95.弔い
夢主名前設定
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新選組の屯所、土方は自室で執務に当たっていた。
「副長、客人です」
「誰だ」
「それが……御陵衛士の伊東先生です」
「何っ」
出て行ったばかりの嫌な顔をこんなに早く見なければならないのか。
顔を歪め、目の前の小姓に「追い返せ」と指示したい気持ちを抑え、伊東を部屋に通した。
「どうしました、伊東さん。顔色が悪いじゃありませんか」
御陵衛士の企みが上手く行っていないのか。
どんな取引を持ち込んできたのか、土方は伊東が話を切り出すのを待った。
「実は……これを見て頂戴」
「こいつは……おいっ!」
伊東が懐紙を開く様子を、落ち着いて眺めていた土方の顔色が変わった。
「夢主の髪紐……」
「そっ、そうなのよ」
「貴様がやったのか!」
「おぉお、落ち着いて頂戴!!」
丁寧に包まれた髪が届けられる。それがどういう意味か知る土方は、叫んで立ち上がった。
伊東は誤解だと必死になだめ、座れと全身で促している。
「貴様じゃないのか」
「違うわよ!!渡されたのよ、知らない……男に」
「知らない男?」
その時、障子の外の気配に二人が顔を向けた。
珍客が来たと聞き、更に土方の荒れた声が聞こえたので気になって寄ってきた人物だ。
「沖田さんね、土方さんがよければどうぞ中へ……」
「入れ、総司」
伊東が土方の顔色を窺う間にも、土方は沖田を部屋に招き入れた。
「すみません、盗み聞きするつもりは無かったんです」
「分かってるさ」
「それより、その知らない男の人ってどんな人でしたか」
「そうね……やけに体が大きくて、目立つ白い外套を羽織っていたわ」
「やっぱり……」
「心当たりがあるのか」
沖田は頷いて懐紙の上の髪を覗き込んだ。
「夢主ちゃんのですね、間違いありません……」
「どういう事だ」
「その人が死んだと言うのなら……死んだのでしょう」
理解出来ない現実に三人はしばらく黙り込んでしまった。
綺麗に束ねられた髪は艶を失っておらず、紙の上に美しく置かれている。
「……とにかくこいつは、新選組が預かる。死んだと言うのなら……俺達で弔ってやるさ……」
「土方さん!」
本気で言っているのかと沖田は驚くが、真面目な顔でその通りだと言い返されてしまった。
「では……後はお願いするわよ、私にはもう、何がなんだか……」
伊東は比古を思い出して、これ以上自分にどうしろと……考え付かずに土方に全て投げ打ってしまった。
「私にはすべきことがあるのよ、夢主さんに手伝って欲しかったのよ……ただ、それだけで、」
「わかった。もういいから、何も言わず帰ってくれ」
「……さようなら」
伊東は困惑した表情を残して退席した。
面倒を全て土方に任せたのだ。
「土方さん、これは一体……」
「わからん。俺にはその外套の男が何を考えているのか」
「僕にだって……夢主ちゃんが死んだなんて嘘に決まってる……」
「そういう事にしておけ、と言いたいのか」
「僕……確認してきましょうか」
酒屋に行けば手掛かりが掴めるかも知れない、しかし土方は首を振った。
「考えればこれは好都合だ。死んだ事にすれば誰も追わないし探さない……そういう事かも知れねぇ」
「確かに……追っ手が来るのは面倒、考えそうなお人です」
「そうなれば周りに知らせる必要があるな…………本当に弔うか」
「えっ、本気ですか」
「あぁ」
土方の指示で夢主の遺髪を入れるための墓石が建てられた。
話を聞かされて手を合わせに来た男達も、ほとんどが話を信じなかった。
だがこれまでに夢主に関わった厄介な男達を何人も頭に思い浮かべ、奴等にこの死の報せが届けば狙われなくなるのでは……
そう信じて、偽りの墓石に手を合わせた。
「趣味が悪いな……」
「何だよ、いいだろう」
他に誰もいなくなった寺の中、沖田と土方が建てられた墓石の側面に刻まれた銘を眺めていた。
「土方さんが決めたんでしょう」
「あぁ。この時代に存在しないはずの、あいつの名前を刻むわけにはいかねぇだろう」
「そうですけれど……よりによって沖田氏縁者だなんて、僕は嬉しくありませんよ」
「名が無理で、馴染みだった斎藤が出て行った後、付けられる墓碑銘と言えばこんなもんだろう、文句言うな」
「わかりましたよ……」
……夢主ちゃんは今頃どうしているんだろう……まさか本当に……
