98.絢爛と静寂の再会
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座敷に酒が届くと酌を任される夢主だが、着物と髷の重みでぎこちなく移動せざるを得ない。
時間をかけて何とか斎藤のそばに寄り、そっと酒を注いだ。
「お前に酌をされるのは久しぶりだな」
「はぃ」
気恥ずかしげに頬を染める夢主だが、白粉のせいで本当の顔色は分からない。
ただ瞳が潤んで困っている様は表情から伝わる。恥じらいに満ちた顔は斎藤にとって愛おしいものだった。
夢主が視線を感じて顔を上げると、比古も器を掲げていた。
自分にも注げという合図だ。
「あっ、今……」
打ち掛けを引きずり畳に擦れる音を響かせる。
比古の前に腰を下ろすと、掲げられた器になみなみと酒を注いだ。
「俺が酌をしてもらうのは昨日ぶりだな」
「……ほぅ」
何、と言いたげに眉をぴくりと動かす斎藤。
夢主の背に視線が突き刺さるが、慌てても頭の重さで咄嗟に振り返られず、その間、斎藤と比古は視線をぶつけ合っていた。
余裕を含んだ比古の笑みに斎藤は少なからず苛立った。
「あのっ、お別れの晩酌をしたんです、ずっとお世話になりましたから……」
「確かに、長いこと世話になったな。礼を言わねばなるまい。夢主の事、面倒を見て貰い助かった」
斎藤は苛立ちを隠し冷静に礼を告げた。
夢主がやっと戻って再び斎藤に酒を汲むと、比古の大きな笑い声が響いた。
「ははははっ、礼などいいさ、こいつがいる山小屋は別世界のようだったな。飯も美味いし酒も美味い、共に過ごした夜は忘れられるものではない……熱い夜だったな」
「ぃっ、ししょ……新津さんっ!!斎藤さん、誤解です」
師匠と言いかけながら必死に否定するが、比古は構わず笑い、楽しそうに酒を流しこんだ。
「フン、そいつの虚言だろう、はなから信じちゃいないさ」
「虚言でも無いだろう、なぁ夢主、汗ばんだ熱い夜だったさ」
「あっ、あの……」
比古の迫力ある問い掛けに夢主は言葉を飲み込んでしまう。
熱い夜と言っても窯の前で炎の熱を受けながら過ごした暑さの夜ではないか、説明したいが言葉が出てこない。
「そう苛めるなよ、新津とやら。俺の可愛い太夫だぜ」
「たっ……」
思い掛けない言葉に夢主の顔は白粉を透かしそうなほど赤く染まった。
比古の話で思い出した、山の窯の火に照らされたように体が熱くなる。
「今は俺の女だ」
花代を出したのは俺だぞとふざけ、自分の女だと言い切って体を近づける。
斎藤に顔を覗かれ、夢主は熱い顔で俯いた。
「ふっ、過ちを犯さない為にその格好をさせたのでは無かったのか」
「おっと……そうだったな」
フフン、と比古に負けない皮肉な笑顔を見せて斎藤は静かに体を戻した。
それでも夢主は俯いたまま恥ずかしそうに瞬きを繰り返している。
「お前の冗談で固まっちまったじゃねぇか、全く。壬生狼というのは女の扱いが分かってねぇな。酒の呑み方も教えてやらなかったんだろう」
「新津さっ……」
気に召しているのならば、斎藤の前では今まで通りの呑み方でいようと心していた。
夢主は比古の暴露に渋い顔を見せた。
「酒の呑み方だと、夢主、お前本当にこいつと酒を呑んだのか」
「はぃ……ごめんなさい……でも、倒れたりしていません!」
「最初の一度だけな」
「はっ……そう、最初に一回うっかり勢いよく……でも!新津さんにお酒に弱い私でも楽しめる呑み方を教わったんです。内緒にしておこうと思ったのに……」
「そうか、酒の呑み方な。まぁいいさ、お前の酔いつぶれる姿は一興だったんだが」
「あのっ、斎藤さんと呑む時は……今まで通りに……しますから……怒らないでください」
