99.油小路の辻に
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それから二人は斎藤の話通りに祇園の店を出て、数日間身を隠した。
「いいか、お前は俺に祇園から身請けされたと通せ。どうせ数日で屯所に行くんだ。無駄口叩かなければバレはしない。祇園にいた女なら何も出来まいと家の手伝いも頼まれん」
「はい」
夢主は素直に指示に従った。
斎藤と比古は密かに夢主が気に掛ける御陵衛士の事変が起きるまで、連絡が取れるよう話をつけていた。
傍で比古が待機している。
夢主達が潜む紀州藩士の家の出入り口が見える場所に比古はいた。
いざとなれば、すぐに動ける。
後はその日が訪れるのを待つだけ、そう思っていた二人のもとに、斎藤に帰屯命令が届いた。
紀州藩士の家に移って数日、要撃決行当日だ。
「斎藤さん……」
「俺は指示に従い新選組に戻る」
「はぃ……今夜なのですね」
「俺の口からは言えん。お前はどうする、一緒に戻るか。新津と……もう一晩隠れるか」
斎藤は暗に今夜その現場に行きたいのだろうと、気持ちを汲み取って訊ねたのだ。
屯所に戻れば深夜、比古と出歩けない。
「いいんですか、出来れば……そうしたいです」
「フン、構わんだろう。出てきた時を覚えているか」
「出てきた……はい、私とはもう関係ないと……」
斎藤はピクリと眉を動かして、夢主を泣かせた苦い別れの日を思い出した。
あの時、芝居であれ言い過ぎた己と、泣いた夢主に苛立つほど戸惑った。
そうじゃない!と強く言いたい気持ちを抑えて斎藤は続けた。
「その前だ、部屋で言っただろう。惚れこんでいた俺が謝り倒して戻って来てもらった、そうすると」
「本気だったんですか!」
「フッ、さぁな。だか一緒に戻るよりはいいだろう。一日遅れて帰って来い」
「はい」
「危ない真似はするなよ」
「分かりました」
斎藤は夢主の頭にぽんと手を置き、その笑顔を確認した。
そして比古に夢主を託して一人不動堂村の新しい屯所へと向かった。
その夜、時は動いた。
近藤の妾宅にいる土方は、伊東の通り道で待ち伏せる隊士達に、時が来たと報せる使いを出した。
「僕も行きましょうか、土方さん」
「いや、総司はここにいろ。近藤さんの傍に。俺も動きがあるまではここにいる」
「分かりました」
どっしり構える近藤の傍、沖田は刀を手に控えている。
もし伊東が戻ろうが、御陵衛士の隊士達が報復に来ようが退けて見せる。
……この一件が終われば夢主ちゃんに会える。こんな時に考えてちゃいけないのだけど……
「総司」
「分かっていますよ、今は集中して……御陵衛士から刺客が来ても対応できるよう控えます」
「頼んだぞ」
一方、近藤妾宅を出て一人寒空の下を歩く伊東甲子太郎はご機嫌であった。
金に関する話は上々、おまけに気に食わなかった近藤と土方に自分の思想とこれからの世の流れ、政の進むべき道を存分に説くことが出来たのだ。
学の無い自分達にはありがたい話だと頭を下げられ、上機嫌で帰路についた。
ゆっくり歩きながら両手を広げ、冷たく清んだ夜気を全身で感じ取る。
顔を上げて星空を仰ぎ見た。
「あぁ、綺麗な夜空……奴らはやっぱり秋扇、いえ冬扇ね、時代に取り残された悲しい存在!あぁ火照った体に冬の寒さがちょうどいいわ、ふふっ……ふふふふっ、ほほほほほっ!!…………っ・・・」
上機嫌な高笑いが突然止まり、途端に伊東の顔から血の気が引いて行く。
動きが止まった伊東の目玉だけがぎょろりと動いた。
自らの体を貫く槍を視認し、目を剥いた。
「いいか、お前は俺に祇園から身請けされたと通せ。どうせ数日で屯所に行くんだ。無駄口叩かなければバレはしない。祇園にいた女なら何も出来まいと家の手伝いも頼まれん」
「はい」
夢主は素直に指示に従った。
斎藤と比古は密かに夢主が気に掛ける御陵衛士の事変が起きるまで、連絡が取れるよう話をつけていた。
傍で比古が待機している。
夢主達が潜む紀州藩士の家の出入り口が見える場所に比古はいた。
いざとなれば、すぐに動ける。
後はその日が訪れるのを待つだけ、そう思っていた二人のもとに、斎藤に帰屯命令が届いた。
紀州藩士の家に移って数日、要撃決行当日だ。
「斎藤さん……」
「俺は指示に従い新選組に戻る」
「はぃ……今夜なのですね」
「俺の口からは言えん。お前はどうする、一緒に戻るか。新津と……もう一晩隠れるか」
斎藤は暗に今夜その現場に行きたいのだろうと、気持ちを汲み取って訊ねたのだ。
屯所に戻れば深夜、比古と出歩けない。
「いいんですか、出来れば……そうしたいです」
「フン、構わんだろう。出てきた時を覚えているか」
「出てきた……はい、私とはもう関係ないと……」
斎藤はピクリと眉を動かして、夢主を泣かせた苦い別れの日を思い出した。
あの時、芝居であれ言い過ぎた己と、泣いた夢主に苛立つほど戸惑った。
そうじゃない!と強く言いたい気持ちを抑えて斎藤は続けた。
「その前だ、部屋で言っただろう。惚れこんでいた俺が謝り倒して戻って来てもらった、そうすると」
「本気だったんですか!」
「フッ、さぁな。だか一緒に戻るよりはいいだろう。一日遅れて帰って来い」
「はい」
「危ない真似はするなよ」
「分かりました」
斎藤は夢主の頭にぽんと手を置き、その笑顔を確認した。
そして比古に夢主を託して一人不動堂村の新しい屯所へと向かった。
その夜、時は動いた。
近藤の妾宅にいる土方は、伊東の通り道で待ち伏せる隊士達に、時が来たと報せる使いを出した。
「僕も行きましょうか、土方さん」
「いや、総司はここにいろ。近藤さんの傍に。俺も動きがあるまではここにいる」
「分かりました」
どっしり構える近藤の傍、沖田は刀を手に控えている。
もし伊東が戻ろうが、御陵衛士の隊士達が報復に来ようが退けて見せる。
……この一件が終われば夢主ちゃんに会える。こんな時に考えてちゃいけないのだけど……
「総司」
「分かっていますよ、今は集中して……御陵衛士から刺客が来ても対応できるよう控えます」
「頼んだぞ」
一方、近藤妾宅を出て一人寒空の下を歩く伊東甲子太郎はご機嫌であった。
金に関する話は上々、おまけに気に食わなかった近藤と土方に自分の思想とこれからの世の流れ、政の進むべき道を存分に説くことが出来たのだ。
学の無い自分達にはありがたい話だと頭を下げられ、上機嫌で帰路についた。
ゆっくり歩きながら両手を広げ、冷たく清んだ夜気を全身で感じ取る。
顔を上げて星空を仰ぎ見た。
「あぁ、綺麗な夜空……奴らはやっぱり秋扇、いえ冬扇ね、時代に取り残された悲しい存在!あぁ火照った体に冬の寒さがちょうどいいわ、ふふっ……ふふふふっ、ほほほほほっ!!…………っ・・・」
上機嫌な高笑いが突然止まり、途端に伊東の顔から血の気が引いて行く。
動きが止まった伊東の目玉だけがぎょろりと動いた。
自らの体を貫く槍を視認し、目を剥いた。