99.油小路の辻に
夢主名前設定
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比古に現場から連れ出された夢主は憂いの表情で地面にへたり込んだ。
「藤堂さんは……どうなりましたか……」
「走り去ったさ」
「本当ですかっ」
顔を上げるが比古の顔色は変わらない。
ただ冷静に夢主を見守っている。
「あぁ。だが相当の深手だ、あのままあの場で斬られていた方が楽だったかも知れんぞ」
「そんな……助かるでしょうか……」
「分からんさ。血が止まらなければ死ぬ。手当てできなければ死ぬ。いずれにしろ可能性は低いだろうな」
「そんなっ……ぁっ……」
夢主の目に映る石畳が揺れ始めた。
自分がしたことは藤堂の苦しみを長引かせるだけなのか。
どうか生を永らえさせて、もう一度自らの信念に向かって生きられますように。
そんな願いも自己満足なのか、想いが渦巻き始める。
「どうする。落ち着くまで俺の小屋に戻るか」
「比古師匠の……」
涙を堪えて顔を上げると、比古は少しも変わらぬ表情を見せていた。
いっそ責められた方が楽かもしれない。しかし比古がくれたのは夢主を案ずる言葉だけだった。
「あぁ。二、三日して落ち着いてから戻ればいいだろう」
「いいのですか……」
「構わんさ。このまま戻るのは辛かろう。これから新選組の連中が付近を嗅ぎ回らんとも限らん、見つかると厄介だ。行くぞ……歩けるか」
「はぃ……私……歩けます」
比古は夢主に分厚い筋肉質な手を差し出した。
大きな手に小さな手を重ねると、力強く体を引き起こされた。
油小路の辻からは何人かの御陵衛士が逃げ出した。
そして今、ひとり逃れてきた藤堂は路地に入り、傷む背中から血が流れ出るのを感じながら、町屋の壁に肩を引きずるように付けて歩いていた。
少しずつ現場から離れていく。
「はぁ……はぁ……まさか……夢主だったのか……」
頭に血が上りきった自分を正気に引き戻してくれた、冷たい闇を切り裂いた声。
あれは懐かしく大好きだった夢主の声に違いなかった。
「ははっ……変なの……あんな場所であいつ……やっぱ生きてたんじゃねぇか……土方さん、怒ってるだろうな……土方さんか。どうして今更そんな名前を……」
藤堂は疲弊した体を休ませようと壁に頭をついた。
背を預けたい所だが、背中を斬られているのでどうしようもない。そのままずるずると座り込み胡坐を掻いた。
少しでも楽な姿勢をと、頭と肩を壁に付ける。
荒い呼吸の中、一つ溜め息を吐いた。
……懐かしい事ばかりを思い出すな……御陵衛士で新選組を出たのは……間違いじゃないんだ……間違いじゃ……
……「随分と好戦的じゃねぇか、平助」
節度を持って座する藤堂に、土方は冷たい視線を送っていた。
ここは新選組の屯所、そう、西本願寺だ。
「俺はここで死ぬ訳にはいかねぇんだ、土方さん。話なら聞くよ」
挑発を無視して落ち着いた声で話す藤堂は刀を自らの左脇に置いている。
誰かと向かい合い座る時、刀をそば置くのは通常ならば右側。
いつでも抜刀して切りかかれるよう、身を守れる為に置く位置、それが左だ。
相手に敵意がある、あるいは敵意を感じていなければ体の左側に刀は置かない。
「お前まで裏切るのか」
「裏切るだなんて……俺は新選組のみんなが大好きだよ。今でも大好きさ。でも……もうついていけねぇよ……近頃の近藤さん、何やってるんだ」
藤堂の言葉に土方の眉がじりりと寄った。
「藤堂さんは……どうなりましたか……」
「走り去ったさ」
「本当ですかっ」
顔を上げるが比古の顔色は変わらない。
ただ冷静に夢主を見守っている。
「あぁ。だが相当の深手だ、あのままあの場で斬られていた方が楽だったかも知れんぞ」
「そんな……助かるでしょうか……」
「分からんさ。血が止まらなければ死ぬ。手当てできなければ死ぬ。いずれにしろ可能性は低いだろうな」
「そんなっ……ぁっ……」
夢主の目に映る石畳が揺れ始めた。
自分がしたことは藤堂の苦しみを長引かせるだけなのか。
どうか生を永らえさせて、もう一度自らの信念に向かって生きられますように。
そんな願いも自己満足なのか、想いが渦巻き始める。
「どうする。落ち着くまで俺の小屋に戻るか」
「比古師匠の……」
涙を堪えて顔を上げると、比古は少しも変わらぬ表情を見せていた。
いっそ責められた方が楽かもしれない。しかし比古がくれたのは夢主を案ずる言葉だけだった。
「あぁ。二、三日して落ち着いてから戻ればいいだろう」
「いいのですか……」
「構わんさ。このまま戻るのは辛かろう。これから新選組の連中が付近を嗅ぎ回らんとも限らん、見つかると厄介だ。行くぞ……歩けるか」
「はぃ……私……歩けます」
比古は夢主に分厚い筋肉質な手を差し出した。
大きな手に小さな手を重ねると、力強く体を引き起こされた。
油小路の辻からは何人かの御陵衛士が逃げ出した。
そして今、ひとり逃れてきた藤堂は路地に入り、傷む背中から血が流れ出るのを感じながら、町屋の壁に肩を引きずるように付けて歩いていた。
少しずつ現場から離れていく。
「はぁ……はぁ……まさか……夢主だったのか……」
頭に血が上りきった自分を正気に引き戻してくれた、冷たい闇を切り裂いた声。
あれは懐かしく大好きだった夢主の声に違いなかった。
「ははっ……変なの……あんな場所であいつ……やっぱ生きてたんじゃねぇか……土方さん、怒ってるだろうな……土方さんか。どうして今更そんな名前を……」
藤堂は疲弊した体を休ませようと壁に頭をついた。
背を預けたい所だが、背中を斬られているのでどうしようもない。そのままずるずると座り込み胡坐を掻いた。
少しでも楽な姿勢をと、頭と肩を壁に付ける。
荒い呼吸の中、一つ溜め息を吐いた。
……懐かしい事ばかりを思い出すな……御陵衛士で新選組を出たのは……間違いじゃないんだ……間違いじゃ……
……「随分と好戦的じゃねぇか、平助」
節度を持って座する藤堂に、土方は冷たい視線を送っていた。
ここは新選組の屯所、そう、西本願寺だ。
「俺はここで死ぬ訳にはいかねぇんだ、土方さん。話なら聞くよ」
挑発を無視して落ち着いた声で話す藤堂は刀を自らの左脇に置いている。
誰かと向かい合い座る時、刀をそば置くのは通常ならば右側。
いつでも抜刀して切りかかれるよう、身を守れる為に置く位置、それが左だ。
相手に敵意がある、あるいは敵意を感じていなければ体の左側に刀は置かない。
「お前まで裏切るのか」
「裏切るだなんて……俺は新選組のみんなが大好きだよ。今でも大好きさ。でも……もうついていけねぇよ……近頃の近藤さん、何やってるんだ」
藤堂の言葉に土方の眉がじりりと寄った。