無いと、そっと最後の我が儘に応える為に振り返り、夢主をしっかりと抱きしめてやった。
そしてそっと伝えた。
「大丈夫だ」
「はい」
確かな返事に安心したのか、頷いてニッといつもの顔を見せた斎藤、思いつきで別れの印を付けてやろうと、夢主の首筋に顔を寄せた。
「ぁっ……」
「痛かったか」
痛みは無いが、口を添えられた首筋にじんじんと昂ぶる感覚が留まっている。
斎藤は夢主の首に赤い痕を残した。
「いぇ……」
「そうか」
「……っ」
そうか……穏やかに言う斎藤だが、そのまま激しく夢主の唇を塞いだ。
少しでも夢主の何かを知りたい、覚えておきたい、無意識の欲求だったのかもしれない。
立ったまま夢主の体を抱き、斎藤は貪るように荒々しく口を重ねた。
別れを惜しみ、全てを記憶しようと夢主の中深くに入り込む、熱く滾る口付けだ。
「んふっ……」
つぅっと何かが垂れるほどの深く長い口付けに、夢主がまどろんだ声を漏らすと、斎藤は小さく笑んでからもう一度、優しく唇を重ねて触れた。
「……はぁっ……はぁっ……」
斎藤に委ねる夢主、離してもらった時には体の中に斎藤の激しい熱を埋め込まれる感覚がした。
己の存在を忘れぬよう、斎藤が首筋だけではなく、夢主の体の中にも印を付ける熱い行為だった。
散々待たされた斎藤が、今度は夢主の体を焦らすべく扱ったようにも見える。
「すまん」
囁くと、最後にそっと触れるだけの口付けを与えた。
すっかり潤み目の赤い夢主をフッと笑い、瞳の揺らぎが治まるのを待とうと、今度はそっと小さな体を胸に抱いた。
「なぁ、その泣き虫……次会う時までに治っていると思うか」
夢主は斎藤の胸に顔をうずめたまま首を振った。
「っむ……無理だと思います……」
「だろうな」
顔を隠したまま小さな震える声で話す夢主をフッと笑い斎藤は続けた。
「泣き虫の癖に時折見せる妙な気の強さと負けず嫌い……」
「負けず嫌いはお互い様です……斎藤さんだって」
「一と呼びたいと、言ったのはお前じゃなかったのか」
「っ……」
再び体に馴染んだ呼び名で呼んでしまい揶揄われ、見上げると、斎藤は見慣れた悪ぶった顔を俄かに緩めていた。
「だって……恥ずかしいですし、斎藤さんって呼び方……好きなんです……」
「ほぉ、なら何故申し出た」
「だって、沖田さんを総司さんと呼ぶなら……一さんじゃなきゃ……嫌です」
ぐすっ……溜まった涙を啜る音に、斎藤はククッと喉を鳴らした。
「お前な……あまり泣いてばかりいると」
「泣いてばかりいると……どうなるんですか……」
涙声で恐る恐る訊ねる瞳。
斎藤は獣がじゃれてふざけるように振る舞って夢主に顔を近付けた。
「そうだな、怖い狼に喰われちまうぞ」
「ふふっ、斎藤さんたらっ」
目の前で見せられた牙を剥く素振りに笑ってしまった。
可笑しさと斎藤が迫る恥ずかしさから、手を出して避けてしまう。
「……斎藤さんが……一さんがこんな楽しいことするなんて、初めてお顔見た時には考えもしませんでした、ふふっ」
「フン、そうか」
「すっごく怖いお顔で見てました……でも……」
「でも」
「瞳は怖くありませんでした。綺麗で……吸い込まれそうでした……」
目の前に迫っていた斎藤だが、夢主の言葉に反射して体を起こして目を逸らした。
コホンとひとつ喉を鳴らす。
綺麗などと讃える言葉には慣れていない。他人ならばうわべだけと受け流せるが、夢主から出た言葉は全てが素直に心に入り込むから厄介だ。
照れを隠した斎藤は気持ちを切り替えて夢主を見つめ直した。
「さぁ、行くぞ」
「はぃ」
二人は皆の待つ広場へ向かった。
この障子を開けばそれぞれの道が待っている。夢主の体が勝手に動いてしまった。
