95.弔い
夢主名前設定
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灯りが落とされた山小屋には、囲炉裏を挟んで二組の布団が敷かれていた。入り口側に比古が横たわっている。
格子窓から僅かに月明かりが射し込むが、とても薄暗い夜だ。
「比古師匠……」
囲炉裏越しに背を向ける比古に呼びかけた。
寝ているのか返事がない。
夢主がもう一度名を呼ぼうと息を吸った時、比古がのったりと寝返りを打って顔を見せた。
「何だ」
比古の低い声が静かな狭い空間によく響く。
意図せず凄みが生まれ、夢主の体は緊張した。
「昼間のお話……お願いします。斎藤さん達ならきっと裏があるってわかってくれるはずです……だから、私を……」
自分を死んだことにしてください、なんと理不尽な願いだろうと思わず言葉を詰まらせた。
「分かった。明日、お前の髪をもらう。いいか」
「髪を……」
夢主の髪は降ろせば腰の辺りまである。
結い上げれば立派な女髷に出来るだろう。
「あぁ。昼間の男、あいつは明日もまた来るだろう。あいつに遺髪だと言って渡してやる。嫌でも信じてもらうさ」
「わかりました……全部お任せします……」
こんなに面倒な事に巻き込んでしまったのだ。
せめて比古の思うままに、斎藤が任務を遂行しやすいように。
夢主はこれから流れる自分の悲しい噂を了承した。
「私が死んだと思って……斎藤さん変な気を起こさないでしょうか……」
「変な気だと」
「女の人に溺れるとか……」
「フッ……お前も馬鹿だな」
「そんなっ……」
「惚れてるんだろう、信じてやれよ」
「……でも……男の人って……」
「誰もが同じじゃないだろう」
「……はぃ」
斎藤が気の迷いを起こした夜は確かに過去、何度かあった。
不安を全て消し去りは出来ないが、あれから成長した斎藤を信じてみたい。
夢主は布団の中で自らの体を抱くよう腕を抱えた。
山での二人の策略を知らない京の男達。
沖田は久しぶりに夜の巡察に赴いた。
同行するのはよく知る永倉の隊。心配は何もなく、久方振りの夜の町を楽しんでいた。
「意外だな……僕が夜の京をこんなに好きだったなんて」
沖田は嬉しそうに夜道に目を凝らしていた。夜の空気に浮かれている自分が分かる。
「総司、二手に別れるぞ」
「はい。永倉さん、気を付けてください、今夜は良い気分です」
「何だよそりゃ」
「ははっ、僕が気分の良い夜は出るんですよ……」
左の頬を指でつぅっとなぞって、抜刀斎に出会う予感を告げた。
「まさか」
「そのまさかですよ、楽しみですね」
「お前こそ気を付けろよ」
道を分けて進む永倉の部隊にニコニコ手を振り、沖田は広がる道の先に気を尖らせた。
「います……行きますよ!!」
「あっ、沖田先生っ!」
続く隊士達を置き去りにする勢いで沖田は疾走し、角を曲がると同時に抜刀した。
「新選組、沖田総司かっ!」
「お久しぶりです、緋村さん!」
互いに名前を確認した時には既に鍔迫り合いになっていた。
鋼がぶつかる甲高い音を立てて押し合う二人、息が掛かりそうなほど近かった。
「くぅっ!!」
沖田が刀を流して体を離すと、体勢を崩した緋村もすぐに構えを直した。
そばでは遅れていた隊士達が追いつき、逃げ出そうとする長州の志士達を取り囲んでいる。
「僕の勘は当たりますね」
嬉しそうに言う沖田を尻目に、緋村は後方を確認した。
背後では仲間が突然現れただんだら羽織の集団にたじろいでいる。
仲間を逃がす最中に新選組がやって来るとは運が悪い。
志士達が安全な場所へ辿り着くまで、ここで引きとめなければ。
争わず済ませたいが、相手が相手だけに脅しも通じまい。
「退け、沖田。お前は病ではないのか」
「……っははははは!!緋村さんに心配して頂けるとは光栄です!!っぷ、ふはははっ」
「何が可笑しい……心まで病んでいるのか」
「ふふっ、いえ、すみません」
大笑いを堪えても尚、沖田の顔はにやけていた。
……長州の人にまで僕の噂が広がっているなんて、土方さんは一体どんな方法を取ったんだか……
初心に返るような基本の構えを取り、沖田はすぅっと息を吸った。
ゆっくり吐いて気を落ち着ける。
「失礼しました、大丈夫ですよ緋村さん、僕はまだまだ剣を振れます」
「何故に死に急ぐ」
「死に急いでなんかいませんよ、確かに少し塞いでいたんですけどね……ありがとうございます。緋村さんに出会えて元気が出ました」
