100.最初で最後の想い
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「もしかして、斎藤さん……やきもち」
夢主に顔は見えないが斎藤は瞬時に眉根を寄せ、これまでに無いほど深い皺を作っている。
「阿呆臭い」
壁に向かって話す斎藤の声が沈んで聞こえる。
良くない感情が声を覆っていた。
「斎藤さん、陶器出してください。……特別なんですよ、斎藤さんにお渡しした物は」
もしや皆に同じ桜の陶器を配った事を気にしているのでは。
そう感じた夢主は声を殺してクスリと笑った。
「特別だと」
「はぃ」
ようやく振り向いてくれた……
夢主は嬉しさを溢れさせ、満面の笑みで頷いた。
斎藤はその笑顔に諭されるよう臍を曲げている己に気付き、気を取り直して懐から小さな花びらの陶器を取り出した。
「持っていてくださったんですね!嬉しいです……」
「フン」
しみじみと懐から出てきた感激を噛みしめる。
こちらに向き直ってくれた斎藤に近付き、夢主は自分の花びらを差し出した。
「私と斎藤さんのだけ同じ形なんです。同じというか対称的というか……その、花びらにしては少し変わった形だと思いませんか」
「言われて見れば確かに……慣れない故の造形だと思っていたが。違うのか」
ふふっと夢主はにこやかに笑い、そっと手を近づけた。
「ふたつを合わせると……猪目の形になるんです。ほら……」
「ほぅ、確かに。猪目のようだな。まるで蛤の貝合わせだな」
「蛤?」
「知らんか、貝の左右を揃える遊びだ。公家や大名の嫁入り道具にもなっている」
話に首を傾げながら見上げると、斎藤はいつもの目の色で、声からも不機嫌さは消えていた。
ほぅっと安堵し夢主も表情を和らげる。
「聞いたことありますけど……本当だ、少し似ているかもですね、ふふっ」
「フン、蛤は女の操の象徴とも言うらしいな」
「えっ、そんな意味はっ、知りませんっ……」
蛤の説明に顔を赤らめて手を引っ込めるが、斎藤はもう一度合わせてみろと促した。
面白さ半分、話を続けたいのが半分だ。
「猪目か、この形に何か意味があるのか」
意味があるのかと聞かれ夢主が頬の色が変わったのを確信し、斎藤はフッと笑んで続きを待った。
「あの、私のいた頃には少し特別な意味が……」
「ほぅ、話してみろ」
夢主は真っ赤な顔で、当たり障り無く説明するにはどうすれば良いか考えた。
猪目はいわばハートの形だ。愛の象徴だなどとは流石に恥ずかしくて伝えられない。
「こ……心の形です。外国から伝わった意味なのですが、心の臓を表したり、心を表す形だったり、だから少し特別かなと思って……半分にしたら花びらみたいだと思い付いたので……」
「心、成る程な」
夢主の物と己の物が隣り合って並ぶとひとつの心に……
斎藤はその意味に気付いたのか僅かに表情を変えると陶器を引っ込め、懐にしまいこんだ。
「意味は分かった。連中の物とは」
「皆さんにお渡ししたのは、ただの花びらの形です。頑張ってもくっつきませんよ、ふふっ。沖田さんのも違うんです……だから、内緒ですよ」
「フッ……」
斎藤は目を逸らすがつい頬を緩めた。
夢主はそれに気付き、陶器を両手で握りしめた。
夢主に顔は見えないが斎藤は瞬時に眉根を寄せ、これまでに無いほど深い皺を作っている。
「阿呆臭い」
壁に向かって話す斎藤の声が沈んで聞こえる。
良くない感情が声を覆っていた。
「斎藤さん、陶器出してください。……特別なんですよ、斎藤さんにお渡しした物は」
もしや皆に同じ桜の陶器を配った事を気にしているのでは。
そう感じた夢主は声を殺してクスリと笑った。
「特別だと」
「はぃ」
ようやく振り向いてくれた……
夢主は嬉しさを溢れさせ、満面の笑みで頷いた。
斎藤はその笑顔に諭されるよう臍を曲げている己に気付き、気を取り直して懐から小さな花びらの陶器を取り出した。
「持っていてくださったんですね!嬉しいです……」
「フン」
しみじみと懐から出てきた感激を噛みしめる。
こちらに向き直ってくれた斎藤に近付き、夢主は自分の花びらを差し出した。
「私と斎藤さんのだけ同じ形なんです。同じというか対称的というか……その、花びらにしては少し変わった形だと思いませんか」
「言われて見れば確かに……慣れない故の造形だと思っていたが。違うのか」
ふふっと夢主はにこやかに笑い、そっと手を近づけた。
「ふたつを合わせると……猪目の形になるんです。ほら……」
「ほぅ、確かに。猪目のようだな。まるで蛤の貝合わせだな」
「蛤?」
「知らんか、貝の左右を揃える遊びだ。公家や大名の嫁入り道具にもなっている」
話に首を傾げながら見上げると、斎藤はいつもの目の色で、声からも不機嫌さは消えていた。
ほぅっと安堵し夢主も表情を和らげる。
「聞いたことありますけど……本当だ、少し似ているかもですね、ふふっ」
「フン、蛤は女の操の象徴とも言うらしいな」
「えっ、そんな意味はっ、知りませんっ……」
蛤の説明に顔を赤らめて手を引っ込めるが、斎藤はもう一度合わせてみろと促した。
面白さ半分、話を続けたいのが半分だ。
「猪目か、この形に何か意味があるのか」
意味があるのかと聞かれ夢主が頬の色が変わったのを確信し、斎藤はフッと笑んで続きを待った。
「あの、私のいた頃には少し特別な意味が……」
「ほぅ、話してみろ」
夢主は真っ赤な顔で、当たり障り無く説明するにはどうすれば良いか考えた。
猪目はいわばハートの形だ。愛の象徴だなどとは流石に恥ずかしくて伝えられない。
「こ……心の形です。外国から伝わった意味なのですが、心の臓を表したり、心を表す形だったり、だから少し特別かなと思って……半分にしたら花びらみたいだと思い付いたので……」
「心、成る程な」
夢主の物と己の物が隣り合って並ぶとひとつの心に……
斎藤はその意味に気付いたのか僅かに表情を変えると陶器を引っ込め、懐にしまいこんだ。
「意味は分かった。連中の物とは」
「皆さんにお渡ししたのは、ただの花びらの形です。頑張ってもくっつきませんよ、ふふっ。沖田さんのも違うんです……だから、内緒ですよ」
「フッ……」
斎藤は目を逸らすがつい頬を緩めた。
夢主はそれに気付き、陶器を両手で握りしめた。