99.油小路の辻に
夢主名前設定
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新選組の不動堂村屯所では、斎藤が八ヶ月にも及ぶ任務を終えて帰屯していた。
表向きは『公用の旅に出ていた斎藤組長が無事に任務を終え帰還』今まで通りの隊務に戻ると、隊内に知らされた。
「おかえりなさい、斎藤さん!」
「あぁ……沖田君か」
廊下をやって来た男に思わず「おぉ」と久しぶりの顔に感慨深げな声を漏らしそうになるが、斎藤は落ち着いた返事をしてやり過ごした。
伊東を討ち取った報せが届き、近藤と共に屯所へ戻った沖田。
周りに気を使いながらも辺りにキョロキョロと目を動かしている。
斎藤は足を拭き屯所内に上がり、すれ違い様に教えてやった。
「あいつは一日遅れる」
「そっ、そうですか!そうですよね、一緒という訳には……あははっ、さぁ、部屋に案内しますよ!凄くいい造りですから驚かないでください!」
夢主に一刻も早く会いたいと待ち望む沖田は、逸り過ぎた自分を笑って頭を掻いた。
沖田に連れられ辿り着いた部屋は、無理矢理拵えた西本願寺の屯所の一室とは異なり、余裕を持って作られていた。
いかにもそれなりの役職にある者の部屋だ。
「こんなに広いんだから、壬生の時みたいに部屋を使えばいいだろうって土方さんが。ほら押入れはあるんですけどね……」
「夢主の部屋が無いのか」
「えぇ。でも凄いですよ!仕切りは衝立ではなく屏風ですよ!土方さんも今回は思い切ってますよね……あ、大丈夫ですか?自制出来ないのでしたら僕の部屋に夢主ちゃんを招きましょうか?あっ、もちろん僕の部屋は貴方の隣ですから、改めまして、宜しくお願いします」
暫く離れていたついでに部屋割りも変えてしまおうと、わざとらしく心配する素振りを見せる沖田を斎藤は一瞥した。
「フン、病人は治療部屋で寝込むんじゃないのか」
「うっ……さすがは良くご存知で……そうなんです、すっかり僕の噂が回っているようで。随分前ですけど、あの人斬りの緋村さんにまで心配されちゃいましたよ、あはははっ!!」
「緋村抜刀斎か、俺も堂々とあいつを斬れる立場に戻ったという訳だ。こいつは嬉しいな」
「また宜しくお願いしますよ、斎藤さん」
「巡察に出られるならば、な」
二人は久しぶりの互いの姿を確認するよう眺め、目を合わせて笑みを浮かべた。
どこか素直ではない笑顔は二人の一筋縄ではいかない関係を示している。
「それで今、原田さん達が出ているんですけど……」
「あぁ。全て知っている」
「そうですか……藤堂さん……残念だな」
「……ぁあ」
こちら側が圧倒的に人数で勝ると知っている二人は、藤堂が助かるまいと覚悟を決めていた。
それから日は変わり、斎藤が帰屯した翌日、その翌日も夢主は戻ってこなかった。
「斎藤さん、どういうことですか。もしかしてこのまま……」
「俺に分かるか。新津と共にいるはずだ。あいつと……」
「新津さんと……まさか、一緒にどこかへ」
「……無いとは言い切れん。しかし……」
再会の約束を交わした夢主の瞳を思えばそれはあり得ない。
今度は己が信じて待つ番か、自分に言い聞かせるよう沖田に言い聞かせた。
「信じて待つしかあるまい、信じて」
日に日に二人の心配は高まっていく。
いつも通りの隊務に復職した斎藤は巡察や隊士達の稽古に当たった。
部屋に戻る度、その広さに立ち止まってしまう。敷かれた畳の枚数が違うだけではない、いるべき者がいない、それだけで部屋はとても広く感じられた。
伊東を初めとする死者達が光縁寺に埋葬された次の日に、夢主はようやく戻ってきた。
朝早く、斎藤の元へ手紙が届けられた。
届けた隊士が言うには、持ってきたのはとにかく白くてでかい男だったと。
「新津しかいないではないか」
斎藤はまだ着流し姿だがとりあえず刀を一本差し、「すぐ戻る、朝の散歩だ」と言い残して屯所の外へ出向いた。
広く真っ直ぐな道の向こうから朝日が美しく差している。
道のあちこちに霜が降り朝日を浴びてきらきら輝く道、その白い光の中を誰かが歩いてきた。
逆光の中に見える小さな人影。