結んでもらったばかりの髪がしがみ付いた衝撃で大きく揺れた。
「やれやれ……」
「一さん……」
斎藤はもう掛ける言葉は無いと、そっと最後の我が儘に応える為に振り返り、夢主をしっかりと抱きしめてやった。
そしてそっと伝えた。
「大丈夫だ」
「はい」
確かな返事に安心したのか、頷いてニッといつもの顔を見せた斎藤、思いつきで別れの印を付けてやろうと、夢主の首筋に顔を寄せた。
「ぁっ……」
「痛かったか」
痛みは無いが、口を添えられた首筋にじんじんと昂ぶる感覚が留まっている。
斎藤は夢主の首に赤い痕を残した。
「いぇ……」
「そうか」
「……っ」
そうか……穏やかに言う斎藤だが、そのまま激しく夢主の唇を塞いだ。
少しでも夢主の何かを知りたい、覚えておきたい、無意識の欲求だったのかもしれない。
立ったまま夢主の体を抱き、斎藤は貪るように荒々しく口を重ねた。
別れを惜しみ、全てを記憶しようと夢主の中深くに入り込む、熱く滾る口付けだ。
「んふっ……」
つぅっと何かが垂れるほどの深く長い口付けに、夢主がまどろんだ声を漏らすと、斎藤は小さく笑んでからもう一度、優しく唇を重ねて触れた。
「……はぁっ……はぁっ……」
斎藤に委ねる夢主、離してもらった時には体の中に斎藤の激しい熱を埋め込まれる感覚がした。
己の存在を忘れぬよう、斎藤が首筋だけではなく、夢主の体の中にも印を付ける熱い行為だった。
散々待たされた斎藤が、今度は夢主の体を焦らすべく扱ったようにも見える。
「すまん」
囁くと、最後にそっと触れるだけの口付けを与えた。
すっかり潤み目の赤い夢主をフッと笑い、瞳の揺らぎが治まるのを待とうと、今度はそっと小さな体を胸に抱いた。
「なぁ、その泣き虫……次会う時までに治っていると思うか」
夢主は斎藤の胸に顔をうずめたまま首を振った。
「っむ……無理だと思います……」
「だろうな」
顔を隠したまま小さな震える声で話す夢主をフッと笑い斎藤は続けた。
「泣き虫の癖に時折見せる妙な気の強さと負けず嫌い……」
「負けず嫌いはお互い様です……斎藤さんだって」
「一と呼びたいと、言ったのはお前じゃなかったのか」
「っ……」
再び体に馴染んだ呼び名で呼んでしまい揶揄われ、見上げると、斎藤は見慣れた悪ぶった顔を俄かに緩めていた。
「だって……恥ずかしいですし、斎藤さんって呼び方……好きなんです……」
「ほぉ、なら何故申し出た」
「だって、沖田さんを総司さんと呼ぶなら……一さんじゃなきゃ……嫌です」
ぐすっ……溜まった涙を啜る音に、斎藤はククッと喉を鳴らした。
「お前な……あまり泣いてばかりいると」
「泣いてばかりいると……どうなるんですか……」
涙声で恐る恐る訊ねる瞳。
斎藤は獣がじゃれてふざけるように振る舞って夢主に顔を近付けた。
「そうだな、怖い狼に喰われちまうぞ」
「ふふっ、斎藤さんたらっ」
目の前で見せられた牙を剥く素振りに笑ってしまった。
可笑しさと斎藤が迫る恥ずかしさから、手を出して避けてしまう。
「……斎藤さんが……一さんがこんな楽しいことするなんて、初めてお顔見た時には考えもしませんでした、ふふっ」
「フン、そうか」
「すっごく怖いお顔で見てました……でも……」
「でも」
「瞳は怖くありませんでした。綺麗で……吸い込まれそうでした……」
目の前に迫っていた斎藤だが、夢主の言葉に反射して体を起こして目を逸らした。
コホンとひとつ喉を鳴らす。
綺麗などと讃える言葉には慣れていない。他人ならばうわべだけと受け流せるが、夢主から出た言葉は全てが素直に心に入り込むから厄介だ。
照れを隠した斎藤は気持ちを切り替えて夢主を見つめ直した。
「さぁ、行くぞ」
「はぃ」
二人は皆の待つ広場へ向かった。