96.橙の祇園
夢主名前設定
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「その後どうなったかは、俺も知らんのだ。それを知る資格も……ないだろう」
「比古師匠……その人は……どんな方だったのですか」
「あいつか……あいつはいい女だったぞ。似ている所があるとすれば……共にいて安らぐ所か」
「えっ……」
柔らかく微笑まれた夢主が首を傾げると、比古は顔を逸らして可笑しそうに声を漏らした。
「あのっ……」
「はははっ、いやすまない、何でも……この話はもう終いだ。これ以上思い出させるな」
「あ……ごめんなさい……」
辛い過去を思い起こさせてしまったと咄嗟に頭を下げるが、比古は優しい顔のまま首を振った。
「謝る必要はないがな、俺が女を思い出して困るのはお前だろう」
「私がですか」
「あぁ。俺が女の体を思い出しては、お前が困るだろう」
「かっ……」
女を思い出すとはそういう話かと、夢主は真っ赤な顔を背けた。
逃げ出したいが新選組の屯所とは勝手が違い、こんな山奥小さな家が一つでは、場を離れられない。
夢主は耳まで赤く染めて、そろりと比古の様子を窺った。
「安心しろ、何もしないさ。手出ししたら沖田が刀持ってやって来ちまうからな、俺はあいつは殺したくない」
例え向かってきても簡単に斬り捨てられる。
自信に満ちた比古の言葉に夢主は複雑な思いだ。
「そんな顔をするな、冗談だよ」
こくんと頭を動かした夢主をじっくり見ていた比古がポツリと漏らした。
「しかしお前も男を知っているんだな」
「へっ?!」
「いや、俺の話を聞いてお前体が火照りやがったろう、男を知らなきゃそんな反応体が勝手にするもんか」
「そっ……そうなんですかっ……それはっ……その……」
否定しきれずに目を泳がせて言葉を詰まらせた。
比古は何もかも見通してしまう。忘れていたから、忘れていたかった。人を詮索した罰なのか、夢主は瞳を曇らせた。
「いいじゃねぇか、斎藤か、あいつやるな……腹立たしいくらいだぜ」
こんなに想われ通じ合っているのかと大きな息を吐くが、夢主の様子が妙だ。
比古は顔を覗き込んだ。
「どうした」
「その……」
もじもじと言いにくそうに俯く赤い顔。はにかむでもなく、どこか憂い気だ。
比古は夢主が本当に言いたい言葉を探った。
「違うのか……まさか沖田じゃねぇだろう……」
「違い……ます……」
薪が弾ける音にかき消されそうなほど小さな声。
比古も何か事情があると察した。
この山に来て間もない頃、身の上話をした夢主が話の一部をやんわり隠したのには比古も気付いていた。
人はそれぞれ言いたくない事も抱えていると詮索しなかったが、今宵は触れてはいけない傷に手を伸ばしてしまったようだ。
「襲われたって話していた、見知らぬ奴等か」
ここまで聞いたのなら全て聞いて心を開放してやるべきか。
比古は続けて問うが、夢主の伏せた目がきらりと光り思わず言葉を止めた。
「すまなかったな……」
「いえ……忘れていたくらいですから……でも、斎藤さんじゃないんです……」
傍にいたのに、斎藤ではない……
触れて欲しいあの人では無いと、そう思うと忘れていた悲しい感情が湧いてきてしまった。
「壬生狼なのか……」
夢主は涙を伝わせて小さく頷いた。
「何てことだ……それなのにお前は」
「いいんです、避けられない事故みたいなもので……仕方が無かったんです。あの時の言い分は一理ありますから……」
あの時の言い分、避けられない……
何のことだ、話の分からぬ比古は問い詰めたい気持ちでいっぱいだった。
「夢主……」
「わっ……」
居た堪れなくなった比古はその大きな腕に夢主をおさめた。
「比古師匠……その人は……どんな方だったのですか」
「あいつか……あいつはいい女だったぞ。似ている所があるとすれば……共にいて安らぐ所か」
「えっ……」
柔らかく微笑まれた夢主が首を傾げると、比古は顔を逸らして可笑しそうに声を漏らした。
「あのっ……」
「はははっ、いやすまない、何でも……この話はもう終いだ。これ以上思い出させるな」
「あ……ごめんなさい……」
辛い過去を思い起こさせてしまったと咄嗟に頭を下げるが、比古は優しい顔のまま首を振った。
「謝る必要はないがな、俺が女を思い出して困るのはお前だろう」
「私がですか」
「あぁ。俺が女の体を思い出しては、お前が困るだろう」
「かっ……」
女を思い出すとはそういう話かと、夢主は真っ赤な顔を背けた。
逃げ出したいが新選組の屯所とは勝手が違い、こんな山奥小さな家が一つでは、場を離れられない。
夢主は耳まで赤く染めて、そろりと比古の様子を窺った。
「安心しろ、何もしないさ。手出ししたら沖田が刀持ってやって来ちまうからな、俺はあいつは殺したくない」
例え向かってきても簡単に斬り捨てられる。
自信に満ちた比古の言葉に夢主は複雑な思いだ。
「そんな顔をするな、冗談だよ」
こくんと頭を動かした夢主をじっくり見ていた比古がポツリと漏らした。
「しかしお前も男を知っているんだな」
「へっ?!」
「いや、俺の話を聞いてお前体が火照りやがったろう、男を知らなきゃそんな反応体が勝手にするもんか」
「そっ……そうなんですかっ……それはっ……その……」
否定しきれずに目を泳がせて言葉を詰まらせた。
比古は何もかも見通してしまう。忘れていたから、忘れていたかった。人を詮索した罰なのか、夢主は瞳を曇らせた。
「いいじゃねぇか、斎藤か、あいつやるな……腹立たしいくらいだぜ」
こんなに想われ通じ合っているのかと大きな息を吐くが、夢主の様子が妙だ。
比古は顔を覗き込んだ。
「どうした」
「その……」
もじもじと言いにくそうに俯く赤い顔。はにかむでもなく、どこか憂い気だ。
比古は夢主が本当に言いたい言葉を探った。
「違うのか……まさか沖田じゃねぇだろう……」
「違い……ます……」
薪が弾ける音にかき消されそうなほど小さな声。
比古も何か事情があると察した。
この山に来て間もない頃、身の上話をした夢主が話の一部をやんわり隠したのには比古も気付いていた。
人はそれぞれ言いたくない事も抱えていると詮索しなかったが、今宵は触れてはいけない傷に手を伸ばしてしまったようだ。
「襲われたって話していた、見知らぬ奴等か」
ここまで聞いたのなら全て聞いて心を開放してやるべきか。
比古は続けて問うが、夢主の伏せた目がきらりと光り思わず言葉を止めた。
「すまなかったな……」
「いえ……忘れていたくらいですから……でも、斎藤さんじゃないんです……」
傍にいたのに、斎藤ではない……
触れて欲しいあの人では無いと、そう思うと忘れていた悲しい感情が湧いてきてしまった。
「壬生狼なのか……」
夢主は涙を伝わせて小さく頷いた。
「何てことだ……それなのにお前は」
「いいんです、避けられない事故みたいなもので……仕方が無かったんです。あの時の言い分は一理ありますから……」
あの時の言い分、避けられない……
何のことだ、話の分からぬ比古は問い詰めたい気持ちでいっぱいだった。
「夢主……」
「わっ……」
居た堪れなくなった比古はその大きな腕に夢主をおさめた。