98.絢爛と静寂の再会
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あの……これは……」
豪華に着付けられた花魁のような着物。
重みを感じながら、体をゆっくり動かして自らの姿を確認するが、大きな髷の付け毛により頭が重く、自由に動かせない。
「斎藤はんのお望みどす」
通常の花代の何倍も先に渡され、店の者達は喜んで斎藤の要望を叶えたのだ。
後から来る連れの女を太夫の様に着飾ってくれ、花魁の様に派手で構わない。だが品だけを失わないように、そう言い付かっていた。
「さぁ、お隣のお部屋にお待ちどす、あくまでも斎藤はんのお座敷遊びの内やさかい、その格好で部屋からは出んといてください」
それでは……と女達は頭を下げて立ち上がり、斎藤がいるという部屋の前に腰を落とした。
そっと開かれた襖の向こう、久方振りの細く鋭い枯れ茶色の瞳が夢主を捉えていた。
どこか嬉しそうな細い目だった。
斎藤の望み……夢主は早まる鼓動を抑えようと胸に手を当てて一歩部屋に近づいた。
「さ、どうぞ」
店の者に勧められ夢主はゆっくり斎藤の前に進んだ。
そして言われるがまま座ると、店の者達は打ち掛けの裾を見事な扇状に整えて部屋から出て行った。
気まずいのは比古で、このまま夢主を放り出すわけにもいかない。
仕方がなしに、向かい合う斎藤と夢主、二人を眺める形で胡坐をかいた。
「見事だ……流石だ、やはりお前はどんな着物にも負けん」
「斎藤さん、お久しぶりです……あの、これは一体……」
「金が余り過ぎてな、早々に使ってしまいたかったんだよ。高い女を呼んで侍らすより良かろう」
ん?っと悪ぶって首を傾げる斎藤を夢主は恨めしげに睨むが、斎藤にはただ上目遣いで照れている様にしか見えない。
フッ、と声を漏らして手元の酒を含んだ。
「おい斎藤、お前も趣味の悪い遊びをするもんだな」
「そうかい、なかなか好い趣味だと思ったんだがね。似合ってると……貴様も思うだろう」
軽く挑発され、比古は斎藤に軽い剣気を向けるが相手にされなかった。
斎藤は盃を空にする為に残った酒を一気に流し込んだ。
「ふん、腹の立つ男だ。おい!俺の酒も用意しろ」
「分かっている、俺の追加の酒と共に頼んであるさ。万寿しか呑まないんだろう」
「あれば何でも構わんが、万寿が一番だな。少しは出来るじゃないか」
気が利くじゃないか、比古はここに来て初めて斎藤に緩んだ顔を見せた。
斎藤は目が合うがすぐに夢主に目を移す。己の望み通りに着飾ってくれた美しい姿を眺めている。
「その姿ならば泣いて飛びつくことも出来まい。久しぶりの再会、気が昂ぶっても過ちを起こさずに済む」
「斎藤さん……」
「フッ、かなりの重さだろう」
突くと転がる人形の頭のような不安定さが見て取れる。
必死に姿勢を保つ夢主の姿を、斎藤は全てお見通しと笑って見せた。
祇園祭の時は確かに感情が高まり気持ちのままに斎藤に飛びついてしまった。
伊東が探し回っていた上に、人混みの中だったのでそれ以上の何も起きなかったが、今度の再会は外界から隔離された祇園の座敷。
比古が部屋まで上がってきたのも夢主の不安な様子を察してからだった。
「お気遣いくださる気持ちは嬉しいのですが……動きにくいですし、何より恥ずかしいです……」
「いいだろう、二度とないかも知れんぞ。大枚叩いたんだ少しはその姿を楽しめ」
「あぁ、確かにこんな格好をさせる斎藤は趣味が悪いがお前、似合ってるぞ」
「え……もう新津さんまで……止めてください」
「酒が来たら是非酌をしてもらおうか」
