102.約束の朝
夢主名前設定
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「三つで大丈夫ですか、私の作ったのじゃ小さいからもう少しかな……」
斎藤が自分で握るより小さい、夢主が作った握り飯。
足りないだろうと二つ余分に作って乗せた。
「お前のはこれだ」
「ふふっ、ありがとうございます」
用意された煮物などを適当に器に取り、茶を淹れて膳に乗せた。
「今では、あのお盆が懐かしいです……」
「フッ、あれか。確かにな」
あれから今日まで、互いによく乗り越えてきたものだ。
不意に見つめ合い、確かめるように微笑んだ。
「あっ、土方さんのを先に……」
「あぁ行って来い。俺は部屋で待っている」
斎藤に会釈を残し、夢主は土方の部屋に膳を運んだ。
きっと一人過ごしているはずだ。
「土方さん、お夕飯をお持ちしました……」
「おぅ」
短い返事に従い中に入ると、土方は何かを書き留めていた。
「……土方さんは、大丈夫ですか」
「何がだ」
筆を置くと座る場所を変えて土方は夢主に問い返した。
「いえ、お気持ちというか……淋しそうでしたので……」
「ははっ、そう見えたか。そいつは悪いな、心配させたか」
「いいえ、そんな。ただ副長というお立場は……孤独、なのかなぁと……」
「孤独か……確かにそうだったかも知れねぇな。だが、案外とそうでもねぇぞ!総司はよく傍に居てくれたしな。斎藤も随分と親身になってくれたもんだ。あれでいて気が利く男だぞ、良かったな夢主」
「そっ、そんな……」
斎藤を褒めて夢主に話を振る土方。
亭主の話でもするような素振りに、夢主は手を振って恥らった。
「正直、斎藤が残ってくれるのはありがたい。夢主、辛い思いを強いるな」
「いえ……当然です。斎藤さんはそれを望んでいます。土方さんと共に戦い抜くことを」
「明日、さよならか……」
物寂しく言う土方はとても心静かに落ち着いている。
優しい眼差しを夢主に向けている。
「……でも、土方さんにはまたすぐ会える気がします!」
「ほぅ、戦場でか」
「わかりませんが……沖田さんと土方さんは戦いが始まってからも何度か顔を合わせていました。……だからきっと、機会が巡ってくると思います」
「そうか、そいつは楽しみだな。いい顔で会えるように踏ん張らねぇとな」
「ふふっ、無理は為さらないでくださいね……土方さん……」
「ははっ、哀しむ女が多すぎて困るからな」
「もぅっ!でも……本当にそうですよ、土方さんは……沢山の方に想われているんです……」
「夢主……」
土方の眼差しに顔が熱くなるのを感じた夢主は、目を逸らして腰を浮かせた。
「斎藤さんが待ってくださっているので……これで……」
「あぁ。明日まで、傍に居ることだな。甘えておけ」
……俺の手を離れた女……
土方は口に出来ない想いを胸の中で言葉にした。
優しい眼差しは夢主の幸せを願っている。
「土方さん……ありがとうございます」
夢主は頭を下げ、土方が初めて目にするほどの満たされた微笑みを見せ、部屋を出て行った。
斎藤のもとへ戻ると、二人分の膳が部屋に据えられていた。
膳を重ねて運べるのか、上に乗る大きな握り飯を見て夢主は嬉しく思った。斎藤が自ら往復したのかもしれない。
「お待たせしました。土方さん、喜んでくださいましたよ」
「そうか」
素直に伝える夢主に斎藤も良かったなと頷き返す。
二人並んで手にする握り飯、互いに握って交換し、手の大きさに合わない。相手を想って握られた握り飯だ。
「これを食ったら最後の夜だな」
「最後じゃ……最後じゃありません」
「フッ、そうか。そうだな」
途端に無口になりそれぞれ用意された握り飯を口に運び、手早く食べ終える斎藤はすぐに茶をすすり出した。
「美味い……」
斜陽の中、静かに物哀しい時が過ぎていった。
日が暮れ屯所に残る者達も次々と寝床に入っていく。
夜、斎藤がおもむろに屏風を畳み始め、部屋の隅へ追いやった。
「あ、あの……」
「もう今更、いいだろう」
「あっ……でもあの……」
「そういう事じゃぁない、分かっているさ」
夢主の恐れを感じて宥め、そっと布団を並べた。
知らない者が見ればまるで夫婦の寝床だ。
「もう何も隔てなくとも大丈夫だ。今夜くらいは隣にいろ」
