103.いつかの二人への旅立ち
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「初めての帯を結んでやったのは俺だぞ」
斎藤は思い出したのか恩着せがましく揶揄った。夢主はその思い出にふふっと小さく肩を揺らす。
あの時、初めての着付けに手を貸してもらい助かったのは事実だ。不安だらけのあの時、どれ程心強かったか。
そうこうしているうちに、するする解かれた帯がするりと落ちた。
このまま全ての衣を奪われてしまうのではと感じる手際の良さに、夢主は気を揉んで振り返った。
何か企んでいるのではと、体の奥が熱くなっていく。
事実、斎藤は少し困らせてやろうかと、男の悪戯心を発揮したく思っていた。
だが残念ながら互いに時間が無い。夢主の肩を掴んで前を向かせると、仕方無しに渡したばかりの着物を着せてやった。
しかし必要以上に体に触れながら着付けているのが夢主にはしっかり伝わった。
胸の膨らみを辿り衿を合わせると、腰に手を這わせて奥で身頃を引っ張った。
夢主は何度もビクリと体を跳ねさせながら、恥ずかしい声を出さぬよう堪えていた。
「もっ……一さん、厭らしぃ……」
「フフン、これくらいの遊び、いいだろう。本当は抱いてしまいたい所だがそうもいかんからな」
斎藤は帯を締め終えると、そのまま後から耳元に顔を近付けた。
「実に残念だ」
斎藤の囁き声にふるっと体を震わせて振り返る夢主は、椿乙女を通り越し真っ赤な顔で照れている。
「一さんたらっ」
「よく似合うぞ」
「えっ……」
上手くはぐらかした斎藤は己の身支度を始めた。
夢主は疼いてしまった体の芯よ早く落ち着けと自らに言い聞かせ、着込みを整える斎藤に背を向けた。
「お前のくれた猪目の桜を持っていくつもりだ」
「あ……ありがとうございます。私もずっと持っています……」
「体だけは壊すなよ」
「はい……一さんも……」
刀を持ち上げる音に夢主は振り向いた。
肌を見せて整えるのを終えたならば、少しでも斎藤の姿をその目に収めておきたかった。
腰に刀を帯びると、斎藤は立ったまましゅるりと髪紐を解き、口に咥えて総髪を整え直した。
夢主はその艶めかしい所作を眺めながら、次に会う時は斎藤の髪も短くなっているのかもしれないと思い馳せた。斎藤はどんな理由で髪を落とすのだろうか。
「どうした」
「いえ……一さんの髪は綺麗ですね」
「フン、急に何を言い出す」
結び目をきつく締めた斎藤は頭から手を下ろすと、夢主の前に立ちその髪に触れて夢主の髪紐を解いてしまった。
「お前の髪の方がよほど美しい」
「一さん……」
さらりと落ちた髪を梳くように触れた斎藤は、そのまま首の後ろに手を回し夢主の顔を引き寄せた。
「暫しの別れだ」
「はぃ……」
小さく動いた夢主の愛おしい甘い唇に、斎藤は自らの口を優しく重ね、頭に触れた手で髪を撫でた。
そして離れるとそっと低い声を響かせた。
「櫛を出せ、俺が結ってやる」
「は……ぃ」
夢主は斎藤の優しい触れ方に沸いた焦れったい何かを抑えて冷静を装い、持ち出す為に纏めていた荷物から櫛を取り出した。
「大事にしているな」
「はぃ……大好きですから」
斎藤が買い与えてくれた櫛も、櫛に施された斎藤を思わせる月の金細工も、それから斎藤自身のことも……
櫛を手渡して背を向けて座ると、斎藤がそっと髪を梳き始めた。
斎藤は自らの髪を整える時と同じように、夢主の髪紐を口に咥えた。
朝、手入れを済ませた夢主の髪、すぅっと止まることなく毛先まで櫛が通っていく。
斎藤は何度も同じ場所を梳いて愛でていた。
頭皮に櫛の先が触れると僅かに擽ったい。斎藤には見えない顔は赤く染まり、心地良さで微笑んでいた。
さらさらとすぐに零れてしまう夢主の艶髪、名残惜しそうに櫛が止まったと思ったら、今度は大きな手が丁寧に髪を集め始めた。
口から紐を外し、くるくる巻くと器用に髪を結い上げる。
