95.弔い
夢主名前設定
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山を下りる途中、夢主は京の町で誰かに出会わないかと考えていた。
巡察中の新選組の皆や、今はどこにいるのか分からない斎藤、遭遇したいと望む気持ちと、出会っては困るという相反する気持ちを抱えていた。
「嬉しそうだな」
「えっ……そんなことは……」
悩んでいるつもりが、いつしか顔がにやけていたのを比古に見付かってしまった。
「斎藤のことでも考えていたんだろう。いいのか、町で出会っても」
「……いいのかな……」
「考えなしか、それで顔がにやけるとはなかなかお気楽な女だな、お前も」
「へへっ……でもどうしよう、本当に斎藤さんがいたら……」
町で鉢合わせてしまったら、どう対処すればいいのだろうか。
もし、他に誰かが一緒だったならば……気にし始めると心が急に重くなってしまう。
「まぁ、俺の陰に隠れちまえばいいだろう。お前の小さな体くらいすっぽりと隠してやるよ」
「お願いします」
比古は頼もしい顔で頷くと、その大きな背中を再び夢主に向け、山道を下った。
比古はまず先日完成した陶芸品を幾つか店に持ち込み、買い取ってもらった。
出来た金を手に向かったのがいつもの酒屋だ。夢主にも覚えがある道を行く。
久しぶりに山とは違う景色の中を歩き、塞いでいた心は懐かしさでいつしか再び開かれた。
「楽しいか」
「はい!」
山を下りてからは常に自分の視界に入るよう、比古は夢主に自らのすぐ横を歩かせていた。
やがて酒屋に着くと、比古はいつもと同じ酒をいつもと同じ調子で店の主人に頼む。隣に女がいても言い訳をする男ではない。
「やぁ、今日はお嬢さんがご一緒ですか。新選組の人と一緒ではないんですね」
「あぁ、訳あってな。口外しないでくれよ、やきもちを焼く女が多くてな」
「えぇ、もちろんですとも」
何度かの訪問で店主は夢主の顔を覚えたようだ。
すっかり比古と馴染みの店主は、快く口を閉ざしましょうと微笑んだ。
「お気をつけて」
店主に見送られて外に出ると、比古は上機嫌で夢主に向き直った。
「何か欲しいものはないか。町まで下りたついでだ、何かあれば都合してやるぞ」
「本当ですか、ありがとうございます!欲しいもの……」
うぅん……と首をひねるが咄嗟に思い浮かぶ物が無い。
着る物にも満足しているし特別に食べたい物も無い。
「物より……湯屋に行きたいです」
「湯屋?」
予想していなかった答えに比古は眉をひそめた。
「湯屋には寄っておれんぞ。何だ体を清めたいのか」
「はぃ……」
願いを受け入れてもらえず気を落とした夢主は小さな声で応えた。
「水を浴びれば良かろう、付き合ってやるぞ」
「でも、その、水浴びとなれば……比古師匠もその、着物を……」
「何だ、そんなことを心配しているのか。浴衣で入ればよかろう」
「浴衣……」
「あぁ、一枚羽織って水を浴びればいいだろう、見たことないか」
浴衣を着て水を浴びる……
夢主は空を見上げ、記憶を辿るように考えた。
「あっ!白い襦袢みたいな……!」
「それだ」
滝に打たれる修行で白い衣を纏って水に入る。
夢主の育った世でもあった光景ではないか。閃いたように思い出して、嬉しそうに両手を合わせた。
巡察中の新選組の皆や、今はどこにいるのか分からない斎藤、遭遇したいと望む気持ちと、出会っては困るという相反する気持ちを抱えていた。
「嬉しそうだな」
「えっ……そんなことは……」
悩んでいるつもりが、いつしか顔がにやけていたのを比古に見付かってしまった。
「斎藤のことでも考えていたんだろう。いいのか、町で出会っても」
「……いいのかな……」
「考えなしか、それで顔がにやけるとはなかなかお気楽な女だな、お前も」
「へへっ……でもどうしよう、本当に斎藤さんがいたら……」
町で鉢合わせてしまったら、どう対処すればいいのだろうか。
もし、他に誰かが一緒だったならば……気にし始めると心が急に重くなってしまう。
「まぁ、俺の陰に隠れちまえばいいだろう。お前の小さな体くらいすっぽりと隠してやるよ」
「お願いします」
比古は頼もしい顔で頷くと、その大きな背中を再び夢主に向け、山道を下った。
比古はまず先日完成した陶芸品を幾つか店に持ち込み、買い取ってもらった。
出来た金を手に向かったのがいつもの酒屋だ。夢主にも覚えがある道を行く。
久しぶりに山とは違う景色の中を歩き、塞いでいた心は懐かしさでいつしか再び開かれた。
「楽しいか」
「はい!」
山を下りてからは常に自分の視界に入るよう、比古は夢主に自らのすぐ横を歩かせていた。
やがて酒屋に着くと、比古はいつもと同じ酒をいつもと同じ調子で店の主人に頼む。隣に女がいても言い訳をする男ではない。
「やぁ、今日はお嬢さんがご一緒ですか。新選組の人と一緒ではないんですね」
「あぁ、訳あってな。口外しないでくれよ、やきもちを焼く女が多くてな」
「えぇ、もちろんですとも」
何度かの訪問で店主は夢主の顔を覚えたようだ。
すっかり比古と馴染みの店主は、快く口を閉ざしましょうと微笑んだ。
「お気をつけて」
店主に見送られて外に出ると、比古は上機嫌で夢主に向き直った。
「何か欲しいものはないか。町まで下りたついでだ、何かあれば都合してやるぞ」
「本当ですか、ありがとうございます!欲しいもの……」
うぅん……と首をひねるが咄嗟に思い浮かぶ物が無い。
着る物にも満足しているし特別に食べたい物も無い。
「物より……湯屋に行きたいです」
「湯屋?」
予想していなかった答えに比古は眉をひそめた。
「湯屋には寄っておれんぞ。何だ体を清めたいのか」
「はぃ……」
願いを受け入れてもらえず気を落とした夢主は小さな声で応えた。
「水を浴びれば良かろう、付き合ってやるぞ」
「でも、その、水浴びとなれば……比古師匠もその、着物を……」
「何だ、そんなことを心配しているのか。浴衣で入ればよかろう」
「浴衣……」
「あぁ、一枚羽織って水を浴びればいいだろう、見たことないか」
浴衣を着て水を浴びる……
夢主は空を見上げ、記憶を辿るように考えた。
「あっ!白い襦袢みたいな……!」
「それだ」
滝に打たれる修行で白い衣を纏って水に入る。
夢主の育った世でもあった光景ではないか。閃いたように思い出して、嬉しそうに両手を合わせた。