100.最初で最後の想い
夢主名前設定
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「お前が陶芸を、凄ぇな」
「えへへっ、それで皆さんにお作りしたんです。こちらを……ずっとお世話になってばかりで、いつかお返しをしたいと思っていたんです」
歩き始めた斎藤だが、背後で聞こえる話に一瞬ぴたりと足を止めた。
斎藤は桜の花びらの陶器を受け取っている。それは夢主が自分の為に焼いてくれた特別なもの、そう認識し大切に身につけていた。
「桜の花びらです」
そう聞こえた一言に斎藤は舌打ちをし不機嫌に部屋へ入っていった。
「凄いね夢主ちゃん、いいの、僕も貰って」
「はい、皆さんのお作りしたんです。小さいから沢山焼かせていただいて、思いのほか、どれも綺麗に焼きあがったんですよ」
「随分と愛らしいな、俺達が持つには可愛すぎるけどよ」
「ははっ、確かにな。だがありがたく受け取るぜ、大切にするよ」
沖田を始め原田や永倉、世話になった皆に手渡していく。
それぞれ受け取った物を嬉しそうにしげしげと眺めた。
「荷物を置きに斎藤さんのお部屋に行きたいのですが……」
夢主は小さな包みを抱えていた。
比古に届けてもらう手はずだったが、一度小屋に戻った為、自ら持ち帰ったのだ。
斎藤に土産としてもらった紅桔梗と月白色の風呂敷包みが荷物を包んでいる。
「僕が案内しますよ、こちらです」
皆との再会の挨拶を一旦区切り、夢主は斎藤の部屋へ案内された。
「斎藤さん……」
声を掛けると静かに「入れ」と返ってきた。
あまりに静かな返事に、夢主と沖田は顔を見合わせてしまった。
「そうだ僕、土方さんに伝えてきますね!僕の部屋は隣なので、夢主ちゃんの荷物は後でお持ちします」
「ありがとうございます」
笑顔で会釈すると沖田は嬉しそうに、振り向きながら駆けて行く。
柱にぶつからないで、そんな思いで見送ってしまうほど楽しげで浮かれて見えた。
斎藤の部屋に入ると、夢主はまず広さに驚いた。
西本願寺の部屋が狭小だったとは言え、その倍は優にあるだろう。広い部屋の隅にある文机の前に斎藤は座っている。
机をこちらに向けても不自然ではないが、斎藤は入り口に背を向けて座っていた。突然入ってきた者に対し、咄嗟に机上が目に触れないようにだろうか。
夢主が中に入っても斎藤は振り向かない。
不安になり、傍に腰を下ろして声を掛けた。
「斎藤さん……」
「無事に戻れてよかったな」
「はぃ……」
机に目を向けたまま、それで会話は終わってしまった。
斎藤の背中を見つめる夢主の不安は強まった。
様子を窺い、やがて思い出した様に懐から自分用の桜の陶器を取り出した。
「あの……斎藤さんにお渡しした陶器、覚えていますか」
「あぁ、その辺にあるだろう」
「その辺……」
祇園祭の華やかな雰囲気の中、斎藤の腕の中で手渡した桜の花びら。あの時はとても嬉しそうに受け取ってくれた。
自分を見てくれた斎藤の顔も、橙色に囲まれ優しく光っていた斎藤の瞳も、今でもしっかり覚えている。
しかし今の斎藤の反応は一体……夢主は困惑し、自らの手の陶器を眺めた。
「その辺って……」
「しかし沖田君も随分と迷惑なことをしてくれたな。事情を説明する手間が省けたと喜ぶべきか」
斎藤は冷たい声で独り言のように呟いた。
「えへへっ、それで皆さんにお作りしたんです。こちらを……ずっとお世話になってばかりで、いつかお返しをしたいと思っていたんです」
歩き始めた斎藤だが、背後で聞こえる話に一瞬ぴたりと足を止めた。
斎藤は桜の花びらの陶器を受け取っている。それは夢主が自分の為に焼いてくれた特別なもの、そう認識し大切に身につけていた。
「桜の花びらです」
そう聞こえた一言に斎藤は舌打ちをし不機嫌に部屋へ入っていった。
「凄いね夢主ちゃん、いいの、僕も貰って」
「はい、皆さんのお作りしたんです。小さいから沢山焼かせていただいて、思いのほか、どれも綺麗に焼きあがったんですよ」
「随分と愛らしいな、俺達が持つには可愛すぎるけどよ」
「ははっ、確かにな。だがありがたく受け取るぜ、大切にするよ」
沖田を始め原田や永倉、世話になった皆に手渡していく。
それぞれ受け取った物を嬉しそうにしげしげと眺めた。
「荷物を置きに斎藤さんのお部屋に行きたいのですが……」
夢主は小さな包みを抱えていた。
比古に届けてもらう手はずだったが、一度小屋に戻った為、自ら持ち帰ったのだ。
斎藤に土産としてもらった紅桔梗と月白色の風呂敷包みが荷物を包んでいる。
「僕が案内しますよ、こちらです」
皆との再会の挨拶を一旦区切り、夢主は斎藤の部屋へ案内された。
「斎藤さん……」
声を掛けると静かに「入れ」と返ってきた。
あまりに静かな返事に、夢主と沖田は顔を見合わせてしまった。
「そうだ僕、土方さんに伝えてきますね!僕の部屋は隣なので、夢主ちゃんの荷物は後でお持ちします」
「ありがとうございます」
笑顔で会釈すると沖田は嬉しそうに、振り向きながら駆けて行く。
柱にぶつからないで、そんな思いで見送ってしまうほど楽しげで浮かれて見えた。
斎藤の部屋に入ると、夢主はまず広さに驚いた。
西本願寺の部屋が狭小だったとは言え、その倍は優にあるだろう。広い部屋の隅にある文机の前に斎藤は座っている。
机をこちらに向けても不自然ではないが、斎藤は入り口に背を向けて座っていた。突然入ってきた者に対し、咄嗟に机上が目に触れないようにだろうか。
夢主が中に入っても斎藤は振り向かない。
不安になり、傍に腰を下ろして声を掛けた。
「斎藤さん……」
「無事に戻れてよかったな」
「はぃ……」
机に目を向けたまま、それで会話は終わってしまった。
斎藤の背中を見つめる夢主の不安は強まった。
様子を窺い、やがて思い出した様に懐から自分用の桜の陶器を取り出した。
「あの……斎藤さんにお渡しした陶器、覚えていますか」
「あぁ、その辺にあるだろう」
「その辺……」
祇園祭の華やかな雰囲気の中、斎藤の腕の中で手渡した桜の花びら。あの時はとても嬉しそうに受け取ってくれた。
自分を見てくれた斎藤の顔も、橙色に囲まれ優しく光っていた斎藤の瞳も、今でもしっかり覚えている。
しかし今の斎藤の反応は一体……夢主は困惑し、自らの手の陶器を眺めた。
「その辺って……」
「しかし沖田君も随分と迷惑なことをしてくれたな。事情を説明する手間が省けたと喜ぶべきか」
斎藤は冷たい声で独り言のように呟いた。