94.山での一日
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「しかし男所帯にいて怖い目にも遭い、護身術は教えてもらわなかったのか」
「護身術……少しだけ、でもみなさん忙しくてほとんど……」
「そうか」
「でも最初の頃はよくお稽古を付けてくださいました」
「ほぅ、どんな稽古をした」
「木刀でこう……基本の構えと素振り、それに少しだけ受け止めたり打ち込む練習を……」
夢主が木刀を構える振りをして説明すると、比古は途端に大笑いをした。
「比古師匠っ?!」
「はははははっ!!新選組の連中はみな大馬鹿野郎だな!!」
「何てことを言うんですか!」
大好きな人達を貶され、夢主はかっとなり叫んでいた。
「稽古を付けたのは誰だ」
「……最初は沖田さんです」
「あいつか。あの野郎、なかなか見込みがあると思っていたが、大馬鹿野郎だな」
「なっ、なんてこと言うんですか!沖田さんを馬鹿にしないで下さいっ!確かにっ、頭は弱いですけど……」
「はははははっ!!」
策を講じるのも芝居を突き通すのも苦手な沖田だが馬鹿にするなんてと、夢主は世話になった沖田を庇った。
比古は高笑いした後、すまなかったなとなだめながらも現実を教えようと話を続けた。
「第一、お前は普段刀を持ち歩くのか」
「えっ……」
「持ち歩かねぇよなぁ。なのに剣の稽古しててどうすんだ」
「あっ……」
木刀での稽古、それはすなわち剣の稽古……斎藤や沖田は毎日剣を帯びて行動している。
だが夢主は脇差すら持っていない。
「だから斎藤さんは……そもそも……必要無いって……」
「ほぅ、斎藤はまだ少しは頭が回るようだな」
はっきりとは言わなかったが、斎藤は稽古の際に呟いていた。
向かって行く必要は無い……きっと気付いていたのだろう。刀も持たないお前がどう立ち向かう気だと。
こんなに時を経て納得した斎藤の言葉に、夢主は木刀を構える振りをしていた手を下ろした。
「どっちにしろ俺は剣は教えねぇ。だが小刀を使っての護身術か、刀を交えず逃げ出す技なら幾つか教えてやってもいいぜ」
「本当ですかっ」
「あぁ、だが確実とは言い切れんし、やり返したらその分相手の怒りも買う。どっちにしろ危険だぞ」
「それでも構いませんっ、少しでも……何か……」
ほんの僅かでも力と呼べるものが自分にあれば……夢主は真剣な眼差しで比古を見上げた。
「……良かろう」
比古が護身術の伝授を了承するとそのまま小屋に戻った。
小屋の前には狭いが平らな土地があり多少なら動き回れる。
「ここでいいだろう」
さてどうしたものかと、比古はとりあえず目の前の夢主の体を観察した。
並みの女、体格も腕力も飛びぬけたものではなく、俊敏性も瞬発力も至って普通。
西本願寺からこの山小屋へ歩く道のりの様子から充分、普通の女だと判断できる。
「女が男に勝てない訳ではない。力や体格が劣ろうとも、幾らでも勝機はある」
言いたいことは分かると、夢主は頷いて話を聞いている。
「そうでなければ、俺が教えた馬鹿弟子がそこらの男達に勝てる訳が無い」
「馬鹿弟子……」
剣心のことだ……夢主が赤い髪の緋村を思い浮かべた。
嫌なことを思い出したのか、比古はこめかみに青筋を浮かべていた。
「護身術……少しだけ、でもみなさん忙しくてほとんど……」
「そうか」
「でも最初の頃はよくお稽古を付けてくださいました」
「ほぅ、どんな稽古をした」
「木刀でこう……基本の構えと素振り、それに少しだけ受け止めたり打ち込む練習を……」
夢主が木刀を構える振りをして説明すると、比古は途端に大笑いをした。
「比古師匠っ?!」
「はははははっ!!新選組の連中はみな大馬鹿野郎だな!!」
「何てことを言うんですか!」
大好きな人達を貶され、夢主はかっとなり叫んでいた。
「稽古を付けたのは誰だ」
「……最初は沖田さんです」
「あいつか。あの野郎、なかなか見込みがあると思っていたが、大馬鹿野郎だな」
「なっ、なんてこと言うんですか!沖田さんを馬鹿にしないで下さいっ!確かにっ、頭は弱いですけど……」
「はははははっ!!」
策を講じるのも芝居を突き通すのも苦手な沖田だが馬鹿にするなんてと、夢主は世話になった沖田を庇った。
比古は高笑いした後、すまなかったなとなだめながらも現実を教えようと話を続けた。
「第一、お前は普段刀を持ち歩くのか」
「えっ……」
「持ち歩かねぇよなぁ。なのに剣の稽古しててどうすんだ」
「あっ……」
木刀での稽古、それはすなわち剣の稽古……斎藤や沖田は毎日剣を帯びて行動している。
だが夢主は脇差すら持っていない。
「だから斎藤さんは……そもそも……必要無いって……」
「ほぅ、斎藤はまだ少しは頭が回るようだな」
はっきりとは言わなかったが、斎藤は稽古の際に呟いていた。
向かって行く必要は無い……きっと気付いていたのだろう。刀も持たないお前がどう立ち向かう気だと。
こんなに時を経て納得した斎藤の言葉に、夢主は木刀を構える振りをしていた手を下ろした。
「どっちにしろ俺は剣は教えねぇ。だが小刀を使っての護身術か、刀を交えず逃げ出す技なら幾つか教えてやってもいいぜ」
「本当ですかっ」
「あぁ、だが確実とは言い切れんし、やり返したらその分相手の怒りも買う。どっちにしろ危険だぞ」
「それでも構いませんっ、少しでも……何か……」
ほんの僅かでも力と呼べるものが自分にあれば……夢主は真剣な眼差しで比古を見上げた。
「……良かろう」
比古が護身術の伝授を了承するとそのまま小屋に戻った。
小屋の前には狭いが平らな土地があり多少なら動き回れる。
「ここでいいだろう」
さてどうしたものかと、比古はとりあえず目の前の夢主の体を観察した。
並みの女、体格も腕力も飛びぬけたものではなく、俊敏性も瞬発力も至って普通。
西本願寺からこの山小屋へ歩く道のりの様子から充分、普通の女だと判断できる。
「女が男に勝てない訳ではない。力や体格が劣ろうとも、幾らでも勝機はある」
言いたいことは分かると、夢主は頷いて話を聞いている。
「そうでなければ、俺が教えた馬鹿弟子がそこらの男達に勝てる訳が無い」
「馬鹿弟子……」
剣心のことだ……夢主が赤い髪の緋村を思い浮かべた。
嫌なことを思い出したのか、比古はこめかみに青筋を浮かべていた。