100.最初で最後の想い
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夢主は酌をする為、一人ずつ回り始めた。
落ち着いて話すのはこれが最後かもしれない。そんな思いで丁寧に酒を注いでいく。
「原田さん……」
「よぉ、よく戻ってきたな!お前の墓前で手ぇ合わせちまったぜ」
「ふふっ、ご免なさい」
「お前、藤堂のこと……」
あの夜、あの場で聞こえた叫び声は夢主のものに違いない。
原田が訊ねると夢主は小さく頭を動かした。原田の隣で永倉も夢主を見つめている。
「私は何も知りません」
「そうか……でも良かったぜ本当、可愛い妹が無事でよ」
「原田さん……ありがとうございます。でも本当の家族を守れるのは原田さんだけです……」
「夢主……」
「お子さんと奥さん、それにお腹の赤ちゃん……いらっしゃるのですよね。どうか守ってあげてください、おそばで……」
どうした……急に……
原田は疑問を抱くが、いつものように妹分の頭に大きな手を乗せた。
「あぁ」
温かい手に似合う温かな笑顔に夢主も微笑み返し、次に永倉と向き直った。
「永倉さん……永倉さんも生まれたばかりの赤ちゃんがいるんですよね」
「おぉっ、よく知ってるな……あぁまだ顔は見てねぇんだがな、薄情な父親だよな」
そう言いながらも幸せそうに目を細める永倉はすっかり父親の顔だ。
今すぐ我が子を抱きに行きたい気持ちを堪え、ここにいるのだろう。
「ふふっ、何でもお見通しですっ。おめでとうございます。……おそばには居られないのですね……」
「あぁ、出来ればずっと居てやりてぇが、そうもいかなくてな……」
……確か、産後の肥立ちが悪くて奥さんはお亡くなりに……もうすぐ……
告げられようも無い。
ここで永倉が戦線を離れれば、それだけで新選組にまつわる歴史は大きく変わってしまう。
永倉の功績はそれほどまでに大きかった。
「永倉さんはお忙しいですね、新選組でも大切なお立場に……でも、少しでも、奥さんのもとへ帰ってあげてください、きっと不安で一杯です……」
「そうだな……淋しい思いさせちまってるだろうな」
そう話す永倉の顔こそ淋しそうだった。
辛い話をしてる自覚はある。それでもせずにはいられなかった。
「明日少し顔を出してくるか、すまんな夢主、お前にまで心配掛けて」
「いえ、私こそ……ずっと心配お掛けしてすみませんでした」
ふっ……永倉も小さく微笑んで夢主の頭を撫でた。
夢主が席を移ると原田と永倉は互いの家族の話を始めた。
愛しい妻とわが子、それにまだ見ぬ家族の話を。
この宴で沖田は井上の横で懐かしい話に花を咲かせていた。
江戸へ向かうと決めたら、無意識に江戸や日野を思い出してしまう。
そして間もなく訪れる別れを覚悟し、世話になった者達と酒を酌み交わしているのだ。
「夢主ちゃん、お酌に来てくれたんですか、ありがとうございます」
「沖田さん、楽しそうですね!源さん……最初にお食事持ってきてくださった時のこと、今でもよく覚えていますよ」
「あぁ……あの時は辛かっただろ、よく頑張ったね」
井上の優しい笑顔は夢主に安心感を与えてくれる。
甘えるような気持ちで頷き、酌をした。
酌は進み、やがて斎藤の隣に戻った。
斎藤は夢主から酒を受け、自らも注ぎ返してやる。
二人は揃って座敷中を見回した。
静かに皆の姿を眺める。まるで何もなかったあの頃のように皆、楽しげに笑っている。
斎藤はふと、夢主が同じ人物達を交互に見ていることに気が付いた。
時折他の者にも目を向けるが、明らかに眼差しが異なり、見つめる時間が長い人物がいる。
夢主の視線に注視する斎藤に気付き、土方も視線の先を追い始めた。
