99.油小路の辻に
夢主名前設定
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「おぉおぅ!泣いちまって可哀相によ、酷ぇえな兄ちゃん!!おい、俺の座敷に来いよ、いい女じゃねぇか、可愛がってやるぜ!そんな冷たい兄ちゃんよりよ……ってってててて!!」
「悪いな、お前が触れてよいほど安い女じゃねぇんだよ」
比古は夢主を掴もうとした男の腕を捻り上げた。
放り投げるように男を突き放すと、男は酒臭い息はそのままに、酔いを醒まして青い顔で逃げて行った。
「やれやれ……分かっただろう、一人では出歩くな」
「はぃ……」
つっと一歩足を出して行くぞと誘う比古、夢主は引き留めようと外套をつんと摘まんだ。
「あの……様子を見に行くだけでも駄目でしょうか……その場に、行くだけでも……」
「行ってどうする」
「行く末を……見届けたいです」
「辛いぞ」
「それでも……」
……何も出来ないよりは、現場にいれば何か解決策が見つかるかもしれない……
「言っておくが、俺は本当に何もせん。お前が例え飛び出しても、俺には何も出来ないぞ。いいのか」
「はい……」
覚悟を決めた返事に比古は溜息を吐いた。
「命は無駄にするもんじゃない……とにかく戻るぞ」
比古は夢主の肩に手を回し、半ば無理矢理歩き始めた。
部屋に戻り比古は襖を開こうとするが、夢主は待ってくださいと言わんばかりに立ち止まった。
「いっ……命を無駄にするつもりはありません。そうです……命を無駄にしちゃ……いけないんです」
「おい……」
「ごめんなさい、お布団に戻ります……」
比古を追い越すように襖を開き、夢主は座敷を通りぬけて寝所に姿を消してしまった。
悲し気な姿が見えなくなると、静かに耳を澄ましていた斎藤が薄っすら目を開いた。
遅れて入って来た比古が目を合わせ「大丈夫だ」と知らせる。
斎藤の横に腰を下ろす比古だが、部屋の入り口に体を向ける斎藤と間逆、窓に体を向けた。
閉じられた格子窓越しに僅かに届く月明かりを顔に受けている。
「大分思い悩んでいるようだ」
「そうか……いつもの事だがな、あいつは」
「参ったな、見守る事は出来ても俺は力を貸す気は無い。本当にそれで良いのか……あいつは」
「さぁ……しかしあんたの信念を曲げる必要も無い。それこそ流れに任せるしか、無いのだろう」
「流れか。嫌な時代だ」
二人にどうすることも出来ない。
ただ夢主が知る歴史を世界が辿る過程を眺め、自らの成すべきことを成すだけだった。
「明日明後日には恐らくここを出てある藩士の世話になり、その後新選組の元へ戻る。……そのままあいつも連れて行く」
「そうか」
「世話になったな」
「ふん、全くだな……俺の役目は終わりか」
重荷が下りほっとしたような、どこか物足りないような割り切れない気分。
出過ぎたことはするもんじゃない、これでいい。比古は自らに言い聞かせた。
「生半可な戦ではないだろう、これから起こる戦は。斎藤、お前本当に生きて戻って来いよ。お前の為に言うんじゃねぇ」
「フッ、分かっている。どいつもこいつも似たようなことを言う」
「夢主のおかげだな、あいつのお陰でお前は皆に気に掛けてもらっているのさ」
「あぁ、全くみんな面倒だ。面倒で有難いことで」
ニッ……
斎藤は比古と目を合わせ、互いに口元を歪めて見せた。
「悪いな、お前が触れてよいほど安い女じゃねぇんだよ」
比古は夢主を掴もうとした男の腕を捻り上げた。
放り投げるように男を突き放すと、男は酒臭い息はそのままに、酔いを醒まして青い顔で逃げて行った。
「やれやれ……分かっただろう、一人では出歩くな」
「はぃ……」
つっと一歩足を出して行くぞと誘う比古、夢主は引き留めようと外套をつんと摘まんだ。
「あの……様子を見に行くだけでも駄目でしょうか……その場に、行くだけでも……」
「行ってどうする」
「行く末を……見届けたいです」
「辛いぞ」
「それでも……」
……何も出来ないよりは、現場にいれば何か解決策が見つかるかもしれない……
「言っておくが、俺は本当に何もせん。お前が例え飛び出しても、俺には何も出来ないぞ。いいのか」
「はい……」
覚悟を決めた返事に比古は溜息を吐いた。
「命は無駄にするもんじゃない……とにかく戻るぞ」
比古は夢主の肩に手を回し、半ば無理矢理歩き始めた。
部屋に戻り比古は襖を開こうとするが、夢主は待ってくださいと言わんばかりに立ち止まった。
「いっ……命を無駄にするつもりはありません。そうです……命を無駄にしちゃ……いけないんです」
「おい……」
「ごめんなさい、お布団に戻ります……」
比古を追い越すように襖を開き、夢主は座敷を通りぬけて寝所に姿を消してしまった。
悲し気な姿が見えなくなると、静かに耳を澄ましていた斎藤が薄っすら目を開いた。
遅れて入って来た比古が目を合わせ「大丈夫だ」と知らせる。
斎藤の横に腰を下ろす比古だが、部屋の入り口に体を向ける斎藤と間逆、窓に体を向けた。
閉じられた格子窓越しに僅かに届く月明かりを顔に受けている。
「大分思い悩んでいるようだ」
「そうか……いつもの事だがな、あいつは」
「参ったな、見守る事は出来ても俺は力を貸す気は無い。本当にそれで良いのか……あいつは」
「さぁ……しかしあんたの信念を曲げる必要も無い。それこそ流れに任せるしか、無いのだろう」
「流れか。嫌な時代だ」
二人にどうすることも出来ない。
ただ夢主が知る歴史を世界が辿る過程を眺め、自らの成すべきことを成すだけだった。
「明日明後日には恐らくここを出てある藩士の世話になり、その後新選組の元へ戻る。……そのままあいつも連れて行く」
「そうか」
「世話になったな」
「ふん、全くだな……俺の役目は終わりか」
重荷が下りほっとしたような、どこか物足りないような割り切れない気分。
出過ぎたことはするもんじゃない、これでいい。比古は自らに言い聞かせた。
「生半可な戦ではないだろう、これから起こる戦は。斎藤、お前本当に生きて戻って来いよ。お前の為に言うんじゃねぇ」
「フッ、分かっている。どいつもこいつも似たようなことを言う」
「夢主のおかげだな、あいつのお陰でお前は皆に気に掛けてもらっているのさ」
「あぁ、全くみんな面倒だ。面倒で有難いことで」
ニッ……
斎藤は比古と目を合わせ、互いに口元を歪めて見せた。