「……フッ」
……あいつしか、いないではないか……
斎藤は目元を緩めると近付く影に自らも歩み始めた。
表向きは『公用の旅に出ていた斎藤組長が無事に任務を終え帰還』今まで通りの隊務に戻ると、隊内に知らされた。
「おかえりなさい、斎藤さん!」
「あぁ……沖田君か」
廊下をやって来た男に思わず「おぉ」と久しぶりの顔に感慨深げな声を漏らしそうになるが、斎藤は落ち着いた返事をしてやり過ごした。
伊東を討ち取った報せが届き、近藤と共に屯所へ戻った沖田。
周りに気を使いながらも辺りにキョロキョロと目を動かしている。
斎藤は足を拭き屯所内に上がり、すれ違い様に教えてやった。
「あいつは一日遅れる」
「そっ、そうですか!そうですよね、一緒という訳には……あははっ、さぁ、部屋に案内しますよ!凄くいい造りですから驚かないでください!」
夢主に一刻も早く会いたいと待ち望む沖田は、逸り過ぎた自分を笑って頭を掻いた。
沖田に連れられ辿り着いた部屋は、無理矢理拵えた西本願寺の屯所の一室とは異なり、余裕を持って作られていた。
いかにもそれなりの役職にある者の部屋だ。
「こんなに広いんだから、壬生の時みたいに部屋を使えばいいだろうって土方さんが。ほら押入れはあるんですけどね……」
「夢主の部屋が無いのか」
「えぇ。でも凄いですよ!仕切りは衝立ではなく屏風ですよ!土方さんも今回は思い切ってますよね……あ、大丈夫ですか?自制出来ないのでしたら僕の部屋に夢主ちゃんを招きましょうか?あっ、もちろん僕の部屋は貴方の隣ですから、改めまして、宜しくお願いします」
暫く離れていたついでに部屋割りも変えてしまおうと、わざとらしく心配する素振りを見せる沖田を斎藤は一瞥した。
「フン、病人は治療部屋で寝込むんじゃないのか」
「うっ……さすがは良くご存知で……そうなんです、すっかり僕の噂が回っているようで。随分前ですけど、あの人斬りの緋村さんにまで心配されちゃいましたよ、あはははっ!!」
「緋村抜刀斎か、俺も堂々とあいつを斬れる立場に戻ったという訳だ。こいつは嬉しいな」
「また宜しくお願いしますよ、斎藤さん」
「巡察に出られるならば、な」
二人は久しぶりの互いの姿を確認するよう眺め、目を合わせて笑みを浮かべた。
どこか素直ではない笑顔は二人の一筋縄ではいかない関係を示している。
「それで今、原田さん達が出ているんですけど……」
「あぁ。全て知っている」
「そうですか……藤堂さん……残念だな」
「……ぁあ」
こちら側が圧倒的に人数で勝ると知っている二人は、藤堂が助かるまいと覚悟を決めていた。
それから日は変わり、斎藤が帰屯した翌日、その翌日も夢主は戻ってこなかった。
「斎藤さん、どういうことですか。もしかしてこのまま……」
「俺に分かるか。新津と共にいるはずだ。あいつと……」
「新津さんと……まさか、一緒にどこかへ」
「……無いとは言い切れん。しかし……」
再会の約束を交わした夢主の瞳を思えばそれはあり得ない。
今度は己が信じて待つ番か、自分に言い聞かせるよう沖田に言い聞かせた。
「信じて待つしかあるまい、信じて」
日に日に二人の心配は高まっていく。
いつも通りの隊務に復職した斎藤は巡察や隊士達の稽古に当たった。
部屋に戻る度、その広さに立ち止まってしまう。敷かれた畳の枚数が違うだけではない、いるべき者がいない、それだけで部屋はとても広く感じられた。
伊東を初めとする死者達が光縁寺に埋葬された次の日に、夢主はようやく戻ってきた。
朝早く、斎藤の元へ手紙が届けられた。
届けた隊士が言うには、持ってきたのはとにかく白くてでかい男だったと。
「新津しかいないではないか」
斎藤はまだ着流し姿だがとりあえず刀を一本差し、「すぐ戻る、朝の散歩だ」と言い残して屯所の外へ出向いた。
広く真っ直ぐな道の向こうから朝日が美しく差している。
道のあちこちに霜が降り朝日を浴びてきらきら輝く道、その白い光の中を誰かが歩いてきた。
逆光の中に見える小さな人影。
「……フッ」
……あいつしか、いないではないか……
斎藤は目元を緩めると近付く影に自らも歩み始めた。