「まさか、これから死ぬ者達……あの人が、あいつも……嘘だろう」
落ち着いて話すのはこれが最後かもしれない。そんな思いで丁寧に酒を注いでいく。
「原田さん……」
「よぉ、よく戻ってきたな!お前の墓前で手ぇ合わせちまったぜ」
「ふふっ、ご免なさい」
「お前、藤堂のこと……」
あの夜、あの場で聞こえた叫び声は夢主のものに違いない。
原田が訊ねると夢主は小さく頭を動かした。原田の隣で永倉も夢主を見つめている。
「私は何も知りません」
「そうか……でも良かったぜ本当、可愛い妹が無事でよ」
「原田さん……ありがとうございます。でも本当の家族を守れるのは原田さんだけです……」
「夢主……」
「お子さんと奥さん、それにお腹の赤ちゃん……いらっしゃるのですよね。どうか守ってあげてください、おそばで……」
どうした……急に……
原田は疑問を抱くが、いつものように妹分の頭に大きな手を乗せた。
「あぁ」
温かい手に似合う温かな笑顔に夢主も微笑み返し、次に永倉と向き直った。
「永倉さん……永倉さんも生まれたばかりの赤ちゃんがいるんですよね」
「おぉっ、よく知ってるな……あぁまだ顔は見てねぇんだがな、薄情な父親だよな」
そう言いながらも幸せそうに目を細める永倉はすっかり父親の顔だ。
今すぐ我が子を抱きに行きたい気持ちを堪え、ここにいるのだろう。
「ふふっ、何でもお見通しですっ。おめでとうございます。……おそばには居られないのですね……」
「あぁ、出来ればずっと居てやりてぇが、そうもいかなくてな……」
……確か、産後の肥立ちが悪くて奥さんはお亡くなりに……もうすぐ……
告げられようも無い。
ここで永倉が戦線を離れれば、それだけで新選組にまつわる歴史は大きく変わってしまう。
永倉の功績はそれほどまでに大きかった。
「永倉さんはお忙しいですね、新選組でも大切なお立場に……でも、少しでも、奥さんのもとへ帰ってあげてください、きっと不安で一杯です……」
「そうだな……淋しい思いさせちまってるだろうな」
そう話す永倉の顔こそ淋しそうだった。
辛い話をしてる自覚はある。それでもせずにはいられなかった。
「明日少し顔を出してくるか、すまんな夢主、お前にまで心配掛けて」
「いえ、私こそ……ずっと心配お掛けしてすみませんでした」
ふっ……永倉も小さく微笑んで夢主の頭を撫でた。
夢主が席を移ると原田と永倉は互いの家族の話を始めた。
愛しい妻とわが子、それにまだ見ぬ家族の話を。
この宴で沖田は井上の横で懐かしい話に花を咲かせていた。
江戸へ向かうと決めたら、無意識に江戸や日野を思い出してしまう。
そして間もなく訪れる別れを覚悟し、世話になった者達と酒を酌み交わしているのだ。
「夢主ちゃん、お酌に来てくれたんですか、ありがとうございます」
「沖田さん、楽しそうですね!源さん……最初にお食事持ってきてくださった時のこと、今でもよく覚えていますよ」
「あぁ……あの時は辛かっただろ、よく頑張ったね」
井上の優しい笑顔は夢主に安心感を与えてくれる。
甘えるような気持ちで頷き、酌をした。
酌は進み、やがて斎藤の隣に戻った。
斎藤は夢主から酒を受け、自らも注ぎ返してやる。
二人は揃って座敷中を見回した。
静かに皆の姿を眺める。まるで何もなかったあの頃のように皆、楽しげに笑っている。
斎藤はふと、夢主が同じ人物達を交互に見ていることに気が付いた。
時折他の者にも目を向けるが、明らかに眼差しが異なり、見つめる時間が長い人物がいる。
夢主の視線に注視する斎藤に気付き、土方も視線の先を追い始めた。
「まさか、これから死ぬ者達……あの人が、あいつも……嘘だろう」