102.約束の朝
夢主名前設定
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暁闇の中、屯所に帰った斎藤は静かに部屋へ戻ってきた。
武具は隊士の手を借り外し、既に預けてある。軽くなった体で進むが、心は重い。
冷静さを欠けば余計な緊張を生み、実力を半減させる。斎藤が常日頃、自らに言い聞かせている言葉だ。
己の判断は冷静だった。
斎藤は部屋に置かれた屏風に目をやった。
衝立よりも大きな仕切り、横になる夢主の頭もはみ出ていない。
斎藤は部屋の中を進み、屏風の奥を覗いた。
……安らかだ……
その寝顔を目にし、安堵すると斎藤は寝支度を始めた。
……そうだ、間違ってはいなかった。俺の判断は……
斎藤を守った隊士の行動も同じだろう。
自らの隊の頭を守る、隊士達には当然の考えだ。
平隊士の自分達は替えがきく、だが組長となれば名前も実力も新選組にとってかけがえの無い存在、平生教え込まれ身についた上での行動だった。
斬られた部下は覚悟を持って成すべきことを成した。
斎藤自身も身を挺して対象を守る責務を果たした、それだけだ。
幸い斬られた部下は一命を取り留めている。
……不死身だって、言ったでしょう。
「フッ、そうだったな。そういう事か……」
夢主の寝顔から声が聞こえた気がした。
死を覚悟した瞬間に見えたもの、斎藤は改めて夢主が自分の中でどれほどの存在かを思い知った。
数日後、幹部達は土方に招集されて集まっていた。
王政復古の大号令が発せられたのだ。時局はいよいよといった所まできている。
新選組は明日、二条城へ向かうことが決まった。
その出立に合わせ、夢主と沖田も屯所を出ると決めた。
男達は一堂に集まり、これから行われる話におおよその見当を付けて座っていた。
だが、予想に反して沖田がその集められた幹部達の前で口を開いた。
普段は土方の向かい、皆と同じ側に並んで座るが今日は違う。土方の隣に座して皆を見回した。
「僕、沖田総司はこれから起こる戦いには参加しません」
驚きや戸惑い、突然の宣言に自然とざわめき起こる。
労咳の噂を信じた者にも信じていなかった者にも、沖田の戦線離脱は予想外だった。
「……僕はここで新選組から姿を消します。お気付きでしょうが、僕は病であり、病ではありません」
幹部達のざわめきがおさまり、沖田に視線が集まった。
「理由は説明せずともお分かりでしょう。歴史から姿を消して僕は、夢主ちゃんと江戸を目指します。ただ、病床で臥せっているから皆に姿は見せられないと……僕は姿を見せなくなったと、そういう話にしてください」
この話の先を沖田は皆には告げなかった。
斎藤はもちろん、土方には予め伝えてある話の続き。
新選組と共に移動しつつ療養先を転々と変え、沖田が江戸で落ち着いた頃に、彼は死んだと話を流してくれ……。
そうすれば沖田は新しい人生を始められる。
土方は全て了承していた。
それから土方から幹部の面々に新選組が現在置かれている状況や、今後進むべき道が説明され、散会した。
隊でも一、二を争う実力の持ち主である沖田がここで消える事実、歴史上消えていた事実。
直接告げられた訳ではないが、夢主の存在が説明する現実だ。
今までも繰り返された、ありようも無い未来の実現。
皆、驚きを隠せず呆然としていた。
武具は隊士の手を借り外し、既に預けてある。軽くなった体で進むが、心は重い。
冷静さを欠けば余計な緊張を生み、実力を半減させる。斎藤が常日頃、自らに言い聞かせている言葉だ。
己の判断は冷静だった。
斎藤は部屋に置かれた屏風に目をやった。
衝立よりも大きな仕切り、横になる夢主の頭もはみ出ていない。
斎藤は部屋の中を進み、屏風の奥を覗いた。
……安らかだ……
その寝顔を目にし、安堵すると斎藤は寝支度を始めた。
……そうだ、間違ってはいなかった。俺の判断は……
斎藤を守った隊士の行動も同じだろう。
自らの隊の頭を守る、隊士達には当然の考えだ。
平隊士の自分達は替えがきく、だが組長となれば名前も実力も新選組にとってかけがえの無い存在、平生教え込まれ身についた上での行動だった。
斬られた部下は覚悟を持って成すべきことを成した。
斎藤自身も身を挺して対象を守る責務を果たした、それだけだ。
幸い斬られた部下は一命を取り留めている。
……不死身だって、言ったでしょう。
「フッ、そうだったな。そういう事か……」
夢主の寝顔から声が聞こえた気がした。
死を覚悟した瞬間に見えたもの、斎藤は改めて夢主が自分の中でどれほどの存在かを思い知った。
数日後、幹部達は土方に招集されて集まっていた。
王政復古の大号令が発せられたのだ。時局はいよいよといった所まできている。
新選組は明日、二条城へ向かうことが決まった。
その出立に合わせ、夢主と沖田も屯所を出ると決めた。
男達は一堂に集まり、これから行われる話におおよその見当を付けて座っていた。
だが、予想に反して沖田がその集められた幹部達の前で口を開いた。
普段は土方の向かい、皆と同じ側に並んで座るが今日は違う。土方の隣に座して皆を見回した。
「僕、沖田総司はこれから起こる戦いには参加しません」
驚きや戸惑い、突然の宣言に自然とざわめき起こる。
労咳の噂を信じた者にも信じていなかった者にも、沖田の戦線離脱は予想外だった。
「……僕はここで新選組から姿を消します。お気付きでしょうが、僕は病であり、病ではありません」
幹部達のざわめきがおさまり、沖田に視線が集まった。
「理由は説明せずともお分かりでしょう。歴史から姿を消して僕は、夢主ちゃんと江戸を目指します。ただ、病床で臥せっているから皆に姿は見せられないと……僕は姿を見せなくなったと、そういう話にしてください」
この話の先を沖田は皆には告げなかった。
斎藤はもちろん、土方には予め伝えてある話の続き。
新選組と共に移動しつつ療養先を転々と変え、沖田が江戸で落ち着いた頃に、彼は死んだと話を流してくれ……。
そうすれば沖田は新しい人生を始められる。
土方は全て了承していた。
それから土方から幹部の面々に新選組が現在置かれている状況や、今後進むべき道が説明され、散会した。
隊でも一、二を争う実力の持ち主である沖田がここで消える事実、歴史上消えていた事実。
直接告げられた訳ではないが、夢主の存在が説明する現実だ。
今までも繰り返された、ありようも無い未来の実現。
皆、驚きを隠せず呆然としていた。