96.橙の祇園
夢主名前設定
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「哀れか……いや違う、お前は……どこまでも優しい女だな、強くて穢れない女だ」
「師匠……」
「こいつは本当に斎藤が羨ましいな」
「ふふっ、師匠ってば……」
……あぁ、居心地の良さだけではない、慈しむような優しさと、折れない強さ……どうして似ている……
比古は体を離すと思い出したように窯の火を整える為、腰を上げた。
「お前はもう……寝るがいい」
これ以上、こんな気持ちのままそばにいられると厄介だ……
比古は悟られないよう夢主を引き離した。
……春は桜が好きで……夏には星空を眺め……秋には満月の下……冬には雪の中を共に歩いた……俺の惚れた女……
比古は夢主の去った丸太に一人座り直すと、猪口から溢れるほど酒を注いだ。
「酒に……付き合ってくれたな」
酒を溢しながら猪口を空に掲げ、輝く月に重ねた。
指に酒が伝うのも気にせず、手を下ろすとそのまま口に運んだ。
「もう涙など枯れたものと思っていたが」
込み上げてくるものを抑える為に比古は酒を呑み続けた。
いつしか垂れた酒が、涙の痕のように丸太に滲みていた。
幾日も経った頃、比古はひとりで町に下りて噂が広まった事を確認した。
土方が建てた偽りの墓石を目にするとさすがに申し訳ない気持ちを抱いた。
そして町の様子を探るうち、祇園に新選組のお偉いさんが通い詰めていると浮ついた噂話を耳にした。
実は新選組ではない、御陵衛士だ、あの恐ろしい顔の斎藤一だから驚いた、そんな耳を疑う話に比古は何やら裏があると勘付いた。
これは暫く夢主には伏せて置くべきだな……そう判断して帰路に着いた。
「まさか斎藤君が祇園に通い詰めるなんて、俺びっくりだよ、夢主一筋だと思ってたのに……」
共に祇園へ呑みにやって来た藤堂が斎藤に噛み付いている。
やれやれと藤堂から目を逸らして外に向けると、僅かに開いた窓の向こう、格子の隙間から通りの人の流れがよく見えた。
「勝手な思い込みを、迷惑千万とはこの事だな」
「迷惑って、随分だな!夢主の噂だって知ってるんだろう!気にならないのかよ」
「噂だろ。それに俺にはな、関係ないんだよ」
斎藤が睨みつけると藤堂はむっとして眉を寄せた。
「腹立つなぁ……」
自分も大好きな夢主の気持ちを踏みにじってと気に食わないのだ。
急逝したと噂になり、気付けば墓まで建っていたのだ。信じたくない藤堂だが不安にならざるを得なかった。
「お前、あちこちで噂になってるぞ」
「ほぅ……俺は構わんが、ククッ」
……思う壺だな、どう出る夢主……
近頃のだらしなさに苦言を呈する藤堂だが、全く気にせず悪態を続ける斎藤に長嘆息をついた。
「馬鹿馬鹿しくなってきたな……祇園祭、お前を誘おうと思っていたけど止めたよ、他のやつらと行ってくる」
「あぁ、それがいい。俺は男とつるんで歩くのは好まん」
「ちえっ、むかつく男だ!」
本心では斎藤が大好きな藤堂だが憎々しげに言い捨て立ち去った。
「もうすぐ祇園祭、そんな時期か」
斎藤はことりと音を立てて猪口を置き、窓を眺めた。
朱色の格子越しに見える京の町や人々に、祇園祭の橙色が重なった。
「師匠……」
「こいつは本当に斎藤が羨ましいな」
「ふふっ、師匠ってば……」
……あぁ、居心地の良さだけではない、慈しむような優しさと、折れない強さ……どうして似ている……
比古は体を離すと思い出したように窯の火を整える為、腰を上げた。
「お前はもう……寝るがいい」
これ以上、こんな気持ちのままそばにいられると厄介だ……
比古は悟られないよう夢主を引き離した。
……春は桜が好きで……夏には星空を眺め……秋には満月の下……冬には雪の中を共に歩いた……俺の惚れた女……
比古は夢主の去った丸太に一人座り直すと、猪口から溢れるほど酒を注いだ。
「酒に……付き合ってくれたな」
酒を溢しながら猪口を空に掲げ、輝く月に重ねた。
指に酒が伝うのも気にせず、手を下ろすとそのまま口に運んだ。
「もう涙など枯れたものと思っていたが」
込み上げてくるものを抑える為に比古は酒を呑み続けた。
いつしか垂れた酒が、涙の痕のように丸太に滲みていた。
幾日も経った頃、比古はひとりで町に下りて噂が広まった事を確認した。
土方が建てた偽りの墓石を目にするとさすがに申し訳ない気持ちを抱いた。
そして町の様子を探るうち、祇園に新選組のお偉いさんが通い詰めていると浮ついた噂話を耳にした。
実は新選組ではない、御陵衛士だ、あの恐ろしい顔の斎藤一だから驚いた、そんな耳を疑う話に比古は何やら裏があると勘付いた。
これは暫く夢主には伏せて置くべきだな……そう判断して帰路に着いた。
「まさか斎藤君が祇園に通い詰めるなんて、俺びっくりだよ、夢主一筋だと思ってたのに……」
共に祇園へ呑みにやって来た藤堂が斎藤に噛み付いている。
やれやれと藤堂から目を逸らして外に向けると、僅かに開いた窓の向こう、格子の隙間から通りの人の流れがよく見えた。
「勝手な思い込みを、迷惑千万とはこの事だな」
「迷惑って、随分だな!夢主の噂だって知ってるんだろう!気にならないのかよ」
「噂だろ。それに俺にはな、関係ないんだよ」
斎藤が睨みつけると藤堂はむっとして眉を寄せた。
「腹立つなぁ……」
自分も大好きな夢主の気持ちを踏みにじってと気に食わないのだ。
急逝したと噂になり、気付けば墓まで建っていたのだ。信じたくない藤堂だが不安にならざるを得なかった。
「お前、あちこちで噂になってるぞ」
「ほぅ……俺は構わんが、ククッ」
……思う壺だな、どう出る夢主……
近頃のだらしなさに苦言を呈する藤堂だが、全く気にせず悪態を続ける斎藤に長嘆息をついた。
「馬鹿馬鹿しくなってきたな……祇園祭、お前を誘おうと思っていたけど止めたよ、他のやつらと行ってくる」
「あぁ、それがいい。俺は男とつるんで歩くのは好まん」
「ちえっ、むかつく男だ!」
本心では斎藤が大好きな藤堂だが憎々しげに言い捨て立ち去った。
「もうすぐ祇園祭、そんな時期か」
斎藤はことりと音を立てて猪口を置き、窓を眺めた。
朱色の格子越しに見える京の町や人々に、祇園祭の橙色が重なった。