97.別れの万寿
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祇園祭からすぐの事、斎藤は新選組から離れた場所で、彼らが屯所を西本願寺から移転させたと耳にした。
光縁寺の墓以来、土方とも監察方とも接触していない。
必要な荷物は手元にあり不都合は無いが、意表を突かれた。
伊東もなかなかの策士たが、やはり土方は一目置くべき存在だと嬉しく思う。
その反面、自らや夢主の部屋はどう扱われるのか多少気になる所だ。
不動堂村、そこが夢主も知らない未知の屯所だと斎藤は知らなかった。
新選組の移転から間もなく、御陵衛士も宿舎を移した。
伊東との話に出た高台寺の月真院だ。
「良い場所だな」
少し高い土地にあり京の町がよく見える高台寺。
長く続く塀は宿舎前の見通しを良くしている。
会津藩の本陣である黒谷へも遠くない。
有事の際には大津への道にも近く、斎藤にとって動きやすい場所だった。
新しい宿舎の部屋で、斎藤は夢主に渡された小さな陶器を眺めていた。
淡く色付けされた桜色は、すぐに頬を染める夢主を思い起こさせる。
細い紐が通った桜の花びらが、斎藤の目の前でゆっくりと回るように揺れていた。
「あら、可愛いわね」
「伊東さん」
目の前の桜に気を取られ、近付く気配に気付かなかった。
斎藤は不覚と咄嗟に手の中に陶器を包むが、興味を持って近付いて来た伊東に怪しまれぬよう、手の平を開いた。
「可愛いじゃない、斎藤さんにしては。どうしたのです」
「いえ、祇園の女にでもやろうかと思いましてね」
「まぁ素敵、きっと喜ぶわね。それにしても斎藤さん……本気で入れ込んじゃわないで下さいよ、人が近付くのも気付かないくらい気もそぞろでは困るわ、ほほっ」
「これは一本取られましたね。大丈夫です、ご安心を」
いつも以上に念入りに気配を消して近付いた伊東だったが、斎藤はしてやられたものは仕方がないと素直に伊東を持ち上げた。
「祇園祭、あの大男を見たって話を聞いたのよ。様子を見に来ていたのは間違いないわ、祇園通いは正しかったのよ。もう暫く続けて頂戴」
「喜んで」
気ままに酒を呑んで適当な女を侍らせて遊ぶ、退屈だが悪い仕事ではない。
祇園では様々な情報も手に入る。斎藤は喜んで祇園通いの継続を承諾した。
「そういえば新選組が屯所を移したそうだけど、斎藤さん行ってみましたの」
「いえ、特に用事も無いもので」
「そうよね……ふふっ、壬生も何も無い場所でしたけれど、今度の屯所も随分と外れの地だそうね。結局、新選組は世の流れに辛うじてしがみついているだけ……片隅にね……すぐにでも振り落とされそうな存在」
「伊東さん」
何か良からぬ事を企んでいる……斎藤は見逃さずその顔を観察した。
伊東の妖しい瞳が奥深く光っていた。
光縁寺の墓以来、土方とも監察方とも接触していない。
必要な荷物は手元にあり不都合は無いが、意表を突かれた。
伊東もなかなかの策士たが、やはり土方は一目置くべき存在だと嬉しく思う。
その反面、自らや夢主の部屋はどう扱われるのか多少気になる所だ。
不動堂村、そこが夢主も知らない未知の屯所だと斎藤は知らなかった。
新選組の移転から間もなく、御陵衛士も宿舎を移した。
伊東との話に出た高台寺の月真院だ。
「良い場所だな」
少し高い土地にあり京の町がよく見える高台寺。
長く続く塀は宿舎前の見通しを良くしている。
会津藩の本陣である黒谷へも遠くない。
有事の際には大津への道にも近く、斎藤にとって動きやすい場所だった。
新しい宿舎の部屋で、斎藤は夢主に渡された小さな陶器を眺めていた。
淡く色付けされた桜色は、すぐに頬を染める夢主を思い起こさせる。
細い紐が通った桜の花びらが、斎藤の目の前でゆっくりと回るように揺れていた。
「あら、可愛いわね」
「伊東さん」
目の前の桜に気を取られ、近付く気配に気付かなかった。
斎藤は不覚と咄嗟に手の中に陶器を包むが、興味を持って近付いて来た伊東に怪しまれぬよう、手の平を開いた。
「可愛いじゃない、斎藤さんにしては。どうしたのです」
「いえ、祇園の女にでもやろうかと思いましてね」
「まぁ素敵、きっと喜ぶわね。それにしても斎藤さん……本気で入れ込んじゃわないで下さいよ、人が近付くのも気付かないくらい気もそぞろでは困るわ、ほほっ」
「これは一本取られましたね。大丈夫です、ご安心を」
いつも以上に念入りに気配を消して近付いた伊東だったが、斎藤はしてやられたものは仕方がないと素直に伊東を持ち上げた。
「祇園祭、あの大男を見たって話を聞いたのよ。様子を見に来ていたのは間違いないわ、祇園通いは正しかったのよ。もう暫く続けて頂戴」
「喜んで」
気ままに酒を呑んで適当な女を侍らせて遊ぶ、退屈だが悪い仕事ではない。
祇園では様々な情報も手に入る。斎藤は喜んで祇園通いの継続を承諾した。
「そういえば新選組が屯所を移したそうだけど、斎藤さん行ってみましたの」
「いえ、特に用事も無いもので」
「そうよね……ふふっ、壬生も何も無い場所でしたけれど、今度の屯所も随分と外れの地だそうね。結局、新選組は世の流れに辛うじてしがみついているだけ……片隅にね……すぐにでも振り落とされそうな存在」
「伊東さん」
何か良からぬ事を企んでいる……斎藤は見逃さずその顔を観察した。
伊東の妖しい瞳が奥深く光っていた。