95.弔い
夢主名前設定
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「斎藤さん、ちょっと失礼するわ」
「どちらへ」
「人と会う約束があるのよ、ご免なさいね」
「そうですか」
道の途中、伊東は突然別れを告げると方向転換をして速足に去っていった。
「まさか、夢主を探しに行くのか」
後をつけるか迷う斎藤だが、夢主には比古がいる。
奴に任せたからには今は手出し無用。
斎藤は人通りの多い道を北上し、一足先に宿舎を目指した。
斎藤と分かれた伊東は後ろを振り返り、誰もつけていないのを確認して先を急いだ。
「あれは絶対に夢主さんの気配よ、間違えるはず無いわ」
町外れで伊東はようやく比古らしき大柄の男の背中を捉えた。
「いたわっ!あの傍の娘……夢主さんに違いない」
夢主だと確信した矢先、目の前で山道に姿を消し、伊東は慌てて走り出した。
東西南北、枡目状に綺麗に伸びた京市中の道と違い、山に入ってしまえばすぐに見失ってしまう。
息を荒げて走っていくと、突然目の前に白い壁が現れた。
「ひぃっ!!」
「何の用だ、貴様、俺をつけていたな」
「い、いえっ……貴方ではなくっ、その、知り合いの娘が一緒だったと……一緒にいるのが見えたのよ!山に連れ込むなんてと私は心配して!」
「娘……知らんな。俺は一人だぞ」
怯えながら誤魔化そうと必死に理由を作り上げる伊東を、比古はきつく睨み付けた。
傍の木の陰では夢主は息を潜めて隠れている。
……おかしいわっ、絶対に一緒だった……
解せない伊東が比古を訝しんで観察していると、比古は一歩踏み出して近寄った。
咄嗟に伊東は退くが、山の石につまずき尻餅をついた。
「俺一人だと言っているだろう」
「はっ、はいっ……で、ではっ、もし見間違い出なかったのなら、私はいつでも待っていると、斎藤さんの所へいらっしゃいと伝えてくださいな!夢主さん、私は待っているわよ!!」
「うるさい、失せろ」
しつこい伊東に比古が鯉口を切る音を聞かせると、ようやく立ち上がって去って行った。
「大丈夫か、夢主」
「はぃ……驚きました……」
「厄介な男だな。斎藤とすれ違った時、あの男も気が付いていたんだろう。ここまで追ってくるとは大した奴だ」
「斎藤さん……」
「戻りたいか」
「いいえっ!それは……迷惑なのが分かっていますから……比古師匠のお傍にいさせてください」
「そうか、ならば行くぞ」
歩き出した比古だが、さてどうしたものかと考えていた。
先程の男は諦めが悪そうだ。その上、無駄な賢さを備えている。
すぐに身を引いた判断力と咄嗟に周囲に潜むかもしれない夢主に呼びかけたのは、こちらにとっては面倒だが見事。
「あの男、また来るかも知れんな」
「えっ……」
「あの様子ではお前の事情を詳しく知っているんだろう、簡単には諦めそうにないな。山の上まで来られると面倒だ」
夢主の姿をちらりと横目に見て比古はある提案をした。
「お前、一度死んでみたらどうだ」
「……えっ」
比古が自分を手に掛けるのか、夢主は驚きで言葉を失った。
「違うぞ、誤解するなよ。お前が死んだことにして面倒くさい奴らを遠ざけたらどうだってことだ」
「死んだことに……」
「あぁ。厄介事を考えなくて済む」
そんな話が出てくるとは思わず、ただ吃驚し頭の中が真っ白になる。
自分の存在を消してしまう。大切な人々の中からも自分が消えてしまうのか。
「でも……そうしたら斎藤さんや沖田さんまで……」
「さぁな、死んだと思うか信じないかはあいつら次第だ」
「そんな……そんなの嫌です!」
「だがそうすれば奴らも仕事に専念出来るぞ。諦めも付くだろう」
「でも……」
「三月経って戻る頃に俺が責任を持って送り届けてやるよ。その時、理由も俺から話そう」
「……なんでそんなことを仰るんですか……」
「一番簡単な方法だからだ。次々と追っ手に来られては面倒でならん。余計な死人は増やしたくないだろう。お前が死んだことにすれば誰も探しには来ない」
「少し……考えさせてください……」
簡単には決められない。しかし追っ手が来れば比古は追い払わざるを得ない。
その時に殺してしまうかもしれないのだ。
