103.いつかの二人への旅立ち
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夢主と斎藤達、新選組にとって出立の朝。
廊下で永倉に出会った。朝飯の場にはいなかった。休息所で夜を明かしたのだ。
妻の死に目に会えたのか、既に旅立った後だったのか、夢主を見つけて足早でやって来る。
辺りを見回すと、他にも別れを済ませた隊士達が続々と帰屯していた。
「おかえりなさい、永倉さん」
「夢主っ……お前……」
永倉は目の前に立つなり、しがみ付くように夢主を抱きしめた。
「あのっ」
「ありがとう!夢主、ありがとう……お前が土方さんに言ってくれたんだってな、本当に……ありがとう……」
「永倉さん……」
体を離して間近で見る永倉は瞼が少し腫れて、目が赤く染まっていた。
夕べは寝ていないのか、泣いていたのか……両方なのかもしれない。最愛の者の死に直面しながら、自分も死地へと赴かなければならない。それも大事な忘れ形見を置き去りにして。
「赤ちゃんは……」
「大丈夫だ。蓄えと一緒に信頼できる人に預けてきた。これでもう、大丈夫だ……俺は戦いに、専念出来る」
「そうですか……」
永倉は成すべきことをせんと、強い決意を込めた眼差しで夢主を見つめていた。
「どうすればいい、夢主」
「えっ……」
「どうすれば……どうすればお前に礼が出来る。俺はいつもお前に借りを作ってばかりだ。今回も本当に、ありがたいっ……俺は……」
どうすれば夢主に喜んでもらえる、借りが返せる、いくら考えても思い浮かばない。
恩を返したいが己に何が出来るのか、出来ることなど無いのではないかと、永倉は自分を責めて歯を食いしばっている。
「借りだなんて……」
「俺の気が、済まねぇんだっ」
「永倉さん……」
夢主を見つめる真っ直ぐな眼差しが微かに揺れていた。
「永倉さん、それならひとつお願いがあります」
「何だっ、何でも叶えてやる!言ってみろ」
「ふふっ……永倉さんてば、……あの……」
真剣な眼差しに夢主は気恥ずかしさを感じ、はにかんで目を逸らした。
今の永倉の眼差しには、あの頃のような戸惑いも哀訴の念も無い。ただ真っ直ぐに夢主を見つめていた。
「これから嫌でも時代は変わって行きます。それでもどうか……どうか生きてください……生きて会いに来てくださいっ」
にこりと微笑を取り戻して夢主は顔を上げた。
永倉は驚いた顔で見つめ返している。
「夢主……」
「私、絶対に斎藤さんと一緒になって幸せになりますからっ、永倉さんはそれを確かめに来てください!」
「夢主……お前……ははっ……あはははははっ!!そうか、そうだなっ!!」
永倉は胸のつかえが取れたとばかりに、清々しい顔で大笑いを始めた。
……そうだ、今更俺が何かしなくったって、こいつには斎藤がいるじゃねぇか!!それだけで充分か!!俺が気に病むことはないって、そう言いたいんだな!夢主のやつ……
「ふははははっ、夢主、最後までありがとうよっ!!」
「だから、最後じゃありませんって!」
「分かった分かった!戦が終わったら総司の奴がしょげてるのを見に行くぜっ」
「そんなこと、沖田さんだってその頃には好い人がいるかもしれませんよっ」
「ははっ、そうだな……そうかもしれねぇなっ」
この場にいない沖田を揶揄う永倉を窘める夢主だが、永倉は沖田の心が変わらないことを知っていた。
「必ず生きて、会いに行くぜ!」
「はいっ!」
「ははっ……」
「ふふっ……」
目が合うと再び笑みがこぼれる二人。
そんな笑い合う二人を、土方は遠くから見守っていた。戻ってきた永倉の姿に心から安堵し、笑顔で戻ってきた仲間を頼もしく誇りに感じていた。
