99.油小路の辻に
夢主名前設定
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「こっ……これは……」
槍の穂先から柄を辿り視線を下ろして行くと、暗闇の中にぎらりと光る大きな目を見つけた。
板塀の向こうに潜む男が見える。新選組の隊士だ。
伊東が呻き声を上げながら無理矢理槍から逃れると、激しい足音の数々と砂煙が周りを取り囲んだ。
自らに白刃を向けるのは、覚えのある顔ばかり。
中には心を許してくれたと感じた幹部の顔さえあった。
永倉新八、彼が刺客に加わった事実に伊東は怒りを覚えた。
「ひっ、土方め……」
それもこれも土方の策に嵌められたから。
気付いた伊東は腰の刀の柄に手を掛け、重い体を引きずりその場を離れようと試みた。
しかし血が流れて力が入らない体は思うように動かない。
この場から逃げ出すことは不可能、当の本人にすらそう思えた。
そんな息を荒げて弱っていく伊東に止めを刺そうと、刀を振りかぶる隊士がいた。
その行動に伊東の怒りは絶頂を迎えた。
……敬意も品位も無いのか!この無作法者め!!
「このっ……奸賊輩がぁああっ!!!」
うぉああああぁぁっ!!!
絶叫と共に力を振り絞って抜刀し、刀をかざす隊士を一太刀に斬り倒した。
そのまま逃げ出そうとするが、自らもずるずると体を崩していく。
最早、自らの意思に反応してくれない体、少しも動かなかった。
夜道、暗いはずの視界が段々とぼやけ明るく白んでいく。
……どうして、私はただ……世の中を変えたかっただけなのよ……どうして、みんな……わかって……くれない……
夢主さん……
「っ……」
「どうした、夢主」
「今……名前を……」
「何?」
「今、呼ばれた……私……呼ばれました……」
夢主は頭の中に響いた声に息を呑んだ。
今、比古と共に伊東が討たれるはずの通りに向かっている。
遺体が晒されるという油小路の辻を確認してから、現場とされる場所へ向かおうとしていた。
はっきりした時間が分からなかったからだ。
斎藤が出て間もなくの事。
時間がないと思われ二人は急いでいた。その急ぎ足を夢主の空耳が止めたのだ。
「伊東……さん……」
そうなの……
夢主は突然、体が震えだした。
……ただ、貴女の助けが欲しかっただけなの……ごめんなさいね……
「遠くで……話しかけられ……て……もしかしたら、っぅ……」
「分からん。だが、あるのかも知れんな、虫の知らせか……今際の想い……」
「そんなっ……」
最期の想いが届いたのだろうか。
そうだとすれば、伊東は本当に心から自分に助けを求めていたのか。
今の荒れた世を良くしたい一心で動いていただけなのだろうか。
伊東もただ、斎藤や土方、それに緋村剣心……彼らと願う想いは、望む未来は同じだったのだろうか。
あの人は我欲で動いている、そう感じていた夢主はその場に座り込んでしまった。
口に手を添えて泣くまいと堪えている。
「大丈夫か」
「はぃ……行かなきゃ……これ以上、悲しいすれ違いを繰り返しちゃいけない……」
「夢主……」
「比古師匠、ご免なさい、支えてくれますか……力が入らなくて……」
「あぁ、掴まれ」
比古は屈んで外套を広げ、夢主の体を抱え込むように支えた。
長く太い腕が回り、がっしり骨太い手が夢主の腰をしっかりと掴む。
一人で歩けない時は誰かを頼ればよい。比古は夢主を支えた。
「歩くぞ」
「はい」
槍の穂先から柄を辿り視線を下ろして行くと、暗闇の中にぎらりと光る大きな目を見つけた。
板塀の向こうに潜む男が見える。新選組の隊士だ。
伊東が呻き声を上げながら無理矢理槍から逃れると、激しい足音の数々と砂煙が周りを取り囲んだ。
自らに白刃を向けるのは、覚えのある顔ばかり。
中には心を許してくれたと感じた幹部の顔さえあった。
永倉新八、彼が刺客に加わった事実に伊東は怒りを覚えた。
「ひっ、土方め……」
それもこれも土方の策に嵌められたから。
気付いた伊東は腰の刀の柄に手を掛け、重い体を引きずりその場を離れようと試みた。
しかし血が流れて力が入らない体は思うように動かない。
この場から逃げ出すことは不可能、当の本人にすらそう思えた。
そんな息を荒げて弱っていく伊東に止めを刺そうと、刀を振りかぶる隊士がいた。
その行動に伊東の怒りは絶頂を迎えた。
……敬意も品位も無いのか!この無作法者め!!
「このっ……奸賊輩がぁああっ!!!」
うぉああああぁぁっ!!!
絶叫と共に力を振り絞って抜刀し、刀をかざす隊士を一太刀に斬り倒した。
そのまま逃げ出そうとするが、自らもずるずると体を崩していく。
最早、自らの意思に反応してくれない体、少しも動かなかった。
夜道、暗いはずの視界が段々とぼやけ明るく白んでいく。
……どうして、私はただ……世の中を変えたかっただけなのよ……どうして、みんな……わかって……くれない……
夢主さん……
「っ……」
「どうした、夢主」
「今……名前を……」
「何?」
「今、呼ばれた……私……呼ばれました……」
夢主は頭の中に響いた声に息を呑んだ。
今、比古と共に伊東が討たれるはずの通りに向かっている。
遺体が晒されるという油小路の辻を確認してから、現場とされる場所へ向かおうとしていた。
はっきりした時間が分からなかったからだ。
斎藤が出て間もなくの事。
時間がないと思われ二人は急いでいた。その急ぎ足を夢主の空耳が止めたのだ。
「伊東……さん……」
そうなの……
夢主は突然、体が震えだした。
……ただ、貴女の助けが欲しかっただけなの……ごめんなさいね……
「遠くで……話しかけられ……て……もしかしたら、っぅ……」
「分からん。だが、あるのかも知れんな、虫の知らせか……今際の想い……」
「そんなっ……」
最期の想いが届いたのだろうか。
そうだとすれば、伊東は本当に心から自分に助けを求めていたのか。
今の荒れた世を良くしたい一心で動いていただけなのだろうか。
伊東もただ、斎藤や土方、それに緋村剣心……彼らと願う想いは、望む未来は同じだったのだろうか。
あの人は我欲で動いている、そう感じていた夢主はその場に座り込んでしまった。
口に手を添えて泣くまいと堪えている。
「大丈夫か」
「はぃ……行かなきゃ……これ以上、悲しいすれ違いを繰り返しちゃいけない……」
「夢主……」
「比古師匠、ご免なさい、支えてくれますか……力が入らなくて……」
「あぁ、掴まれ」
比古は屈んで外套を広げ、夢主の体を抱え込むように支えた。
長く太い腕が回り、がっしり骨太い手が夢主の腰をしっかりと掴む。
一人で歩けない時は誰かを頼ればよい。比古は夢主を支えた。
「歩くぞ」
「はい」