95.弔い
夢主名前設定
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翌朝。
日が昇ると、比古は暗い中で交わした約束を果たす為、夢主の髪に手を掛けた。
「本当にいいか」
「はい……髪はまた伸びますし、比古師匠にも……斎藤さんにも、都合の良い話です」
「都合が良いか、確かにな。……切るぞ」
夢主がこくりと頷くのを待ってから、比古は紐で縛られた夢主の髪束を切り落とした。
長かった髪は肩ほどの長さでさらりと広がった。
「壬生狼の中で一番物事を掌握し、頭の良い男は誰だ」
「……土方さんです。新選組の副長、土方歳三さん……」
「土方か。お前に金を持たせたのもその男か」
「はい」
「そうか、なら間違いなかろう」
比古は髪を取り出した懐紙に包むと懐にしまった。
「お前は小屋で待っていろ、今回だけは連れて行けん」
「分かりました……」
お願いします、夢主が頭を下げると比古は一人山を下った。
残されて比古の帰りを待つ夢主、髪は軽くなったが心は重くなるばかり。
頼もしい存在がいなくなり、小屋の外から聞こえる物音にいつも以上に反応してしまう。不安な気持ちは膨らみ続けた。
比古の考え通り、伊東が様子を見にやって来ていた。
昨日と同じ場所、山の入り口で腰を曲げ、木々の奥を覗く男がいる。
「昨日の今日で一人で来るとはなかなか見上げた根性だな」
「ひっ、昨日の!」
少し用事がある、伊東は仲間にそう言い残して一人宿舎を出て、迷わず昨日と同じ山の麓にやって来たのだ。
「お前もしつこいな。だがそれも終わりだ。受け取れ」
「えっ、これは……」
比古は伊東の目の前に白い懐紙を放り投げた。
両手で受け取った伊東が恐る恐る紙を開くと、中には切られたばかりの夢主の髪の毛束があった。
「えっ、どういう事……この紐は……」
「お前の探していた女の物だろう」
「そう、そうですけど、髪とは一体」
「わからんのか。女は死んだ」
「死ん……まさか、どうして、何が原因で死んだのです!」
「お前には関係あるまい……察しの悪い男だな。お前、それを新選組の土方に届けろ。そして死んだと伝えるんだ。いいな、お前に託したぞ」
「えっ、新選組にっ」
「あぁ。夢主の遺言だ。新選組の連中が大好きだったそうだな」
「っ……そうね……」
今の状況で新選組に顔を出したくない伊東は渋り顔を見せるが、比古の気迫に頷かざるを得なかった。
伊東も確かな剣椀の持ち主だ、比古の恐ろしさが伝わらない訳がない。
実の所、伊東は非常に察しの良い男だ。夢主が本当に死んだかは疑わしい、だがそういう事にしておけと目の前の男は言っているのだ。
逆らえばどうなるのか……それを察しろと、体から漏れ出る尖った気が告げている。
「わかっ……わかったわ、夢主さんは……亡くなられたのね……」
「あぁ」
比古に遠慮するように伊東は頭を下げてその場を立ち去った。
「馬鹿馬鹿しい、夢主さんが死んだなんて……しかしあの男は一体……」
懐紙を手にしたまま歩く伊東、その手が時折震えていた。
比古の存在を思い出すと脂汗が背中を伝っていく。
「行けばいいのでしょう、屯所にっ……」
ぐぅっと歯を食いしばり手に力を込めて、無理矢理にでも震えを抑える。
しかし震えはすぐに再発し、背中に続いて額からも脂汗が流れ落ちた。
日が昇ると、比古は暗い中で交わした約束を果たす為、夢主の髪に手を掛けた。
「本当にいいか」
「はい……髪はまた伸びますし、比古師匠にも……斎藤さんにも、都合の良い話です」
「都合が良いか、確かにな。……切るぞ」
夢主がこくりと頷くのを待ってから、比古は紐で縛られた夢主の髪束を切り落とした。
長かった髪は肩ほどの長さでさらりと広がった。
「壬生狼の中で一番物事を掌握し、頭の良い男は誰だ」
「……土方さんです。新選組の副長、土方歳三さん……」
「土方か。お前に金を持たせたのもその男か」
「はい」
「そうか、なら間違いなかろう」
比古は髪を取り出した懐紙に包むと懐にしまった。
「お前は小屋で待っていろ、今回だけは連れて行けん」
「分かりました……」
お願いします、夢主が頭を下げると比古は一人山を下った。
残されて比古の帰りを待つ夢主、髪は軽くなったが心は重くなるばかり。
頼もしい存在がいなくなり、小屋の外から聞こえる物音にいつも以上に反応してしまう。不安な気持ちは膨らみ続けた。
比古の考え通り、伊東が様子を見にやって来ていた。
昨日と同じ場所、山の入り口で腰を曲げ、木々の奥を覗く男がいる。
「昨日の今日で一人で来るとはなかなか見上げた根性だな」
「ひっ、昨日の!」
少し用事がある、伊東は仲間にそう言い残して一人宿舎を出て、迷わず昨日と同じ山の麓にやって来たのだ。
「お前もしつこいな。だがそれも終わりだ。受け取れ」
「えっ、これは……」
比古は伊東の目の前に白い懐紙を放り投げた。
両手で受け取った伊東が恐る恐る紙を開くと、中には切られたばかりの夢主の髪の毛束があった。
「えっ、どういう事……この紐は……」
「お前の探していた女の物だろう」
「そう、そうですけど、髪とは一体」
「わからんのか。女は死んだ」
「死ん……まさか、どうして、何が原因で死んだのです!」
「お前には関係あるまい……察しの悪い男だな。お前、それを新選組の土方に届けろ。そして死んだと伝えるんだ。いいな、お前に託したぞ」
「えっ、新選組にっ」
「あぁ。夢主の遺言だ。新選組の連中が大好きだったそうだな」
「っ……そうね……」
今の状況で新選組に顔を出したくない伊東は渋り顔を見せるが、比古の気迫に頷かざるを得なかった。
伊東も確かな剣椀の持ち主だ、比古の恐ろしさが伝わらない訳がない。
実の所、伊東は非常に察しの良い男だ。夢主が本当に死んだかは疑わしい、だがそういう事にしておけと目の前の男は言っているのだ。
逆らえばどうなるのか……それを察しろと、体から漏れ出る尖った気が告げている。
「わかっ……わかったわ、夢主さんは……亡くなられたのね……」
「あぁ」
比古に遠慮するように伊東は頭を下げてその場を立ち去った。
「馬鹿馬鹿しい、夢主さんが死んだなんて……しかしあの男は一体……」
懐紙を手にしたまま歩く伊東、その手が時折震えていた。
比古の存在を思い出すと脂汗が背中を伝っていく。
「行けばいいのでしょう、屯所にっ……」
ぐぅっと歯を食いしばり手に力を込めて、無理矢理にでも震えを抑える。
しかし震えはすぐに再発し、背中に続いて額からも脂汗が流れ落ちた。