100.最初で最後の想い
夢主名前設定
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「こんなに早くか」
頷く夢主に沖田も顔色を変えた。
「まさかっ」
「はぃ……」
「行くのか」
もう一度ゆっくりと頷いた。
行く。それは新選組から離れること。
下手をすれば永久の別れとなる。
「今なら安全に江戸に……女一人でも行けると思うんです」
突然の申し出に沖田は身を乗り出していた。
心の準備はしていたが、いざとなると動揺に襲われる。
「江戸に……本当に一人で行く気ですか、せめて籠でも……旅籠でも手配しましょう!!新選組の使いと書状を持っていけば誰も恐れを成して手出し出来ませんよ!」
「馬鹿か君は、女一人、そんな書状を持っていれば人質にしてくださいと見せびらかしているようなものだろう」
時勢を考えれば大いにありえる。
二人の会話が夢主の決意に不安を広げる。
「そっか……じゃぁ、女一人でなければ……例えば護衛が一人いれば話が違うというわけですね!」
「まぁそうなるがな、っておい、どこへ行く」
「すみません、ちょっと!」
沖田は突然弾けるように立ち上がって部屋を飛び出していった。
「沖田さん……」
「フン、放っておけ。それより、出て行くということは戦が始まるのか。年明けを待たずにか」
「そうですね……難しいお話なんですが……十二月に入ると大きな政変が起こるんです。新選組は将軍と大坂へ……それから立て続けに様々な出来事が起きて……」
「沖田君は」
席を外した沖田。
病と闘うはずだった彼が実際はどう動いていたのか。斎藤が訊ねると夢主は首を振った。
「どの戦いにも参加していません……既に刀を持って動ける状態では無かったと思います。転々と療養先を変えて……」
「そうか」
斎藤は少し困ったように腕組みをした。
夢主と沖田、二人のこれからを決めねばらならない。新選組幹部としても、一人の男としても、考えねばならなかった。
「まだ、時はあるのだろう」
「はい。でも出来ればこの半月のうちに……出発したいです」
ここを去りたいと願い出るのは、混乱が始まれば自分の存在が斎藤達の首を絞める事態にもなり兼ねないから。
その前に離れるしかない。
「斎藤さん……」
「なんだ」
「もし、聞きたいことがあれば……旅立つ前にお話します。お好きなだけ……斎藤さんになら……」
段々弱々しくなる言葉に斎藤は苦笑いを浮かべた。
「フッ、参ったな。俺達は相当苦しい立場になるというわけか」
「そのっ……」
「いいさ、時代の流れくらい分かっている。お前に言われなくとも、な。しかし俺は不死身なんだろう」
得意気に首を傾げる斎藤を、夢主は小さく笑った。
安心させてくれる、誇りに満ちた凛々しい顔を。
「その通りです、斎藤さんは不死身です」
「それなら一安心だ」
斎藤の一言に返す笑顔が切なくなってしまい、夢主は笑顔を浮かべたまま、すっと俯いた。
再会したばかりなのに、また離れなくてはならない。
出て行けば次はいつ会えるのか、何年後かも分からなければ、もう一度会えるのかすら分からない。
「一つだけ聞かせて欲しい」
「なんでしょうか」
答えられる話なら、なんでも……
不安に染まる顔ながら決意を持って見つめ返すが、出てきた問いに夢主は固まった。
「俺が出会うという女がいるのだろう。その女の名を教えて欲しい」
「えっ……」
思いも掛けない質問。
夢主の顔色がますます悪くなっていく。
「他意はない、ただ名前を知っていればさっさと終わらせることが出来るだろう」
「どういう……」
「会って選ぶというのなら、会ってしまえばそこですぐに判断出来よう。誰か分からぬままずるずる時を過ごすより良い」
「……でも……」
淡い出会いや特別な何かが起きるかもしれない……
名を告げればそれを飛ばしてしまうかもしれない。
……でも、出来るなら……何も起きないで欲しい……
卑しい願いだろうか、夢主は戸惑った。
先程から陶器を握ったままの手に力が入る。
「名を聞くのは俺の判断だ。俺の希望で、選ぶのも俺だ。ならば問題ないだろう」
「ときお……時尾さんです。高木時尾……」
「高木時尾……心得た」
