95.弔い
夢主名前設定
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一方、土方に全て押し付けて帰路に着いた伊東は、宿舎に着くなり別の問題に気が付いた。
「斎藤さんにどう伝えれば……話が回って来るまで放っておけば良いかしら、いえ、私が知っていたと知れたら厄介だわ……」
青い唇でぶつぶつ漏らす伊東の背後に、その張本人が現れた。
「俺がどう厄介なのでしょうか」
「あぁっ、斎藤さん!違うのよ、貴方が厄介なのでは決して無くってよ!」
斎藤に対し信頼もあれば畏れも抱いている伊東は、慌てて独り言を訂正した。
「実はとても厄介な話を耳にしてしまって……」
「ほぅ、それはまたどんな」
涼しい顔で目を合わせて来る斎藤にどう伝えれば良いか、言葉に迷う伊東の顔に、再び脂汗が滲んでいた。
「大丈夫ですか、気分が優れないようですね」
「え、えぇっ……斎藤さん、落ち着いて聞いてくださいな」
落ち着くのはお前だろう、伊東の只ならぬ様子に斎藤は訝しむが、大人しく耳を傾けた。
「実は……夢主さんが、亡くな……った……そうよ」
「っ……」
……何っ……
何を言っているのか、伊東は何を企んでいる。
斎藤は細い目を更に鋭く尖らせ睨み付けた。
「わ、私は何もしていないわ、遺髪を渡されたのよ!そう、夢主さんを知っているという男から……」
「遺髪だと、それは今どこにあるんです」
「新……新選組の手に、土方さんに渡せと言われたのよ」
「土方さんに」
「えぇっ、夢主さんが新選組を慕っていたからと……」
「成る程……」
……馬鹿な、新津か……あの男のもとで一体何が……生きると誓ったあいつが早々に死ぬわけが無い……
「フッ……」
少しも信じることが出来ぬ話に斎藤は鼻をならすが、万一の可能性も考えずにはいられなかった。
……事故……高所からの転落……突然の病……山の獣か、山賊……いや、あの男が一緒にいてそれはあるまい……
「確認を……いや、何でもありません。今日も一日色々な方にお会いしたのでしょう、少し休んでは如何ですか、伊東さん」
「そうね……今日は流石に疲れたわ……一足先に休ませていただきましょうかしら……」
「それがいいでしょう」
すぐにでも確認に走りたい斎藤だが、関係を否定して出てきたのだから慌てて新選組のもとへ走るわけにもいかない。
……皆が寝静まったら静かに抜け出すか、明日まで待つか……
斎藤は気付かれないよう息を深く吐いて、騒ぐ心を落ち着かせた。
急ぐ必要はない。事実でも虚言でも、あの男の企みならば、急いだからと言って何かが変わるわけではない。
「俺も今日は早く寝るとしましょう」
「そうね、貴方もゆっくり休むといいわ、斎藤さん……」
伊東は斎藤への労いは忘れない。関わりを否定していようが斎藤はきっと夢主を気に掛けている。
死んだと言って来たあの男から夢主を取り戻すとすれば、斎藤の存在が鍵になるだろうと考えていた。
伊東が寝床へ向かう姿を確かめると、斎藤はゆっくりと向きを変えて宿舎から出て行った。
すっかり闇に沈んだ京の町。
闇に潜んで歩く為、手元に灯りは無い。空には雲が広がり、頼みの月明かりも届かない。
しかし目を瞑ってでもこの町を歩く自信がある斎藤は、迷わず夜道を歩いて行った。
「斎藤さんにどう伝えれば……話が回って来るまで放っておけば良いかしら、いえ、私が知っていたと知れたら厄介だわ……」
青い唇でぶつぶつ漏らす伊東の背後に、その張本人が現れた。
「俺がどう厄介なのでしょうか」
「あぁっ、斎藤さん!違うのよ、貴方が厄介なのでは決して無くってよ!」
斎藤に対し信頼もあれば畏れも抱いている伊東は、慌てて独り言を訂正した。
「実はとても厄介な話を耳にしてしまって……」
「ほぅ、それはまたどんな」
涼しい顔で目を合わせて来る斎藤にどう伝えれば良いか、言葉に迷う伊東の顔に、再び脂汗が滲んでいた。
「大丈夫ですか、気分が優れないようですね」
「え、えぇっ……斎藤さん、落ち着いて聞いてくださいな」
落ち着くのはお前だろう、伊東の只ならぬ様子に斎藤は訝しむが、大人しく耳を傾けた。
「実は……夢主さんが、亡くな……った……そうよ」
「っ……」
……何っ……
何を言っているのか、伊東は何を企んでいる。
斎藤は細い目を更に鋭く尖らせ睨み付けた。
「わ、私は何もしていないわ、遺髪を渡されたのよ!そう、夢主さんを知っているという男から……」
「遺髪だと、それは今どこにあるんです」
「新……新選組の手に、土方さんに渡せと言われたのよ」
「土方さんに」
「えぇっ、夢主さんが新選組を慕っていたからと……」
「成る程……」
……馬鹿な、新津か……あの男のもとで一体何が……生きると誓ったあいつが早々に死ぬわけが無い……
「フッ……」
少しも信じることが出来ぬ話に斎藤は鼻をならすが、万一の可能性も考えずにはいられなかった。
……事故……高所からの転落……突然の病……山の獣か、山賊……いや、あの男が一緒にいてそれはあるまい……
「確認を……いや、何でもありません。今日も一日色々な方にお会いしたのでしょう、少し休んでは如何ですか、伊東さん」
「そうね……今日は流石に疲れたわ……一足先に休ませていただきましょうかしら……」
「それがいいでしょう」
すぐにでも確認に走りたい斎藤だが、関係を否定して出てきたのだから慌てて新選組のもとへ走るわけにもいかない。
……皆が寝静まったら静かに抜け出すか、明日まで待つか……
斎藤は気付かれないよう息を深く吐いて、騒ぐ心を落ち着かせた。
急ぐ必要はない。事実でも虚言でも、あの男の企みならば、急いだからと言って何かが変わるわけではない。
「俺も今日は早く寝るとしましょう」
「そうね、貴方もゆっくり休むといいわ、斎藤さん……」
伊東は斎藤への労いは忘れない。関わりを否定していようが斎藤はきっと夢主を気に掛けている。
死んだと言って来たあの男から夢主を取り戻すとすれば、斎藤の存在が鍵になるだろうと考えていた。
伊東が寝床へ向かう姿を確かめると、斎藤はゆっくりと向きを変えて宿舎から出て行った。
すっかり闇に沈んだ京の町。
闇に潜んで歩く為、手元に灯りは無い。空には雲が広がり、頼みの月明かりも届かない。
しかし目を瞑ってでもこの町を歩く自信がある斎藤は、迷わず夜道を歩いて行った。