100.最初で最後の想い
夢主名前設定
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わだかまりが消え、すっかり話し込んで笑い声を響かせていると、障子の向こうから沖田の苦しそうな声が聞こえてきた。物を抱えた影が見える。
「沖田さん!今、開けます!」
慌てて障子を開くと夢主の小さな鏡台や半纏に丹前、預けた荷物を一度に抱えて沖田が入ってきた。
沖田に借りていた小さな稽古着も一緒だ。
「ありがとうございます」
「いえいえ、お預かりするくらいお安いご用ですから」
沖田は荷物を置くと当然のように腰を下ろした。
斎藤に目を向けると、先程感じた不機嫌さとは随分違う表情をしている。
「んっ、斎藤さんやけに嬉しそうですね。夢主ちゃんが戻ってそんなに嬉しいですか」
「フン」
沖田さんにも内緒ですよ……
夢主の言葉に些細な優越感が生まれる。
斎藤は沖田に一瞥をくれた。
「何でもないさ」
「え~気になりますねぇ、まぁいいですけど」
「それより先程は随分と勝手なことをしてくれたな」
「えっ、何がでしょうか」
心当たりはこれっぽっちもないと首をひねる沖田。
悪意は無いのかただの馬鹿なのか、斎藤は大袈裟に太い息を吐いた。
「沖田君、君のせいで段取りが台無しだ」
「段取りですか」
「あぁ。静かな屯所の中を大声で呼びながらやって来て、皆にぺらぺらと余計なことを」
「あぁっ、先程の話ですか!いいじゃないですか、説明の手間が省けたでしょう!」
悪びれる様子も無くカラカラと笑う沖田に斎藤は呆れた目を向けた。
意図的ではないが謝る気もないとはこの男らしい。
「まぁいい。確かに芝居を打つ必要も無くなった」
「私は少し残念ですけど……」
「えっ?」
「いえっ、何でも……」
夢主が小声で漏らした本音を沖田は聞き返すが、笑顔で誤魔化した。
斎藤が惚れこんで頭を下げてくれた……
斎藤の口からいかにもと説明される言葉を期待していた夢主は残念そうに俯いた。
沖田の説明を皆は分かった分かったと適当に受け止めていた。
悪くは無いが、正直もの淋しい。
「時に夢主、お前この屯所を知らんのか」
塀沿いに歩く時から造りに感嘆する夢主に違和感を覚え、屯所に対する言動に気を払っていた。
門に辿り着いた時に感心して褒め称え、くぐる時には見上げて溜息を漏らし、中に入ると立ち止まって辺りを見回した。
壬生や西本願寺でも辺りを見回すことはあったが、明らかに反応が異なった。
「はぃ……壬生や西本願寺はよく知っていたんですけど、この屯所のことは何も……」
斎藤と沖田は怪訝な面持ちで目を合わせる。
それはつまり、夢主は先の世でこの屯所を見ていない。その事実が示す今後とは。
「未来では大きな建物が出来て、この辺りの古い建物はほとんど残らなかったんです。……場所も分からなくて……」
「場所もか」
斎藤は驚いて夢主の言葉を遮った。
「はい。ここじゃないか、って言われてる場所が幾つかあったんですけど、それが全部屯所で間違いなかったんだって分かりました。とっても広いですね、この新しい屯所……だから、未来に伝わる場所、どこの跡地も実際の場所で合ってたんだなって」
「そっか……残って無いのか……こんな見事なのに残念だなぁ」
沖田は部屋を見回し残念がった。
金も掛かっているが職人たちの技術がふんだんに使われている。
そう言ったものに執着の無い沖田ですら惜しいと思う程だ。
「でも今はこの立派な屯所での時を楽しみましょう、ねっ!もうすぐ年の暮れでしょう、今年の年明けに言ってた皆のお祝い、今度はこの屯所で豪華にしませんか」
「祝いか。そういえば流れたままだったな。用意を言いつけていたか。すまなかった」
「いえ、いろいろ起こり過ぎてそれどころでは……それで、その新年なんですけど……せっかく戻って来られたばかりなんですけど私、考えなくちゃいけない時期だなって」