夢主は背後で自分にのみ意識を集中して手を動かす斎藤を感じ、どきどきと高鳴る胸を抑えられずにいた。
「行くか」
「……はぃ」
斎藤は思い出したのか恩着せがましく揶揄った。夢主はその思い出にふふっと小さく肩を揺らす。
あの時、初めての着付けに手を貸してもらい助かったのは事実だ。不安だらけのあの時、どれ程心強かったか。
そうこうしているうちに、するする解かれた帯がするりと落ちた。
このまま全ての衣を奪われてしまうのではと感じる手際の良さに、夢主は気を揉んで振り返った。
何か企んでいるのではと、体の奥が熱くなっていく。
事実、斎藤は少し困らせてやろうかと、男の悪戯心を発揮したく思っていた。
だが残念ながら互いに時間が無い。夢主の肩を掴んで前を向かせると、仕方無しに渡したばかりの着物を着せてやった。
しかし必要以上に体に触れながら着付けているのが夢主にはしっかり伝わった。
胸の膨らみを辿り衿を合わせると、腰に手を這わせて奥で身頃を引っ張った。
夢主は何度もビクリと体を跳ねさせながら、恥ずかしい声を出さぬよう堪えていた。
「もっ……一さん、厭らしぃ……」
「フフン、これくらいの遊び、いいだろう。本当は抱いてしまいたい所だがそうもいかんからな」
斎藤は帯を締め終えると、そのまま後から耳元に顔を近付けた。
「実に残念だ」
斎藤の囁き声にふるっと体を震わせて振り返る夢主は、椿乙女を通り越し真っ赤な顔で照れている。
「一さんたらっ」
「よく似合うぞ」
「えっ……」
上手くはぐらかした斎藤は己の身支度を始めた。
夢主は疼いてしまった体の芯よ早く落ち着けと自らに言い聞かせ、着込みを整える斎藤に背を向けた。
「お前のくれた猪目の桜を持っていくつもりだ」
「あ……ありがとうございます。私もずっと持っています……」
「体だけは壊すなよ」
「はい……一さんも……」
刀を持ち上げる音に夢主は振り向いた。
肌を見せて整えるのを終えたならば、少しでも斎藤の姿をその目に収めておきたかった。
腰に刀を帯びると、斎藤は立ったまましゅるりと髪紐を解き、口に咥えて総髪を整え直した。
夢主はその艶めかしい所作を眺めながら、次に会う時は斎藤の髪も短くなっているのかもしれないと思い馳せた。斎藤はどんな理由で髪を落とすのだろうか。
「どうした」
「いえ……一さんの髪は綺麗ですね」
「フン、急に何を言い出す」
結び目をきつく締めた斎藤は頭から手を下ろすと、夢主の前に立ちその髪に触れて夢主の髪紐を解いてしまった。
「お前の髪の方がよほど美しい」
「一さん……」
さらりと落ちた髪を梳くように触れた斎藤は、そのまま首の後ろに手を回し夢主の顔を引き寄せた。
「暫しの別れだ」
「はぃ……」
小さく動いた夢主の愛おしい甘い唇に、斎藤は自らの口を優しく重ね、頭に触れた手で髪を撫でた。
そして離れるとそっと低い声を響かせた。
「櫛を出せ、俺が結ってやる」
「は……ぃ」
夢主は斎藤の優しい触れ方に沸いた焦れったい何かを抑えて冷静を装い、持ち出す為に纏めていた荷物から櫛を取り出した。
「大事にしているな」
「はぃ……大好きですから」
斎藤が買い与えてくれた櫛も、櫛に施された斎藤を思わせる月の金細工も、それから斎藤自身のことも……
櫛を手渡して背を向けて座ると、斎藤がそっと髪を梳き始めた。
斎藤は自らの髪を整える時と同じように、夢主の髪紐を口に咥えた。
朝、手入れを済ませた夢主の髪、すぅっと止まることなく毛先まで櫛が通っていく。
斎藤は何度も同じ場所を梳いて愛でていた。
頭皮に櫛の先が触れると僅かに擽ったい。斎藤には見えない顔は赤く染まり、心地良さで微笑んでいた。
さらさらとすぐに零れてしまう夢主の艶髪、名残惜しそうに櫛が止まったと思ったら、今度は大きな手が丁寧に髪を集め始めた。
口から紐を外し、くるくる巻くと器用に髪を結い上げる。
夢主は背後で自分にのみ意識を集中して手を動かす斎藤を感じ、どきどきと高鳴る胸を抑えられずにいた。
「行くか」
「……はぃ」