96.橙の祇園
夢主名前設定
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京の市中は蒸し暑い季節だが、山の中は随分と空気が違う。
水場に近付けば更に肌で空気の違いを感じられる。ひやりと心地良い空間だ。
普段は川が近づくと比古は夢主と別れ一人崖の上に向かう。
比古の着替えを預かって川辺に荷を置き、そのまま腰くらいまでの深さの川に入るのが夢主の水浴びだった。
鍛錬の分だけ比古とは時間がずれる。先に着替えてしまえば比古に肌を見られず、気まずさは何もない。
「今日はお前に付き合って俺も下から入るか」
午後の水浴び、いつもなら体を浸す前に軽く動くのが比古の日課だが、今は体の煤を落としたい。
すぐに水に入ろうと考えていた。
「一緒に……ですか」
「あぁ」
断る理由もなく、共に川に向かうしかなかった。
「比古師匠……お先にどうぞ」
ほんのり恥ずかしげに顔を背けていると、比古は「そうか」と素直に着物を脱ぎ捨てて入水した。
そのまま滝つぼに向かい、やがて姿が見えなる。
夢主は安心して帯を解き、単衣を脱いだ。
薄く軽い白い襦袢は水に濡れれば肌に纏わり付いて体の線や色をよく表してしまう。
それに気付いた夢主は水浴びの時に比古と顔を合わせないよう気をつけていた。
「冷たい……」
山の水は夏でも冷たく気持ちいい。
汗ばんだ肌をさらりと流してくれる。
「比古師匠どこまで行ったんだろう……」
ずっと水に潜っているのか比古の姿が見当らない。
もしかして気遣ってくれているのか……そんなことを思いながら辺りを見渡した。
余り長く浸かっているとこの季節とはいえ体が冷え切ってしまう。
暫く水を楽しんだ後、先に上がろうと浅瀬に上がった時、急に大きな水音がサブンと響いて夢主は川底に尻餅をついてしまった。
「おい、大丈夫か。頭を打つぞ」
「ひ、比古師匠……」
ザブザブと音を立てながら近付いて来る比古の手には魚が見えた。
どこで用意したのか、捕まえた何匹もの魚を持ち帰りやすいよう縄で纏めてある。
「今日の晩飯だ」
喜ぶと思い大漁の魚を見せる比古。夢主は戸惑いながらも頷いた。
だが水から現れた全身ずぶ濡れの下帯姿に視線を定められず、尻餅をついたまま顔を逸らした。
比古もようやく自分の姿に恥らっていると気付く。
「あぁ、すまなかったな」
岸辺に魚を置き川から上がる比古だが、あられも無い格好で固まる夢主の姿を横目に捉えてしまった。
……美しい……いや、淫靡か……
濡れた髪に顔中雫まみれ、白い肌に張り付いて離れない濡れた襦袢、水の中で開かれた足。
尻餅をついたまま固まっているせいか両手をだらんと垂らし、胸の膨らみが突き出されて嫌でも存在が目立っている。
濡れた白い布越しの艶めかしさに比古は目を細めた。
ふぅ……比古は息を吐き、体を背けた。
先に素早く着替え、置いてあった魚を手にした。
「おい、体が冷える前に上がって来い。俺はそこで待っているから……」
背中越しに話しかけると、ようやく夢主が水の中で動く音が聞こえた。
「やれやれ……」
……女としてみるつもりは毛頭ないはずが……
大切な預かりの客人の操を守るため、比古は頭の中から夢主の艶やかな姿を追い払おうと懸命だった。
「お待たせしました」
「あぁ、戻るか」
まともに顔が見られず、比古は一瞬目を合わせるとすぐに歩き出した。
「お前、祇園祭に行ったことはあるか」
「祇園祭……いえ、噂は聞いたことありますが、行ったことは……」
「そうか。間もなく祭の期間なんだが、どうだ。行ってみるか」
「えっ……いいんですか」
伊東に後をつけられたあの日以来、山に籠もっていた夢主は顔を綻ばせた。
「いいだろう、人が多ければそれだけ紛れることが出来る。禁門の変の大火でほとんどの山鉾が焼けてしまったそうだがな。ひとつ……妙な噂を耳にしてな」
「噂?」
「あぁ」
比古はずっと胸にしまい込み、伝えずにいた斎藤の祇園での噂を夢主に伝えた。
自分自身が夢主に気を惹かれる前に、夢主の気持ちを改めて確認してしまえば良い。
