99.油小路の辻に
夢主名前設定
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ゆっくりと近付き、やがて顔が見えてくる。
この事変にどれだけ落ち込んでいるのかと気を揉んでいた斎藤だが、何日も遅れて現れた夢主はとても健やかな笑顔を見せていた。
「斎藤さん、戻りました」
「あぁ、遅かったな」
目の前で立ち止まり、斎藤を見上げる夢主の表情は全てを吹っ切ったように見える。
神々しい朝の光の中、気持ちさえも洗われたように清々しい面立ち。
急いで歩んで来たのか、夢主の白息が冷たい冬の朝の空気に何度も広がる。
「ごめんなさい、遅くなったのは……少し落ち込んでいたんです」
「そうだろうな。藤堂君だが、」
「もう大丈夫なんです。私、次に進めます」
「……そうか」
この数日間、比古は自らの能力を駆使して藤堂の生死を調べてくれたのだ。
力は貸さないと言いつつ、夢主の為に動いてくれた。闘いではないのだから構わないと。
藤堂が深手を負ったのは確かだ。だが埋葬はされていない。
新選組は埋葬した者の名前の中に藤堂を入れた。しかしそれは遺体を回収したからでは無かった。
医者を当たるが治療したと証言する者はおらず、死体を運んだという話も出てこなかった。
仲間が連れ去ったか、自ら立ち去ったか。何れにしろ瀕死の状態で姿を消したのだ。
だが夢主にはそれで充分だった。
生死不明、それはまさに未来に伝わる藤堂の話そのもの。
油小路で死亡が定説だが、まれに聞こえてくる天寿全う説。
いつかどこかで、ひょっこりと姿を現し見知らぬ誰かに「自分は新選組の生き残りである」、そんなホラにも受け取られ兼ねない話をしてくれる事を願い……
……きっとどこかで生き延びている……そう信じる希望が夢主の心を支えた。
斎藤は夢主の落ち着きを確認し、先程から何かを感じていた光射す道に顔を向けた。
白光に同化していた比古がゆったりと姿を見せる。
斎藤に対して大きく頷くと、そのまま行ってしまった。
……あとはお前に託す……そう想いを残して。
「斎藤さん?」
「いや、ここ数日の出来事をまた話してくれるか」
「気になりますか?」
「お前な……」
にわかに斎藤の眉間に出来た皺を夢主は笑った。
「ふふっ、そのお顔も懐かしいです。斎藤さん、私、新津さんの所に行くことが出来て良かったです」
「そうか」
「変な意味じゃありませんよ、いろんな人がいて、いろんな思いで生きてるんだって教えてもらったんです。だから……本当に良かったです」
フッ……良い時を過ごしたようだ。
斎藤はそう認めて夢主を見つめた。まだ問題が残っている。
「さぁて、戻ってお前のことを連中に説明せねばならんな」
「お約束、覚えていますよっ」
「何だったか……あぁ、俺の世話役はお前しかいないと連れ戻した理由を説明する話だったか」
うきうきと約束を覚えていると告げる夢主の笑顔をふくれっ面に変え、斎藤は嬉しそうに口角を持ち上げた。
「冗談だよ、やれやれ……面倒な事になりそうだ。さぁ、戻るぞ」
「はいっ!」
元気の良い返事と共に、眩しい光の道を二人は歩き始めた。
冷たい外気を忘れるほど美しく輝かしい朝日の中、初めての場所に向かって。
この事変にどれだけ落ち込んでいるのかと気を揉んでいた斎藤だが、何日も遅れて現れた夢主はとても健やかな笑顔を見せていた。
「斎藤さん、戻りました」
「あぁ、遅かったな」
目の前で立ち止まり、斎藤を見上げる夢主の表情は全てを吹っ切ったように見える。
神々しい朝の光の中、気持ちさえも洗われたように清々しい面立ち。
急いで歩んで来たのか、夢主の白息が冷たい冬の朝の空気に何度も広がる。
「ごめんなさい、遅くなったのは……少し落ち込んでいたんです」
「そうだろうな。藤堂君だが、」
「もう大丈夫なんです。私、次に進めます」
「……そうか」
この数日間、比古は自らの能力を駆使して藤堂の生死を調べてくれたのだ。
力は貸さないと言いつつ、夢主の為に動いてくれた。闘いではないのだから構わないと。
藤堂が深手を負ったのは確かだ。だが埋葬はされていない。
新選組は埋葬した者の名前の中に藤堂を入れた。しかしそれは遺体を回収したからでは無かった。
医者を当たるが治療したと証言する者はおらず、死体を運んだという話も出てこなかった。
仲間が連れ去ったか、自ら立ち去ったか。何れにしろ瀕死の状態で姿を消したのだ。
だが夢主にはそれで充分だった。
生死不明、それはまさに未来に伝わる藤堂の話そのもの。
油小路で死亡が定説だが、まれに聞こえてくる天寿全う説。
いつかどこかで、ひょっこりと姿を現し見知らぬ誰かに「自分は新選組の生き残りである」、そんなホラにも受け取られ兼ねない話をしてくれる事を願い……
……きっとどこかで生き延びている……そう信じる希望が夢主の心を支えた。
斎藤は夢主の落ち着きを確認し、先程から何かを感じていた光射す道に顔を向けた。
白光に同化していた比古がゆったりと姿を見せる。
斎藤に対して大きく頷くと、そのまま行ってしまった。
……あとはお前に託す……そう想いを残して。
「斎藤さん?」
「いや、ここ数日の出来事をまた話してくれるか」
「気になりますか?」
「お前な……」
にわかに斎藤の眉間に出来た皺を夢主は笑った。
「ふふっ、そのお顔も懐かしいです。斎藤さん、私、新津さんの所に行くことが出来て良かったです」
「そうか」
「変な意味じゃありませんよ、いろんな人がいて、いろんな思いで生きてるんだって教えてもらったんです。だから……本当に良かったです」
フッ……良い時を過ごしたようだ。
斎藤はそう認めて夢主を見つめた。まだ問題が残っている。
「さぁて、戻ってお前のことを連中に説明せねばならんな」
「お約束、覚えていますよっ」
「何だったか……あぁ、俺の世話役はお前しかいないと連れ戻した理由を説明する話だったか」
うきうきと約束を覚えていると告げる夢主の笑顔をふくれっ面に変え、斎藤は嬉しそうに口角を持ち上げた。
「冗談だよ、やれやれ……面倒な事になりそうだ。さぁ、戻るぞ」
「はいっ!」
元気の良い返事と共に、眩しい光の道を二人は歩き始めた。
冷たい外気を忘れるほど美しく輝かしい朝日の中、初めての場所に向かって。