「何をですか」
きょとんと首を傾げる沖田に対し、斎藤は眉を寄せて厳しい顔を見せた。
「沖田さん!今、開けます!」
慌てて障子を開くと夢主の小さな鏡台や半纏に丹前、預けた荷物を一度に抱えて沖田が入ってきた。
沖田に借りていた小さな稽古着も一緒だ。
「ありがとうございます」
「いえいえ、お預かりするくらいお安いご用ですから」
沖田は荷物を置くと当然のように腰を下ろした。
斎藤に目を向けると、先程感じた不機嫌さとは随分違う表情をしている。
「んっ、斎藤さんやけに嬉しそうですね。夢主ちゃんが戻ってそんなに嬉しいですか」
「フン」
沖田さんにも内緒ですよ……
夢主の言葉に些細な優越感が生まれる。
斎藤は沖田に一瞥をくれた。
「何でもないさ」
「え~気になりますねぇ、まぁいいですけど」
「それより先程は随分と勝手なことをしてくれたな」
「えっ、何がでしょうか」
心当たりはこれっぽっちもないと首をひねる沖田。
悪意は無いのかただの馬鹿なのか、斎藤は大袈裟に太い息を吐いた。
「沖田君、君のせいで段取りが台無しだ」
「段取りですか」
「あぁ。静かな屯所の中を大声で呼びながらやって来て、皆にぺらぺらと余計なことを」
「あぁっ、先程の話ですか!いいじゃないですか、説明の手間が省けたでしょう!」
悪びれる様子も無くカラカラと笑う沖田に斎藤は呆れた目を向けた。
意図的ではないが謝る気もないとはこの男らしい。
「まぁいい。確かに芝居を打つ必要も無くなった」
「私は少し残念ですけど……」
「えっ?」
「いえっ、何でも……」
夢主が小声で漏らした本音を沖田は聞き返すが、笑顔で誤魔化した。
斎藤が惚れこんで頭を下げてくれた……
斎藤の口からいかにもと説明される言葉を期待していた夢主は残念そうに俯いた。
沖田の説明を皆は分かった分かったと適当に受け止めていた。
悪くは無いが、正直もの淋しい。
「時に夢主、お前この屯所を知らんのか」
塀沿いに歩く時から造りに感嘆する夢主に違和感を覚え、屯所に対する言動に気を払っていた。
門に辿り着いた時に感心して褒め称え、くぐる時には見上げて溜息を漏らし、中に入ると立ち止まって辺りを見回した。
壬生や西本願寺でも辺りを見回すことはあったが、明らかに反応が異なった。
「はぃ……壬生や西本願寺はよく知っていたんですけど、この屯所のことは何も……」
斎藤と沖田は怪訝な面持ちで目を合わせる。
それはつまり、夢主は先の世でこの屯所を見ていない。その事実が示す今後とは。
「未来では大きな建物が出来て、この辺りの古い建物はほとんど残らなかったんです。……場所も分からなくて……」
「場所もか」
斎藤は驚いて夢主の言葉を遮った。
「はい。ここじゃないか、って言われてる場所が幾つかあったんですけど、それが全部屯所で間違いなかったんだって分かりました。とっても広いですね、この新しい屯所……だから、未来に伝わる場所、どこの跡地も実際の場所で合ってたんだなって」
「そっか……残って無いのか……こんな見事なのに残念だなぁ」
沖田は部屋を見回し残念がった。
金も掛かっているが職人たちの技術がふんだんに使われている。
そう言ったものに執着の無い沖田ですら惜しいと思う程だ。
「でも今はこの立派な屯所での時を楽しみましょう、ねっ!もうすぐ年の暮れでしょう、今年の年明けに言ってた皆のお祝い、今度はこの屯所で豪華にしませんか」
「祝いか。そういえば流れたままだったな。用意を言いつけていたか。すまなかった」
「いえ、いろいろ起こり過ぎてそれどころでは……それで、その新年なんですけど……せっかく戻って来られたばかりなんですけど私、考えなくちゃいけない時期だなって」
「何をですか」
きょとんと首を傾げる沖田に対し、斎藤は眉を寄せて厳しい顔を見せた。