98.絢爛と静寂の再会
夢主名前設定
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「えっ」
「山口二郎だ」
「……っく……く……ふふふふっ、山口……二郎さんっ……」
「何だ」
「だって、斎藤さん二郎って顔じゃありません、ふふっ……二郎さん、ふふっ……」
「おいおい随分だな。これでも山口は生まれ育った名だぞ」
効果はあったようだ。
塞ぐ夢主を元気付けようと名乗ったが、あまりに笑うので斎藤はついぶっきらぼうに返した。
「あっ……」
……次男だから、二郎……?
斎藤の改名遍歴は夢主の育った時代でも有名だ。
耳にしたばかりの慣れない新しい名につい笑ってしまったが、実は斎藤にとって意味のある名なのかもしれない。
「あの……山口さんと呼べば良いのですか……」
「人がいなければ何とでも呼べ。御陵衛士の件が落ち着けばまた斎藤に戻るかもしれんし、また名を変えるかもしれん。お前の好きに呼べばいいさ」
「じゃあ、……は……一さん」
悪戯心も含んで、はにかみながら夢主は斎藤の下の名を口にした。
呼ばれた斎藤本人も傍に座る比古も驚き、ちょうど口に含んだばかりの酒で咽そうになった。
「それは、止めろ」
「はいっ、冗談です。斎藤さんでいいですか……今まで通り」
いつもと違う婀娜やかな姿格好から漂う色香ある微笑に、斎藤も知らず知らず顔を背け照れを隠していた。
比古は驚きで体を強張らせていたが、気を取り直して手元に残る酒を流し込んだ。
「おい、斎藤一。俺からも一つ質問だ」
名を呼ばれた斎藤と共に夢主も顔を向けると、比古は盃を置いて真面目な顔をした。
「この先、日本は必ずや大きな戦が始まる。京も渦中に巻き込まれるの必死だろう。それは感じているか」
「あぁ、人並みにはな」
「夢主は江戸へ向かうと言っているが……お前はどうするんだ、斎藤」
斎藤と比古の瞳を行ったり来たりして見つめる夢主を一瞥し、斎藤は迷いなく応えた。
「俺は新選組の隊士として、己の思うままに刀を振るう。己の正義に従い、守るべきものを守る為に」
「戦火に身を投じるというわけか」
「分かりやすく言えばそうなるな」
比古の顔が自分に向き、夢主は微笑んで頷いた。
悲しさが滲む笑顔に、比古の眼差しにも切なさが生まれる。
「大丈夫です、私はずっと心得ています。これから来る戦渦も知っています。だからこそ……時代が落ち着くまで、私は生き延びてみせます。斎藤さんを、信じています。斎藤さんも必ず生きて新時代を迎えると」
……そして迎えに、来てくれると……
笑顔を懸命に作るが、儚い微笑みになってしまう。
それでも夢主は精一杯、斎藤に微笑みかけた。
「新津さんに教えていただいた護身術だって少しは役に立つはずです!」
「護身術?」
「はい。逃げ出す為の、時間を稼ぐ方法……相手の足を止めて逃げる方法、それに簡単な相手の投げ飛ばし方も」
「フッ、そうか。それは迂闊に近づけんな」
斎藤はククッと喉を鳴らして夢主の白粉の下の素顔を真っ赤に染め、次に比古へ小さく頭を下げた。
「新津、お前には感謝する」
「お前らが間抜け過ぎなんだよ、酒の呑み方に護身術、刀も持っていないのに木刀なんざ振らせてよ」
「あぁ……仕方あるまい。あそこではそれが一番教えやすかったんだよ」
「まぁ教えていたのは主に沖田と聞いたがな。夢主に小さな守り刀の一つでも持たせてやれよ。血汚れさせたくないのは分かるが、こんな時代だ」
「守り刀か……考えておこう」
懐に刀……夢主は思わず懐を両手で掴んだ。
「山口二郎だ」
「……っく……く……ふふふふっ、山口……二郎さんっ……」
「何だ」
「だって、斎藤さん二郎って顔じゃありません、ふふっ……二郎さん、ふふっ……」
「おいおい随分だな。これでも山口は生まれ育った名だぞ」
効果はあったようだ。
塞ぐ夢主を元気付けようと名乗ったが、あまりに笑うので斎藤はついぶっきらぼうに返した。
「あっ……」
……次男だから、二郎……?
斎藤の改名遍歴は夢主の育った時代でも有名だ。
耳にしたばかりの慣れない新しい名につい笑ってしまったが、実は斎藤にとって意味のある名なのかもしれない。
「あの……山口さんと呼べば良いのですか……」
「人がいなければ何とでも呼べ。御陵衛士の件が落ち着けばまた斎藤に戻るかもしれんし、また名を変えるかもしれん。お前の好きに呼べばいいさ」
「じゃあ、……は……一さん」
悪戯心も含んで、はにかみながら夢主は斎藤の下の名を口にした。
呼ばれた斎藤本人も傍に座る比古も驚き、ちょうど口に含んだばかりの酒で咽そうになった。
「それは、止めろ」
「はいっ、冗談です。斎藤さんでいいですか……今まで通り」
いつもと違う婀娜やかな姿格好から漂う色香ある微笑に、斎藤も知らず知らず顔を背け照れを隠していた。
比古は驚きで体を強張らせていたが、気を取り直して手元に残る酒を流し込んだ。
「おい、斎藤一。俺からも一つ質問だ」
名を呼ばれた斎藤と共に夢主も顔を向けると、比古は盃を置いて真面目な顔をした。
「この先、日本は必ずや大きな戦が始まる。京も渦中に巻き込まれるの必死だろう。それは感じているか」
「あぁ、人並みにはな」
「夢主は江戸へ向かうと言っているが……お前はどうするんだ、斎藤」
斎藤と比古の瞳を行ったり来たりして見つめる夢主を一瞥し、斎藤は迷いなく応えた。
「俺は新選組の隊士として、己の思うままに刀を振るう。己の正義に従い、守るべきものを守る為に」
「戦火に身を投じるというわけか」
「分かりやすく言えばそうなるな」
比古の顔が自分に向き、夢主は微笑んで頷いた。
悲しさが滲む笑顔に、比古の眼差しにも切なさが生まれる。
「大丈夫です、私はずっと心得ています。これから来る戦渦も知っています。だからこそ……時代が落ち着くまで、私は生き延びてみせます。斎藤さんを、信じています。斎藤さんも必ず生きて新時代を迎えると」
……そして迎えに、来てくれると……
笑顔を懸命に作るが、儚い微笑みになってしまう。
それでも夢主は精一杯、斎藤に微笑みかけた。
「新津さんに教えていただいた護身術だって少しは役に立つはずです!」
「護身術?」
「はい。逃げ出す為の、時間を稼ぐ方法……相手の足を止めて逃げる方法、それに簡単な相手の投げ飛ばし方も」
「フッ、そうか。それは迂闊に近づけんな」
斎藤はククッと喉を鳴らして夢主の白粉の下の素顔を真っ赤に染め、次に比古へ小さく頭を下げた。
「新津、お前には感謝する」
「お前らが間抜け過ぎなんだよ、酒の呑み方に護身術、刀も持っていないのに木刀なんざ振らせてよ」
「あぁ……仕方あるまい。あそこではそれが一番教えやすかったんだよ」
「まぁ教えていたのは主に沖田と聞いたがな。夢主に小さな守り刀の一つでも持たせてやれよ。血汚れさせたくないのは分かるが、こんな時代だ」
「守り刀か……考えておこう」
懐に刀……夢主は思わず懐を両手で掴んだ。