「そんな事あるわけがない」
沖田は空っぽの墓石を眺めて呟いた。
「副長、客人です」
「誰だ」
「それが……御陵衛士の伊東先生です」
「何っ」
出て行ったばかりの嫌な顔をこんなに早く見なければならないのか。
顔を歪め、目の前の小姓に「追い返せ」と指示したい気持ちを抑え、伊東を部屋に通した。
「どうしました、伊東さん。顔色が悪いじゃありませんか」
御陵衛士の企みが上手く行っていないのか。
どんな取引を持ち込んできたのか、土方は伊東が話を切り出すのを待った。
「実は……これを見て頂戴」
「こいつは……おいっ!」
伊東が懐紙を開く様子を、落ち着いて眺めていた土方の顔色が変わった。
「夢主の髪紐……」
「そっ、そうなのよ」
「貴様がやったのか!」
「おぉお、落ち着いて頂戴!!」
丁寧に包まれた髪が届けられる。それがどういう意味か知る土方は、叫んで立ち上がった。
伊東は誤解だと必死になだめ、座れと全身で促している。
「貴様じゃないのか」
「違うわよ!!渡されたのよ、知らない……男に」
「知らない男?」
その時、障子の外の気配に二人が顔を向けた。
珍客が来たと聞き、更に土方の荒れた声が聞こえたので気になって寄ってきた人物だ。
「沖田さんね、土方さんがよければどうぞ中へ……」
「入れ、総司」
伊東が土方の顔色を窺う間にも、土方は沖田を部屋に招き入れた。
「すみません、盗み聞きするつもりは無かったんです」
「分かってるさ」
「それより、その知らない男の人ってどんな人でしたか」
「そうね……やけに体が大きくて、目立つ白い外套を羽織っていたわ」
「やっぱり……」
「心当たりがあるのか」
沖田は頷いて懐紙の上の髪を覗き込んだ。
「夢主ちゃんのですね、間違いありません……」
「どういう事だ」
「その人が死んだと言うのなら……死んだのでしょう」
理解出来ない現実に三人はしばらく黙り込んでしまった。
綺麗に束ねられた髪は艶を失っておらず、紙の上に美しく置かれている。
「……とにかくこいつは、新選組が預かる。死んだと言うのなら……俺達で弔ってやるさ……」
「土方さん!」
本気で言っているのかと沖田は驚くが、真面目な顔でその通りだと言い返されてしまった。
「では……後はお願いするわよ、私にはもう、何がなんだか……」
伊東は比古を思い出して、これ以上自分にどうしろと……考え付かずに土方に全て投げ打ってしまった。
「私にはすべきことがあるのよ、夢主さんに手伝って欲しかったのよ……ただ、それだけで、」
「わかった。もういいから、何も言わず帰ってくれ」
「……さようなら」
伊東は困惑した表情を残して退席した。
面倒を全て土方に任せたのだ。
「土方さん、これは一体……」
「わからん。俺にはその外套の男が何を考えているのか」
「僕にだって……夢主ちゃんが死んだなんて嘘に決まってる……」
「そういう事にしておけ、と言いたいのか」
「僕……確認してきましょうか」
酒屋に行けば手掛かりが掴めるかも知れない、しかし土方は首を振った。
「考えればこれは好都合だ。死んだ事にすれば誰も追わないし探さない……そういう事かも知れねぇ」
「確かに……追っ手が来るのは面倒、考えそうなお人です」
「そうなれば周りに知らせる必要があるな…………本当に弔うか」
「えっ、本気ですか」
「あぁ」
土方の指示で夢主の遺髪を入れるための墓石が建てられた。
話を聞かされて手を合わせに来た男達も、ほとんどが話を信じなかった。
だがこれまでに夢主に関わった厄介な男達を何人も頭に思い浮かべ、奴等にこの死の報せが届けば狙われなくなるのでは……
そう信じて、偽りの墓石に手を合わせた。
「趣味が悪いな……」
「何だよ、いいだろう」
他に誰もいなくなった寺の中、沖田と土方が建てられた墓石の側面に刻まれた銘を眺めていた。
「土方さんが決めたんでしょう」
「あぁ。この時代に存在しないはずの、あいつの名前を刻むわけにはいかねぇだろう」
「そうですけれど……よりによって沖田氏縁者だなんて、僕は嬉しくありませんよ」
「名が無理で、馴染みだった斎藤が出て行った後、付けられる墓碑銘と言えばこんなもんだろう、文句言うな」
「わかりましたよ……」
……夢主ちゃんは今頃どうしているんだろう……まさか本当に……
「そんな事あるわけがない」
沖田は空っぽの墓石を眺めて呟いた。