自分のせいで人が死ぬ……
夢主は小屋に続く道をゆっくり登り始めた。
「どちらへ」
「人と会う約束があるのよ、ご免なさいね」
「そうですか」
道の途中、伊東は突然別れを告げると方向転換をして速足に去っていった。
「まさか、夢主を探しに行くのか」
後をつけるか迷う斎藤だが、夢主には比古がいる。
奴に任せたからには今は手出し無用。
斎藤は人通りの多い道を北上し、一足先に宿舎を目指した。
斎藤と分かれた伊東は後ろを振り返り、誰もつけていないのを確認して先を急いだ。
「あれは絶対に夢主さんの気配よ、間違えるはず無いわ」
町外れで伊東はようやく比古らしき大柄の男の背中を捉えた。
「いたわっ!あの傍の娘……夢主さんに違いない」
夢主だと確信した矢先、目の前で山道に姿を消し、伊東は慌てて走り出した。
東西南北、枡目状に綺麗に伸びた京市中の道と違い、山に入ってしまえばすぐに見失ってしまう。
息を荒げて走っていくと、突然目の前に白い壁が現れた。
「ひぃっ!!」
「何の用だ、貴様、俺をつけていたな」
「い、いえっ……貴方ではなくっ、その、知り合いの娘が一緒だったと……一緒にいるのが見えたのよ!山に連れ込むなんてと私は心配して!」
「娘……知らんな。俺は一人だぞ」
怯えながら誤魔化そうと必死に理由を作り上げる伊東を、比古はきつく睨み付けた。
傍の木の陰では夢主は息を潜めて隠れている。
……おかしいわっ、絶対に一緒だった……
解せない伊東が比古を訝しんで観察していると、比古は一歩踏み出して近寄った。
咄嗟に伊東は退くが、山の石につまずき尻餅をついた。
「俺一人だと言っているだろう」
「はっ、はいっ……で、ではっ、もし見間違い出なかったのなら、私はいつでも待っていると、斎藤さんの所へいらっしゃいと伝えてくださいな!夢主さん、私は待っているわよ!!」
「うるさい、失せろ」
しつこい伊東に比古が鯉口を切る音を聞かせると、ようやく立ち上がって去って行った。
「大丈夫か、夢主」
「はぃ……驚きました……」
「厄介な男だな。斎藤とすれ違った時、あの男も気が付いていたんだろう。ここまで追ってくるとは大した奴だ」
「斎藤さん……」
「戻りたいか」
「いいえっ!それは……迷惑なのが分かっていますから……比古師匠のお傍にいさせてください」
「そうか、ならば行くぞ」
歩き出した比古だが、さてどうしたものかと考えていた。
先程の男は諦めが悪そうだ。その上、無駄な賢さを備えている。
すぐに身を引いた判断力と咄嗟に周囲に潜むかもしれない夢主に呼びかけたのは、こちらにとっては面倒だが見事。
「あの男、また来るかも知れんな」
「えっ……」
「あの様子ではお前の事情を詳しく知っているんだろう、簡単には諦めそうにないな。山の上まで来られると面倒だ」
夢主の姿をちらりと横目に見て比古はある提案をした。
「お前、一度死んでみたらどうだ」
「……えっ」
比古が自分を手に掛けるのか、夢主は驚きで言葉を失った。
「違うぞ、誤解するなよ。お前が死んだことにして面倒くさい奴らを遠ざけたらどうだってことだ」
「死んだことに……」
「あぁ。厄介事を考えなくて済む」
そんな話が出てくるとは思わず、ただ吃驚し頭の中が真っ白になる。
自分の存在を消してしまう。大切な人々の中からも自分が消えてしまうのか。
「でも……そうしたら斎藤さんや沖田さんまで……」
「さぁな、死んだと思うか信じないかはあいつら次第だ」
「そんな……そんなの嫌です!」
「だがそうすれば奴らも仕事に専念出来るぞ。諦めも付くだろう」
「でも……」
「三月経って戻る頃に俺が責任を持って送り届けてやるよ。その時、理由も俺から話そう」
「……なんでそんなことを仰るんですか……」
「一番簡単な方法だからだ。次々と追っ手に来られては面倒でならん。余計な死人は増やしたくないだろう。お前が死んだことにすれば誰も探しには来ない」
「少し……考えさせてください……」
簡単には決められない。しかし追っ手が来れば比古は追い払わざるを得ない。
その時に殺してしまうかもしれないのだ。
自分のせいで人が死ぬ……
夢主は小屋に続く道をゆっくり登り始めた。