斎藤の声でその名を聞いてしまい、苦しくて居た堪れない想いに、胸を押さえて再び俯いてしまった。
頷く夢主に沖田も顔色を変えた。
「まさかっ」
「はぃ……」
「行くのか」
もう一度ゆっくりと頷いた。
行く。それは新選組から離れること。
下手をすれば永久の別れとなる。
「今なら安全に江戸に……女一人でも行けると思うんです」
突然の申し出に沖田は身を乗り出していた。
心の準備はしていたが、いざとなると動揺に襲われる。
「江戸に……本当に一人で行く気ですか、せめて籠でも……旅籠でも手配しましょう!!新選組の使いと書状を持っていけば誰も恐れを成して手出し出来ませんよ!」
「馬鹿か君は、女一人、そんな書状を持っていれば人質にしてくださいと見せびらかしているようなものだろう」
時勢を考えれば大いにありえる。
二人の会話が夢主の決意に不安を広げる。
「そっか……じゃぁ、女一人でなければ……例えば護衛が一人いれば話が違うというわけですね!」
「まぁそうなるがな、っておい、どこへ行く」
「すみません、ちょっと!」
沖田は突然弾けるように立ち上がって部屋を飛び出していった。
「沖田さん……」
「フン、放っておけ。それより、出て行くということは戦が始まるのか。年明けを待たずにか」
「そうですね……難しいお話なんですが……十二月に入ると大きな政変が起こるんです。新選組は将軍と大坂へ……それから立て続けに様々な出来事が起きて……」
「沖田君は」
席を外した沖田。
病と闘うはずだった彼が実際はどう動いていたのか。斎藤が訊ねると夢主は首を振った。
「どの戦いにも参加していません……既に刀を持って動ける状態では無かったと思います。転々と療養先を変えて……」
「そうか」
斎藤は少し困ったように腕組みをした。
夢主と沖田、二人のこれからを決めねばらならない。新選組幹部としても、一人の男としても、考えねばならなかった。
「まだ、時はあるのだろう」
「はい。でも出来ればこの半月のうちに……出発したいです」
ここを去りたいと願い出るのは、混乱が始まれば自分の存在が斎藤達の首を絞める事態にもなり兼ねないから。
その前に離れるしかない。
「斎藤さん……」
「なんだ」
「もし、聞きたいことがあれば……旅立つ前にお話します。お好きなだけ……斎藤さんになら……」
段々弱々しくなる言葉に斎藤は苦笑いを浮かべた。
「フッ、参ったな。俺達は相当苦しい立場になるというわけか」
「そのっ……」
「いいさ、時代の流れくらい分かっている。お前に言われなくとも、な。しかし俺は不死身なんだろう」
得意気に首を傾げる斎藤を、夢主は小さく笑った。
安心させてくれる、誇りに満ちた凛々しい顔を。
「その通りです、斎藤さんは不死身です」
「それなら一安心だ」
斎藤の一言に返す笑顔が切なくなってしまい、夢主は笑顔を浮かべたまま、すっと俯いた。
再会したばかりなのに、また離れなくてはならない。
出て行けば次はいつ会えるのか、何年後かも分からなければ、もう一度会えるのかすら分からない。
「一つだけ聞かせて欲しい」
「なんでしょうか」
答えられる話なら、なんでも……
不安に染まる顔ながら決意を持って見つめ返すが、出てきた問いに夢主は固まった。
「俺が出会うという女がいるのだろう。その女の名を教えて欲しい」
「えっ……」
思いも掛けない質問。
夢主の顔色がますます悪くなっていく。
「他意はない、ただ名前を知っていればさっさと終わらせることが出来るだろう」
「どういう……」
「会って選ぶというのなら、会ってしまえばそこですぐに判断出来よう。誰か分からぬままずるずる時を過ごすより良い」
「……でも……」
淡い出会いや特別な何かが起きるかもしれない……
名を告げればそれを飛ばしてしまうかもしれない。
……でも、出来るなら……何も起きないで欲しい……
卑しい願いだろうか、夢主は戸惑った。
先程から陶器を握ったままの手に力が入る。
「名を聞くのは俺の判断だ。俺の希望で、選ぶのも俺だ。ならば問題ないだろう」
「ときお……時尾さんです。高木時尾……」
「高木時尾……心得た」
斎藤の声でその名を聞いてしまい、苦しくて居た堪れない想いに、胸を押さえて再び俯いてしまった。