95.弔い
夢主名前設定
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「もっと早く気付けば良かったです、山に入ってから体を拭いて済ませていたんですけど、私、お風呂が大好きで」
「そうか。まぁ温かい湯ではないがすっきりするだろう」
「はい」
水浴びを思うとにこにこ笑みがおさまらない。
緩んだ顔で話しながら歩いていると、恐れていた場面が訪れた。
突然比古が町屋と自らの間に夢主を隠して立ち止まる。夢主も咄嗟に身を縮めて口を閉じた。
「じっとしていろ」
通りに目を向けた比古が声をひそめて伝える。
体を強張らせて大きな背中に隠れて佇む夢主に、懐かしい声が聞こえてきた。
……伊東さん、それに……
饒舌な伊東の声と、それに対し淡白に応える声……鼻で笑うような息みたいな音……夢主は心拍を上げ、耳を澄ました。
「それでその人ったら……斎藤さん?」
「いえ……」
斎藤は通り過ぎざまに比古と目を合わせ、その背後にある気配を察して僅かに瞳孔を変化させた。
比古と顔見知りであると悟られてはいけない。斎藤は何の目配せもせずに顔を元に戻した。
伊東の上機嫌な話に付き合い、何事も無かったように歩き去った。
気付けば斎藤の背中を、夢主が比古の背後から覗いている。
「おい、そんなに見たいんなら堂々と声でも掛けりゃ良かったんじゃねぇか」
「それは出来ませんっ!それは……駄目です」
「そうか、なら仕方が無いな。もう行ったぞ、俺達も帰るぜ」
いつまでも斎藤の歩き去った道の先を眺める夢主に溜息を吐き、比古が一足先に歩き始めた。
「あっ、待ってくださいっ!!」
小走りで駆ける夢主に比古はもう一度溜息を吐いた。
「今、夢主さんがいなかったかしら」
「何ですか」
比古とすれ違ってからも高笑いを交えて話し続けた伊東、角を曲がると途端に真面目な顔で問いかけた。
「夢主さんよ、あの大男の傍から夢主さんの気配がしたのですけれど」
「さてね、俺には分かりませんでしたが」
「そう……貴方が気付かないはずありませんものね、気のせいなのね……」
伊東は確認するよう目を細めて斎藤を見るが、斎藤はしらを切り通した。
……あいつ、比古の買出しに付き合ったのか……元気そうな確かな気配だ……
比古は斎藤もよく知る酒瓶を手にしていた。酒を買いに来たと見て間違いないだろう。
後に隠れていたのは懸命だ、一体どんな顔をしていたやら。
懐かしい気配に斎藤は口角を上げてニヤリと笑んでいた。
「そうか。まぁ温かい湯ではないがすっきりするだろう」
「はい」
水浴びを思うとにこにこ笑みがおさまらない。
緩んだ顔で話しながら歩いていると、恐れていた場面が訪れた。
突然比古が町屋と自らの間に夢主を隠して立ち止まる。夢主も咄嗟に身を縮めて口を閉じた。
「じっとしていろ」
通りに目を向けた比古が声をひそめて伝える。
体を強張らせて大きな背中に隠れて佇む夢主に、懐かしい声が聞こえてきた。
……伊東さん、それに……
饒舌な伊東の声と、それに対し淡白に応える声……鼻で笑うような息みたいな音……夢主は心拍を上げ、耳を澄ました。
「それでその人ったら……斎藤さん?」
「いえ……」
斎藤は通り過ぎざまに比古と目を合わせ、その背後にある気配を察して僅かに瞳孔を変化させた。
比古と顔見知りであると悟られてはいけない。斎藤は何の目配せもせずに顔を元に戻した。
伊東の上機嫌な話に付き合い、何事も無かったように歩き去った。
気付けば斎藤の背中を、夢主が比古の背後から覗いている。
「おい、そんなに見たいんなら堂々と声でも掛けりゃ良かったんじゃねぇか」
「それは出来ませんっ!それは……駄目です」
「そうか、なら仕方が無いな。もう行ったぞ、俺達も帰るぜ」
いつまでも斎藤の歩き去った道の先を眺める夢主に溜息を吐き、比古が一足先に歩き始めた。
「あっ、待ってくださいっ!!」
小走りで駆ける夢主に比古はもう一度溜息を吐いた。
「今、夢主さんがいなかったかしら」
「何ですか」
比古とすれ違ってからも高笑いを交えて話し続けた伊東、角を曲がると途端に真面目な顔で問いかけた。
「夢主さんよ、あの大男の傍から夢主さんの気配がしたのですけれど」
「さてね、俺には分かりませんでしたが」
「そう……貴方が気付かないはずありませんものね、気のせいなのね……」
伊東は確認するよう目を細めて斎藤を見るが、斎藤はしらを切り通した。
……あいつ、比古の買出しに付き合ったのか……元気そうな確かな気配だ……
比古は斎藤もよく知る酒瓶を手にしていた。酒を買いに来たと見て間違いないだろう。
後に隠れていたのは懸命だ、一体どんな顔をしていたやら。
懐かしい気配に斎藤は口角を上げてニヤリと笑んでいた。