続々と姿を見せる仲間を目に、土方はどこまでも共に行かんと心に誓うのだった。
廊下で永倉に出会った。朝飯の場にはいなかった。休息所で夜を明かしたのだ。
妻の死に目に会えたのか、既に旅立った後だったのか、夢主を見つけて足早でやって来る。
辺りを見回すと、他にも別れを済ませた隊士達が続々と帰屯していた。
「おかえりなさい、永倉さん」
「夢主っ……お前……」
永倉は目の前に立つなり、しがみ付くように夢主を抱きしめた。
「あのっ」
「ありがとう!夢主、ありがとう……お前が土方さんに言ってくれたんだってな、本当に……ありがとう……」
「永倉さん……」
体を離して間近で見る永倉は瞼が少し腫れて、目が赤く染まっていた。
夕べは寝ていないのか、泣いていたのか……両方なのかもしれない。最愛の者の死に直面しながら、自分も死地へと赴かなければならない。それも大事な忘れ形見を置き去りにして。
「赤ちゃんは……」
「大丈夫だ。蓄えと一緒に信頼できる人に預けてきた。これでもう、大丈夫だ……俺は戦いに、専念出来る」
「そうですか……」
永倉は成すべきことをせんと、強い決意を込めた眼差しで夢主を見つめていた。
「どうすればいい、夢主」
「えっ……」
「どうすれば……どうすればお前に礼が出来る。俺はいつもお前に借りを作ってばかりだ。今回も本当に、ありがたいっ……俺は……」
どうすれば夢主に喜んでもらえる、借りが返せる、いくら考えても思い浮かばない。
恩を返したいが己に何が出来るのか、出来ることなど無いのではないかと、永倉は自分を責めて歯を食いしばっている。
「借りだなんて……」
「俺の気が、済まねぇんだっ」
「永倉さん……」
夢主を見つめる真っ直ぐな眼差しが微かに揺れていた。
「永倉さん、それならひとつお願いがあります」
「何だっ、何でも叶えてやる!言ってみろ」
「ふふっ……永倉さんてば、……あの……」
真剣な眼差しに夢主は気恥ずかしさを感じ、はにかんで目を逸らした。
今の永倉の眼差しには、あの頃のような戸惑いも哀訴の念も無い。ただ真っ直ぐに夢主を見つめていた。
「これから嫌でも時代は変わって行きます。それでもどうか……どうか生きてください……生きて会いに来てくださいっ」
にこりと微笑を取り戻して夢主は顔を上げた。
永倉は驚いた顔で見つめ返している。
「夢主……」
「私、絶対に斎藤さんと一緒になって幸せになりますからっ、永倉さんはそれを確かめに来てください!」
「夢主……お前……ははっ……あはははははっ!!そうか、そうだなっ!!」
永倉は胸のつかえが取れたとばかりに、清々しい顔で大笑いを始めた。
……そうだ、今更俺が何かしなくったって、こいつには斎藤がいるじゃねぇか!!それだけで充分か!!俺が気に病むことはないって、そう言いたいんだな!夢主のやつ……
「ふははははっ、夢主、最後までありがとうよっ!!」
「だから、最後じゃありませんって!」
「分かった分かった!戦が終わったら総司の奴がしょげてるのを見に行くぜっ」
「そんなこと、沖田さんだってその頃には好い人がいるかもしれませんよっ」
「ははっ、そうだな……そうかもしれねぇなっ」
この場にいない沖田を揶揄う永倉を窘める夢主だが、永倉は沖田の心が変わらないことを知っていた。
「必ず生きて、会いに行くぜ!」
「はいっ!」
「ははっ……」
「ふふっ……」
目が合うと再び笑みがこぼれる二人。
そんな笑い合う二人を、土方は遠くから見守っていた。戻ってきた永倉の姿に心から安堵し、笑顔で戻ってきた仲間を頼もしく誇りに感じていた。
続々と姿を見せる仲間を目に、土方はどこまでも共に行かんと心に誓うのだった。