94.山での一日
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水で満たされた手桶を持って小屋に戻ると、比古は夢主に朝の鍛錬に出ると伝えた。
「ついて行っても良いのですか」
「あぁ、俺が指定した場で見ているならば構わん。ただし、少しでも動いたら俺は命の保障はせんからな」
「はい」
緊張した返事に比古は満足そうな顔を見せた。
先ほど話に出た滝へ向かう為、沢へ続く道とは別の方角へ歩き出す。
暫く行くと、滝も沢と同様に然程遠く無い場所にあった。
もしかしたら全て比古の察知能力の範囲内に収まっているのかも知れないと感じる距離だ。
指差された場に大きな石があり、夢主はそこに腰を下ろして比古の背中を眺める事になった。
まずは刀を手に立ち、全身より気を放つ行為から鍛錬は始まった。
途端に、比古の周りに別の空間が広がった錯覚を受ける。
足元の土が飛び、木々の枝や滝の流れまでも比古から反発し遠ざかったように見えた。
動くなと言われた夢主だが、この比古の気を浴びると動きたくても動けない状態になり、時折把握できる比古の姿を眺めるしかなかった。
「疾過ぎて……ほとんど見えない……」
夢主は瞬きも忘れ、比古が目の前に戻ってくるまでの時を過ごした。
「待たせたな」
「いえ……」
石に腰を下ろしたまま夢主は首を振った。
「滝壺に下りるがお前も行くか」
唐突な誘いに夢主は大きく首を振った。
水浴びか、しかし滝壺とは怖すぎる。
比古は崖のきわまで進むと重たい外套を外し、次に身につけていた物をするすると外して下帯姿で崖の下に飛び込んだ。
「えぇっ!!」
咄嗟に立ち上がった夢主、想像もしなかった突然の下帯姿と、滝壺目掛け飛び込む行動に驚きの声を上げた。
「し、師匠……」
恐る恐る崖に近付く。途中で手をついて四つん這いになり、そろそろと進んだ。
脱ぎ捨てられた着物の上を進むように崖の下を覗くと、比古が気付いて顔を上げた。
「お前も飛び込むか!!」
「むっ、無理ですっ!!」
咄嗟に叫び返すが、高さに怯えて出した声は、滝の音に消されて比古には届いていないだろう。
だが比古は様子を察して大声で笑っていた。
「すぐに戻るから、そこで待っていろ!!」
数回頷いて夢主は比古の着物を手に先程の石までゆっくり戻った。
重すぎる外套だけはその場に残されていた。
「待たせたな……」
水を滴らせながら姿を見せた比古は、体を動かし、すっきりした顔で戻ってきた。
夢主は目を合わせた瞬間、体を見てはいけないと咄嗟に目を閉じて着物を差し出した。
「ははっ、そんなに拒否するなよ、男所帯にいて慣れてるんじゃねぇのか」
夢主が目を瞑ったまま黙って首を振ると、比古は更に大きな声で笑いながら衣を身につけた。
「しかし意外だな、男慣れしていないのか」
唐突な質問に夢主は目を丸くして真っ赤な顔を向けた。
「悪い質問だったか、すまんな」
小さく笑うと比古は外套を拾い上げ、全ての装束を身につけ終えた。
「さて……戻るか」
「はい」
見慣れた姿に戻り、夢主はようやく口を開いた。
「比古師匠……本当に凄いですね、全く見えませんでした……」
「ははっ、毎日見ていたらお前の目も少しは慣れるかも知れんぞ」
「本当ですかっ」
「あぁ、目も鍛えれば疾いものを捉えられるようになる」
「じゃぁ斎藤さんや沖田さんの姿も……」
「まぁ、俺に比べれば遅いだろうからな、毎日目を凝らして見るがいい」
「はいっ!」
斎藤や沖田の動きについていける目が身につくかもしれない……夢主は期待に頬を緩めた。
「ついて行っても良いのですか」
「あぁ、俺が指定した場で見ているならば構わん。ただし、少しでも動いたら俺は命の保障はせんからな」
「はい」
緊張した返事に比古は満足そうな顔を見せた。
先ほど話に出た滝へ向かう為、沢へ続く道とは別の方角へ歩き出す。
暫く行くと、滝も沢と同様に然程遠く無い場所にあった。
もしかしたら全て比古の察知能力の範囲内に収まっているのかも知れないと感じる距離だ。
指差された場に大きな石があり、夢主はそこに腰を下ろして比古の背中を眺める事になった。
まずは刀を手に立ち、全身より気を放つ行為から鍛錬は始まった。
途端に、比古の周りに別の空間が広がった錯覚を受ける。
足元の土が飛び、木々の枝や滝の流れまでも比古から反発し遠ざかったように見えた。
動くなと言われた夢主だが、この比古の気を浴びると動きたくても動けない状態になり、時折把握できる比古の姿を眺めるしかなかった。
「疾過ぎて……ほとんど見えない……」
夢主は瞬きも忘れ、比古が目の前に戻ってくるまでの時を過ごした。
「待たせたな」
「いえ……」
石に腰を下ろしたまま夢主は首を振った。
「滝壺に下りるがお前も行くか」
唐突な誘いに夢主は大きく首を振った。
水浴びか、しかし滝壺とは怖すぎる。
比古は崖のきわまで進むと重たい外套を外し、次に身につけていた物をするすると外して下帯姿で崖の下に飛び込んだ。
「えぇっ!!」
咄嗟に立ち上がった夢主、想像もしなかった突然の下帯姿と、滝壺目掛け飛び込む行動に驚きの声を上げた。
「し、師匠……」
恐る恐る崖に近付く。途中で手をついて四つん這いになり、そろそろと進んだ。
脱ぎ捨てられた着物の上を進むように崖の下を覗くと、比古が気付いて顔を上げた。
「お前も飛び込むか!!」
「むっ、無理ですっ!!」
咄嗟に叫び返すが、高さに怯えて出した声は、滝の音に消されて比古には届いていないだろう。
だが比古は様子を察して大声で笑っていた。
「すぐに戻るから、そこで待っていろ!!」
数回頷いて夢主は比古の着物を手に先程の石までゆっくり戻った。
重すぎる外套だけはその場に残されていた。
「待たせたな……」
水を滴らせながら姿を見せた比古は、体を動かし、すっきりした顔で戻ってきた。
夢主は目を合わせた瞬間、体を見てはいけないと咄嗟に目を閉じて着物を差し出した。
「ははっ、そんなに拒否するなよ、男所帯にいて慣れてるんじゃねぇのか」
夢主が目を瞑ったまま黙って首を振ると、比古は更に大きな声で笑いながら衣を身につけた。
「しかし意外だな、男慣れしていないのか」
唐突な質問に夢主は目を丸くして真っ赤な顔を向けた。
「悪い質問だったか、すまんな」
小さく笑うと比古は外套を拾い上げ、全ての装束を身につけ終えた。
「さて……戻るか」
「はい」
見慣れた姿に戻り、夢主はようやく口を開いた。
「比古師匠……本当に凄いですね、全く見えませんでした……」
「ははっ、毎日見ていたらお前の目も少しは慣れるかも知れんぞ」
「本当ですかっ」
「あぁ、目も鍛えれば疾いものを捉えられるようになる」
「じゃぁ斎藤さんや沖田さんの姿も……」
「まぁ、俺に比べれば遅いだろうからな、毎日目を凝らして見るがいい」
「はいっ!」
斎藤や沖田の動きについていける目が身につくかもしれない……夢主は期待に頬を緩めた。