100.最初で最後の想い
夢主名前設定
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夢主の背に大きな黒い半纏がかけられ、途端に暖かさが増す。
振り返ると斎藤はそのまま何事も無かったかのように腰を下ろした。
「俺は要らないんでな、使え」
「はぃ、ありがとうございます……」
斎藤さんの半纏……
羽織ると大きくて腕がすっぽりと入ってしまう。
夢主は肩に掛けたまま暖かさに包まれた。
そっと目を閉じて、葛篭の中で染み付いた斎藤の残り香とも言える布に染み付いた匂いを感じ、仄かに頬を染めた。
壬生の屯所の頃から、夢主が淋しさを感じた時に甘えていた斎藤の匂い。
目を閉じていると、香りと共にその時の空気や感情が思い起こされる。
新選組が総出で出陣し、壬生の屯所が空になった日にひとり斎藤の布団に潜り込んだ夜、酒に酔って甘えた夜、そして今夜のようにそっと半纏を掛けてくれた夜。
目を閉じたまま顔をうずめ「ふふっ」と小さく漏らす夢主に、斎藤はそっと目を向けた。
「フッ、臭うか」
「そっ、そうじゃありませんっ!斎藤さんの香りが……」
俺の香り……
首を傾ける斎藤から、夢主は頬を赤らめて顔を逸らした。
「斎藤さんの香りが好きなんです……」
「っ、変なことを言うな」
思わぬ言葉に斎藤の頬も俄かに火照る。
即座に返された言葉は僅かに声が上ずっていた。
「すみません……」
「だが、俺もお前の匂いは好きだぞ」
「えっ」
夢主は斎藤の半纏で思わず顔を隠してしまった。
「お互い様だな」
仕返しではなく素直な本音に、夢主は照れた顔を隠したまま頷いた。
斎藤は目を逸らすと冬空に細く輝く月に顔を向けた。
縮こまった夢主が半纏から顔を覗かせて見上げると、三日月を鏡に映したような、細く尖った月の明りが斎藤の瞳を照らしていた。
細い月であってもその輝きは全く痩せてはおらず、光輝を放っている。
斎藤の瞳、日の下であっても夢主は引き込まれそうになってしまう。
行灯の柔らかく揺らぐ光を受ける時は温かく、魅惑の色に輝いて夢主を惹き付ける。
そして月下に輝く斎藤の瞳は、何よりも美しい光だった。
「斎藤さんの瞳は……細い月の下でも黄金色に染まるんですね。新月には……どんな色に変わるんですか」
「んっ?」
思わず目を合わせる斎藤、夢主はその瞳にハッと息を呑んだ。
月明かりの当たらない片側の瞳だけ、いつもの枯茶色と黄金色の間で妖しく揺らめき輝いていた。もうひとつの瞳は黄金色に……。
「自分では分からんからな、新月にどう見えるか、お前が確かめてみろ」
夢主は目を大きく開いたまま頷いた。
今まで見たことが無い斎藤の瞳の色に、胸の鼓動が速まっていく。
……失いたく……無い……
「あっ……あの……ひとつ、我が儘を言ってもいいですか……」
「我が儘」
何だ……夢主を見つめる斎藤の瞳はとても真っ直ぐで誠実の一色を示している。
困り事ならば、遠慮はするなと瞳が語っている。
「ずっと言っちゃいけないと思ってました……でも、お願いです……」
斎藤は目を離さず、黒く長い睫を震わさんと懸命に気持ちを抑えて己を見上げる夢主を見つめていた。
「迎えに来てください……」
胸の鼓動が体中に響き渡るようだ。
夢主は震えだしそうな己の手を握り締め、言葉を紡いだ。
振り返ると斎藤はそのまま何事も無かったかのように腰を下ろした。
「俺は要らないんでな、使え」
「はぃ、ありがとうございます……」
斎藤さんの半纏……
羽織ると大きくて腕がすっぽりと入ってしまう。
夢主は肩に掛けたまま暖かさに包まれた。
そっと目を閉じて、葛篭の中で染み付いた斎藤の残り香とも言える布に染み付いた匂いを感じ、仄かに頬を染めた。
壬生の屯所の頃から、夢主が淋しさを感じた時に甘えていた斎藤の匂い。
目を閉じていると、香りと共にその時の空気や感情が思い起こされる。
新選組が総出で出陣し、壬生の屯所が空になった日にひとり斎藤の布団に潜り込んだ夜、酒に酔って甘えた夜、そして今夜のようにそっと半纏を掛けてくれた夜。
目を閉じたまま顔をうずめ「ふふっ」と小さく漏らす夢主に、斎藤はそっと目を向けた。
「フッ、臭うか」
「そっ、そうじゃありませんっ!斎藤さんの香りが……」
俺の香り……
首を傾ける斎藤から、夢主は頬を赤らめて顔を逸らした。
「斎藤さんの香りが好きなんです……」
「っ、変なことを言うな」
思わぬ言葉に斎藤の頬も俄かに火照る。
即座に返された言葉は僅かに声が上ずっていた。
「すみません……」
「だが、俺もお前の匂いは好きだぞ」
「えっ」
夢主は斎藤の半纏で思わず顔を隠してしまった。
「お互い様だな」
仕返しではなく素直な本音に、夢主は照れた顔を隠したまま頷いた。
斎藤は目を逸らすと冬空に細く輝く月に顔を向けた。
縮こまった夢主が半纏から顔を覗かせて見上げると、三日月を鏡に映したような、細く尖った月の明りが斎藤の瞳を照らしていた。
細い月であってもその輝きは全く痩せてはおらず、光輝を放っている。
斎藤の瞳、日の下であっても夢主は引き込まれそうになってしまう。
行灯の柔らかく揺らぐ光を受ける時は温かく、魅惑の色に輝いて夢主を惹き付ける。
そして月下に輝く斎藤の瞳は、何よりも美しい光だった。
「斎藤さんの瞳は……細い月の下でも黄金色に染まるんですね。新月には……どんな色に変わるんですか」
「んっ?」
思わず目を合わせる斎藤、夢主はその瞳にハッと息を呑んだ。
月明かりの当たらない片側の瞳だけ、いつもの枯茶色と黄金色の間で妖しく揺らめき輝いていた。もうひとつの瞳は黄金色に……。
「自分では分からんからな、新月にどう見えるか、お前が確かめてみろ」
夢主は目を大きく開いたまま頷いた。
今まで見たことが無い斎藤の瞳の色に、胸の鼓動が速まっていく。
……失いたく……無い……
「あっ……あの……ひとつ、我が儘を言ってもいいですか……」
「我が儘」
何だ……夢主を見つめる斎藤の瞳はとても真っ直ぐで誠実の一色を示している。
困り事ならば、遠慮はするなと瞳が語っている。
「ずっと言っちゃいけないと思ってました……でも、お願いです……」
斎藤は目を離さず、黒く長い睫を震わさんと懸命に気持ちを抑えて己を見上げる夢主を見つめていた。
「迎えに来てください……」
胸の鼓動が体中に響き渡るようだ。
夢主は震えだしそうな己の手を握り締め、言葉を紡いだ。