少しずるいやり方だが諦めをつけるには手っ取り早い。比古は夢主を斎藤がいる祇園に近寄らせようとした。
水場に近付けば更に肌で空気の違いを感じられる。ひやりと心地良い空間だ。
普段は川が近づくと比古は夢主と別れ一人崖の上に向かう。
比古の着替えを預かって川辺に荷を置き、そのまま腰くらいまでの深さの川に入るのが夢主の水浴びだった。
鍛錬の分だけ比古とは時間がずれる。先に着替えてしまえば比古に肌を見られず、気まずさは何もない。
「今日はお前に付き合って俺も下から入るか」
午後の水浴び、いつもなら体を浸す前に軽く動くのが比古の日課だが、今は体の煤を落としたい。
すぐに水に入ろうと考えていた。
「一緒に……ですか」
「あぁ」
断る理由もなく、共に川に向かうしかなかった。
「比古師匠……お先にどうぞ」
ほんのり恥ずかしげに顔を背けていると、比古は「そうか」と素直に着物を脱ぎ捨てて入水した。
そのまま滝つぼに向かい、やがて姿が見えなる。
夢主は安心して帯を解き、単衣を脱いだ。
薄く軽い白い襦袢は水に濡れれば肌に纏わり付いて体の線や色をよく表してしまう。
それに気付いた夢主は水浴びの時に比古と顔を合わせないよう気をつけていた。
「冷たい……」
山の水は夏でも冷たく気持ちいい。
汗ばんだ肌をさらりと流してくれる。
「比古師匠どこまで行ったんだろう……」
ずっと水に潜っているのか比古の姿が見当らない。
もしかして気遣ってくれているのか……そんなことを思いながら辺りを見渡した。
余り長く浸かっているとこの季節とはいえ体が冷え切ってしまう。
暫く水を楽しんだ後、先に上がろうと浅瀬に上がった時、急に大きな水音がサブンと響いて夢主は川底に尻餅をついてしまった。
「おい、大丈夫か。頭を打つぞ」
「ひ、比古師匠……」
ザブザブと音を立てながら近付いて来る比古の手には魚が見えた。
どこで用意したのか、捕まえた何匹もの魚を持ち帰りやすいよう縄で纏めてある。
「今日の晩飯だ」
喜ぶと思い大漁の魚を見せる比古。夢主は戸惑いながらも頷いた。
だが水から現れた全身ずぶ濡れの下帯姿に視線を定められず、尻餅をついたまま顔を逸らした。
比古もようやく自分の姿に恥らっていると気付く。
「あぁ、すまなかったな」
岸辺に魚を置き川から上がる比古だが、あられも無い格好で固まる夢主の姿を横目に捉えてしまった。
……美しい……いや、淫靡か……
濡れた髪に顔中雫まみれ、白い肌に張り付いて離れない濡れた襦袢、水の中で開かれた足。
尻餅をついたまま固まっているせいか両手をだらんと垂らし、胸の膨らみが突き出されて嫌でも存在が目立っている。
濡れた白い布越しの艶めかしさに比古は目を細めた。
ふぅ……比古は息を吐き、体を背けた。
先に素早く着替え、置いてあった魚を手にした。
「おい、体が冷える前に上がって来い。俺はそこで待っているから……」
背中越しに話しかけると、ようやく夢主が水の中で動く音が聞こえた。
「やれやれ……」
……女としてみるつもりは毛頭ないはずが……
大切な預かりの客人の操を守るため、比古は頭の中から夢主の艶やかな姿を追い払おうと懸命だった。
「お待たせしました」
「あぁ、戻るか」
まともに顔が見られず、比古は一瞬目を合わせるとすぐに歩き出した。
「お前、祇園祭に行ったことはあるか」
「祇園祭……いえ、噂は聞いたことありますが、行ったことは……」
「そうか。間もなく祭の期間なんだが、どうだ。行ってみるか」
「えっ……いいんですか」
伊東に後をつけられたあの日以来、山に籠もっていた夢主は顔を綻ばせた。
「いいだろう、人が多ければそれだけ紛れることが出来る。禁門の変の大火でほとんどの山鉾が焼けてしまったそうだがな。ひとつ……妙な噂を耳にしてな」
「噂?」
「あぁ」
比古はずっと胸にしまい込み、伝えずにいた斎藤の祇園での噂を夢主に伝えた。
自分自身が夢主に気を惹かれる前に、夢主の気持ちを改めて確認してしまえば良い。
少しずるいやり方だが諦めをつけるには手っ取り早い。比古は夢主を斎藤がいる祇園に近寄らせようとした。