「戯言を」
相手に切っ先を向けてピタリと止まった二人、好意的な言葉とは裏腹に沖田の鋭い殺気が緋村に向けられている。
格子窓から僅かに月明かりが射し込むが、とても薄暗い夜だ。
「比古師匠……」
囲炉裏越しに背を向ける比古に呼びかけた。
寝ているのか返事がない。
夢主がもう一度名を呼ぼうと息を吸った時、比古がのったりと寝返りを打って顔を見せた。
「何だ」
比古の低い声が静かな狭い空間によく響く。
意図せず凄みが生まれ、夢主の体は緊張した。
「昼間のお話……お願いします。斎藤さん達ならきっと裏があるってわかってくれるはずです……だから、私を……」
自分を死んだことにしてください、なんと理不尽な願いだろうと思わず言葉を詰まらせた。
「分かった。明日、お前の髪をもらう。いいか」
「髪を……」
夢主の髪は降ろせば腰の辺りまである。
結い上げれば立派な女髷に出来るだろう。
「あぁ。昼間の男、あいつは明日もまた来るだろう。あいつに遺髪だと言って渡してやる。嫌でも信じてもらうさ」
「わかりました……全部お任せします……」
こんなに面倒な事に巻き込んでしまったのだ。
せめて比古の思うままに、斎藤が任務を遂行しやすいように。
夢主はこれから流れる自分の悲しい噂を了承した。
「私が死んだと思って……斎藤さん変な気を起こさないでしょうか……」
「変な気だと」
「女の人に溺れるとか……」
「フッ……お前も馬鹿だな」
「そんなっ……」
「惚れてるんだろう、信じてやれよ」
「……でも……男の人って……」
「誰もが同じじゃないだろう」
「……はぃ」
斎藤が気の迷いを起こした夜は確かに過去、何度かあった。
不安を全て消し去りは出来ないが、あれから成長した斎藤を信じてみたい。
夢主は布団の中で自らの体を抱くよう腕を抱えた。
山での二人の策略を知らない京の男達。
沖田は久しぶりに夜の巡察に赴いた。
同行するのはよく知る永倉の隊。心配は何もなく、久方振りの夜の町を楽しんでいた。
「意外だな……僕が夜の京をこんなに好きだったなんて」
沖田は嬉しそうに夜道に目を凝らしていた。夜の空気に浮かれている自分が分かる。
「総司、二手に別れるぞ」
「はい。永倉さん、気を付けてください、今夜は良い気分です」
「何だよそりゃ」
「ははっ、僕が気分の良い夜は出るんですよ……」
左の頬を指でつぅっとなぞって、抜刀斎に出会う予感を告げた。
「まさか」
「そのまさかですよ、楽しみですね」
「お前こそ気を付けろよ」
道を分けて進む永倉の部隊にニコニコ手を振り、沖田は広がる道の先に気を尖らせた。
「います……行きますよ!!」
「あっ、沖田先生っ!」
続く隊士達を置き去りにする勢いで沖田は疾走し、角を曲がると同時に抜刀した。
「新選組、沖田総司かっ!」
「お久しぶりです、緋村さん!」
互いに名前を確認した時には既に鍔迫り合いになっていた。
鋼がぶつかる甲高い音を立てて押し合う二人、息が掛かりそうなほど近かった。
「くぅっ!!」
沖田が刀を流して体を離すと、体勢を崩した緋村もすぐに構えを直した。
そばでは遅れていた隊士達が追いつき、逃げ出そうとする長州の志士達を取り囲んでいる。
「僕の勘は当たりますね」
嬉しそうに言う沖田を尻目に、緋村は後方を確認した。
背後では仲間が突然現れただんだら羽織の集団にたじろいでいる。
仲間を逃がす最中に新選組がやって来るとは運が悪い。
志士達が安全な場所へ辿り着くまで、ここで引きとめなければ。
争わず済ませたいが、相手が相手だけに脅しも通じまい。
「退け、沖田。お前は病ではないのか」
「……っははははは!!緋村さんに心配して頂けるとは光栄です!!っぷ、ふはははっ」
「何が可笑しい……心まで病んでいるのか」
「ふふっ、いえ、すみません」
大笑いを堪えても尚、沖田の顔はにやけていた。
……長州の人にまで僕の噂が広がっているなんて、土方さんは一体どんな方法を取ったんだか……
初心に返るような基本の構えを取り、沖田はすぅっと息を吸った。
ゆっくり吐いて気を落ち着ける。
「失礼しました、大丈夫ですよ緋村さん、僕はまだまだ剣を振れます」
「何故に死に急ぐ」
「死に急いでなんかいませんよ、確かに少し塞いでいたんですけどね……ありがとうございます。緋村さんに出会えて元気が出ました」
「戯言を」
相手に切っ先を向けてピタリと止まった二人、好意的な言葉とは裏腹に沖田の鋭い殺気が緋村に向けられている。