「怒っちゃいないさ」
その代わりとばかりに斎藤は夢主の手に盃を渡した。
時間をかけて何とか斎藤のそばに寄り、そっと酒を注いだ。
「お前に酌をされるのは久しぶりだな」
「はぃ」
気恥ずかしげに頬を染める夢主だが、白粉のせいで本当の顔色は分からない。
ただ瞳が潤んで困っている様は表情から伝わる。恥じらいに満ちた顔は斎藤にとって愛おしいものだった。
夢主が視線を感じて顔を上げると、比古も器を掲げていた。
自分にも注げという合図だ。
「あっ、今……」
打ち掛けを引きずり畳に擦れる音を響かせる。
比古の前に腰を下ろすと、掲げられた器になみなみと酒を注いだ。
「俺が酌をしてもらうのは昨日ぶりだな」
「……ほぅ」
何、と言いたげに眉をぴくりと動かす斎藤。
夢主の背に視線が突き刺さるが、慌てても頭の重さで咄嗟に振り返られず、その間、斎藤と比古は視線をぶつけ合っていた。
余裕を含んだ比古の笑みに斎藤は少なからず苛立った。
「あのっ、お別れの晩酌をしたんです、ずっとお世話になりましたから……」
「確かに、長いこと世話になったな。礼を言わねばなるまい。夢主の事、面倒を見て貰い助かった」
斎藤は苛立ちを隠し冷静に礼を告げた。
夢主がやっと戻って再び斎藤に酒を汲むと、比古の大きな笑い声が響いた。
「ははははっ、礼などいいさ、こいつがいる山小屋は別世界のようだったな。飯も美味いし酒も美味い、共に過ごした夜は忘れられるものではない……熱い夜だったな」
「ぃっ、ししょ……新津さんっ!!斎藤さん、誤解です」
師匠と言いかけながら必死に否定するが、比古は構わず笑い、楽しそうに酒を流しこんだ。
「フン、そいつの虚言だろう、はなから信じちゃいないさ」
「虚言でも無いだろう、なぁ夢主、汗ばんだ熱い夜だったさ」
「あっ、あの……」
比古の迫力ある問い掛けに夢主は言葉を飲み込んでしまう。
熱い夜と言っても窯の前で炎の熱を受けながら過ごした暑さの夜ではないか、説明したいが言葉が出てこない。
「そう苛めるなよ、新津とやら。俺の可愛い太夫だぜ」
「たっ……」
思い掛けない言葉に夢主の顔は白粉を透かしそうなほど赤く染まった。
比古の話で思い出した、山の窯の火に照らされたように体が熱くなる。
「今は俺の女だ」
花代を出したのは俺だぞとふざけ、自分の女だと言い切って体を近づける。
斎藤に顔を覗かれ、夢主は熱い顔で俯いた。
「ふっ、過ちを犯さない為にその格好をさせたのでは無かったのか」
「おっと……そうだったな」
フフン、と比古に負けない皮肉な笑顔を見せて斎藤は静かに体を戻した。
それでも夢主は俯いたまま恥ずかしそうに瞬きを繰り返している。
「お前の冗談で固まっちまったじゃねぇか、全く。壬生狼というのは女の扱いが分かってねぇな。酒の呑み方も教えてやらなかったんだろう」
「新津さっ……」
気に召しているのならば、斎藤の前では今まで通りの呑み方でいようと心していた。
夢主は比古の暴露に渋い顔を見せた。
「酒の呑み方だと、夢主、お前本当にこいつと酒を呑んだのか」
「はぃ……ごめんなさい……でも、倒れたりしていません!」
「最初の一度だけな」
「はっ……そう、最初に一回うっかり勢いよく……でも!新津さんにお酒に弱い私でも楽しめる呑み方を教わったんです。内緒にしておこうと思ったのに……」
「そうか、酒の呑み方な。まぁいいさ、お前の酔いつぶれる姿は一興だったんだが」
「あのっ、斎藤さんと呑む時は……今まで通りに……しますから……怒らないでください」
「怒っちゃいないさ」
その代わりとばかりに斎藤は夢主の手に盃を渡した。