斎藤はフッと笑み布団の上に座り込む。
「斎藤さん……」
同じ気持ちの夢主も優しく微笑んだ。
斎藤が自分で握るより小さい、夢主が作った握り飯。
足りないだろうと二つ余分に作って乗せた。
「お前のはこれだ」
「ふふっ、ありがとうございます」
用意された煮物などを適当に器に取り、茶を淹れて膳に乗せた。
「今では、あのお盆が懐かしいです……」
「フッ、あれか。確かにな」
あれから今日まで、互いによく乗り越えてきたものだ。
不意に見つめ合い、確かめるように微笑んだ。
「あっ、土方さんのを先に……」
「あぁ行って来い。俺は部屋で待っている」
斎藤に会釈を残し、夢主は土方の部屋に膳を運んだ。
きっと一人過ごしているはずだ。
「土方さん、お夕飯をお持ちしました……」
「おぅ」
短い返事に従い中に入ると、土方は何かを書き留めていた。
「……土方さんは、大丈夫ですか」
「何がだ」
筆を置くと座る場所を変えて土方は夢主に問い返した。
「いえ、お気持ちというか……淋しそうでしたので……」
「ははっ、そう見えたか。そいつは悪いな、心配させたか」
「いいえ、そんな。ただ副長というお立場は……孤独、なのかなぁと……」
「孤独か……確かにそうだったかも知れねぇな。だが、案外とそうでもねぇぞ!総司はよく傍に居てくれたしな。斎藤も随分と親身になってくれたもんだ。あれでいて気が利く男だぞ、良かったな夢主」
「そっ、そんな……」
斎藤を褒めて夢主に話を振る土方。
亭主の話でもするような素振りに、夢主は手を振って恥らった。
「正直、斎藤が残ってくれるのはありがたい。夢主、辛い思いを強いるな」
「いえ……当然です。斎藤さんはそれを望んでいます。土方さんと共に戦い抜くことを」
「明日、さよならか……」
物寂しく言う土方はとても心静かに落ち着いている。
優しい眼差しを夢主に向けている。
「……でも、土方さんにはまたすぐ会える気がします!」
「ほぅ、戦場でか」
「わかりませんが……沖田さんと土方さんは戦いが始まってからも何度か顔を合わせていました。……だからきっと、機会が巡ってくると思います」
「そうか、そいつは楽しみだな。いい顔で会えるように踏ん張らねぇとな」
「ふふっ、無理は為さらないでくださいね……土方さん……」
「ははっ、哀しむ女が多すぎて困るからな」
「もぅっ!でも……本当にそうですよ、土方さんは……沢山の方に想われているんです……」
「夢主……」
土方の眼差しに顔が熱くなるのを感じた夢主は、目を逸らして腰を浮かせた。
「斎藤さんが待ってくださっているので……これで……」
「あぁ。明日まで、傍に居ることだな。甘えておけ」
……俺の手を離れた女……
土方は口に出来ない想いを胸の中で言葉にした。
優しい眼差しは夢主の幸せを願っている。
「土方さん……ありがとうございます」
夢主は頭を下げ、土方が初めて目にするほどの満たされた微笑みを見せ、部屋を出て行った。
斎藤のもとへ戻ると、二人分の膳が部屋に据えられていた。
膳を重ねて運べるのか、上に乗る大きな握り飯を見て夢主は嬉しく思った。斎藤が自ら往復したのかもしれない。
「お待たせしました。土方さん、喜んでくださいましたよ」
「そうか」
素直に伝える夢主に斎藤も良かったなと頷き返す。
二人並んで手にする握り飯、互いに握って交換し、手の大きさに合わない。相手を想って握られた握り飯だ。
「これを食ったら最後の夜だな」
「最後じゃ……最後じゃありません」
「フッ、そうか。そうだな」
途端に無口になりそれぞれ用意された握り飯を口に運び、手早く食べ終える斎藤はすぐに茶をすすり出した。
「美味い……」
斜陽の中、静かに物哀しい時が過ぎていった。
日が暮れ屯所に残る者達も次々と寝床に入っていく。
夜、斎藤がおもむろに屏風を畳み始め、部屋の隅へ追いやった。
「あ、あの……」
「もう今更、いいだろう」
「あっ……でもあの……」
「そういう事じゃぁない、分かっているさ」
夢主の恐れを感じて宥め、そっと布団を並べた。
知らない者が見ればまるで夫婦の寝床だ。
「もう何も隔てなくとも大丈夫だ。今夜くらいは隣にいろ」
斎藤はフッと笑み布団の上に座り込む。
「斎藤さん……」
同じ気持ちの夢主も優しく微笑んだ。