97.別れの万寿
夢主名前設定
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「新選組に未練は無くてよ、ただ惜しい人材が残っているのも確かよね」
「どういう事でしょうか」
「新選組が時代に取り残され、消えて行くのは仕方ないと私は考えているの」
「成る程」
「それでも隊と共に消えてしまうには惜しい力もあるわ。近藤さんと土方さんは分かっているのかしら、大きく時代の流れが変わろうとしている事を」
斎藤は特に考えを述べるでもなく、物分りの良い部下を演じながら伊東の言葉に耳を向けた。
もっと思いを吐き出せと、誘うように頷きを繰り返す。
「隊士の行き来が出来ないのは残念だけれども仕方が無い……では新選組そのものが活動できなくなれば……どうなのかしらね」
「……さて、俺には難しい話ですね」
……新選組を潰すという事か……伊東さんめ、ついに動き出すな……
いよいよ自分に出番が回ってくる。
悟った斎藤は細い目のまま口角を上げてほくそ笑んだ。
「ほほっ、斎藤さんは賢いもの、何が言いたいか分かっているはずよ。だからこそ私について来てくれたのでしょう」
「確かに、時代は変わりつつありますね。伊東さん、貴方も動くのですか」
「ふふっ、それはまだ言えないわね」
「ま、俺は面倒な話には関わりません。ただ、力を振るう時が来たならば、必ず俺を使ってもらおう。それが俺が伊東さんについてきた理由だ」
「分かったわ……貴方の唯一の望みは力、私もその力を信じているわ」
伊東の妖艶な笑みに応え、斎藤は歪んだ笑みを返した。
信頼を得ている限り大きな仕事が回ってくる。自ずと情報も入ってくるのだ。
斎藤は伊東が動き出す、この時を待っていた。
……夢主さんを取り戻すのにもう一つ必要な条件が分かったわ。斎藤さんの存在と、新選組の消滅よ。あの組織がある限り夢主さんの心の拠り所となってしまう。私の活動にも邪魔な存在ならば、躊躇う理由はなくてよ……
新選組から離れて三月が経とうとしていた。伊東は新選組を貶める策を廻らすことになる。
それから幾月か、季節は変わり、木々の葉が落ち始めた。
新選組や同じく京を見回る見廻り組が、土佐藩士達に目をつけていた。
外国との結び付きを声高に叫ぶ者、了承無しに外国船と訴訟を起こす者、幕府を批判する者、取り締まるのに充分な理由を抱えていた。
その状況を知るや、伊東は新選組解体に利用できまいかと画策する。
「斎藤さん、坂本龍馬をご存知かしら」
「坂本……名前程度でしたら」
「そう、彼が今夜ここに来るのよ」
「ほぅ」
土佐出身、脱藩浪士が身の上も弁えずに各藩の有志に面会して回っていると耳にした。
斎藤からしてみれば無謀とも思える男だが、行動力は馬鹿に出来ない。
その活力に満ちた男の中で、伊東が力の一つに数えられているとは驚かざるを得ない。
「彼は今、国を強大な国家に作り変える為尽力しているわ。旧態依然の勢力を動かせる人物よ。彼を支援して新しい流れを一気に加速し古い体制を、幕府を……その下にすっかり取り込まれている新選組も……」
「伊東さん」
斎藤の冷静な視線に伊東は我に返って言葉を止めるが、意を決して訊ねた。
声を潜め、漏らしてはならないと念を押すように。
「どういう事でしょうか」
「新選組が時代に取り残され、消えて行くのは仕方ないと私は考えているの」
「成る程」
「それでも隊と共に消えてしまうには惜しい力もあるわ。近藤さんと土方さんは分かっているのかしら、大きく時代の流れが変わろうとしている事を」
斎藤は特に考えを述べるでもなく、物分りの良い部下を演じながら伊東の言葉に耳を向けた。
もっと思いを吐き出せと、誘うように頷きを繰り返す。
「隊士の行き来が出来ないのは残念だけれども仕方が無い……では新選組そのものが活動できなくなれば……どうなのかしらね」
「……さて、俺には難しい話ですね」
……新選組を潰すという事か……伊東さんめ、ついに動き出すな……
いよいよ自分に出番が回ってくる。
悟った斎藤は細い目のまま口角を上げてほくそ笑んだ。
「ほほっ、斎藤さんは賢いもの、何が言いたいか分かっているはずよ。だからこそ私について来てくれたのでしょう」
「確かに、時代は変わりつつありますね。伊東さん、貴方も動くのですか」
「ふふっ、それはまだ言えないわね」
「ま、俺は面倒な話には関わりません。ただ、力を振るう時が来たならば、必ず俺を使ってもらおう。それが俺が伊東さんについてきた理由だ」
「分かったわ……貴方の唯一の望みは力、私もその力を信じているわ」
伊東の妖艶な笑みに応え、斎藤は歪んだ笑みを返した。
信頼を得ている限り大きな仕事が回ってくる。自ずと情報も入ってくるのだ。
斎藤は伊東が動き出す、この時を待っていた。
……夢主さんを取り戻すのにもう一つ必要な条件が分かったわ。斎藤さんの存在と、新選組の消滅よ。あの組織がある限り夢主さんの心の拠り所となってしまう。私の活動にも邪魔な存在ならば、躊躇う理由はなくてよ……
新選組から離れて三月が経とうとしていた。伊東は新選組を貶める策を廻らすことになる。
それから幾月か、季節は変わり、木々の葉が落ち始めた。
新選組や同じく京を見回る見廻り組が、土佐藩士達に目をつけていた。
外国との結び付きを声高に叫ぶ者、了承無しに外国船と訴訟を起こす者、幕府を批判する者、取り締まるのに充分な理由を抱えていた。
その状況を知るや、伊東は新選組解体に利用できまいかと画策する。
「斎藤さん、坂本龍馬をご存知かしら」
「坂本……名前程度でしたら」
「そう、彼が今夜ここに来るのよ」
「ほぅ」
土佐出身、脱藩浪士が身の上も弁えずに各藩の有志に面会して回っていると耳にした。
斎藤からしてみれば無謀とも思える男だが、行動力は馬鹿に出来ない。
その活力に満ちた男の中で、伊東が力の一つに数えられているとは驚かざるを得ない。
「彼は今、国を強大な国家に作り変える為尽力しているわ。旧態依然の勢力を動かせる人物よ。彼を支援して新しい流れを一気に加速し古い体制を、幕府を……その下にすっかり取り込まれている新選組も……」
「伊東さん」
斎藤の冷静な視線に伊東は我に返って言葉を止めるが、意を決して訊ねた。
声を潜め、漏らしてはならないと念を押すように。