比古がニヤリと夢主を横目に捉えると、斎藤も同じように口元を動かした。
豪華に着付けられた花魁のような着物。
重みを感じながら、体をゆっくり動かして自らの姿を確認するが、大きな髷の付け毛により頭が重く、自由に動かせない。
「斎藤はんのお望みどす」
通常の花代の何倍も先に渡され、店の者達は喜んで斎藤の要望を叶えたのだ。
後から来る連れの女を太夫の様に着飾ってくれ、花魁の様に派手で構わない。だが品だけを失わないように、そう言い付かっていた。
「さぁ、お隣のお部屋にお待ちどす、あくまでも斎藤はんのお座敷遊びの内やさかい、その格好で部屋からは出んといてください」
それでは……と女達は頭を下げて立ち上がり、斎藤がいるという部屋の前に腰を落とした。
そっと開かれた襖の向こう、久方振りの細く鋭い枯れ茶色の瞳が夢主を捉えていた。
どこか嬉しそうな細い目だった。
斎藤の望み……夢主は早まる鼓動を抑えようと胸に手を当てて一歩部屋に近づいた。
「さ、どうぞ」
店の者に勧められ夢主はゆっくり斎藤の前に進んだ。
そして言われるがまま座ると、店の者達は打ち掛けの裾を見事な扇状に整えて部屋から出て行った。
気まずいのは比古で、このまま夢主を放り出すわけにもいかない。
仕方がなしに、向かい合う斎藤と夢主、二人を眺める形で胡坐をかいた。
「見事だ……流石だ、やはりお前はどんな着物にも負けん」
「斎藤さん、お久しぶりです……あの、これは一体……」
「金が余り過ぎてな、早々に使ってしまいたかったんだよ。高い女を呼んで侍らすより良かろう」
ん?っと悪ぶって首を傾げる斎藤を夢主は恨めしげに睨むが、斎藤にはただ上目遣いで照れている様にしか見えない。
フッ、と声を漏らして手元の酒を含んだ。
「おい斎藤、お前も趣味の悪い遊びをするもんだな」
「そうかい、なかなか好い趣味だと思ったんだがね。似合ってると……貴様も思うだろう」
軽く挑発され、比古は斎藤に軽い剣気を向けるが相手にされなかった。
斎藤は盃を空にする為に残った酒を一気に流し込んだ。
「ふん、腹の立つ男だ。おい!俺の酒も用意しろ」
「分かっている、俺の追加の酒と共に頼んであるさ。万寿しか呑まないんだろう」
「あれば何でも構わんが、万寿が一番だな。少しは出来るじゃないか」
気が利くじゃないか、比古はここに来て初めて斎藤に緩んだ顔を見せた。
斎藤は目が合うがすぐに夢主に目を移す。己の望み通りに着飾ってくれた美しい姿を眺めている。
「その姿ならば泣いて飛びつくことも出来まい。久しぶりの再会、気が昂ぶっても過ちを起こさずに済む」
「斎藤さん……」
「フッ、かなりの重さだろう」
突くと転がる人形の頭のような不安定さが見て取れる。
必死に姿勢を保つ夢主の姿を、斎藤は全てお見通しと笑って見せた。
祇園祭の時は確かに感情が高まり気持ちのままに斎藤に飛びついてしまった。
伊東が探し回っていた上に、人混みの中だったのでそれ以上の何も起きなかったが、今度の再会は外界から隔離された祇園の座敷。
比古が部屋まで上がってきたのも夢主の不安な様子を察してからだった。
「お気遣いくださる気持ちは嬉しいのですが……動きにくいですし、何より恥ずかしいです……」
「いいだろう、二度とないかも知れんぞ。大枚叩いたんだ少しはその姿を楽しめ」
「あぁ、確かにこんな格好をさせる斎藤は趣味が悪いがお前、似合ってるぞ」
「え……もう新津さんまで……止めてください」
「酒が来たら是非酌をしてもらおうか」
比古がニヤリと夢主を横目に捉えると、斎藤も同じように口元を動かした。