94.山での一日
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小屋の中、ぐっすり眠っていた夢主は、差し込む光に薄っすらと眠りから引き戻されていった。
「起きたか」
「……比古師匠!」
昨日までと違う目覚めの景色に暫く頭が働かなかった夢主、目の前に現れた比古の姿でようやく現実を思い出した。
「あぁっ、もう一組のお布団!」
「あぁ、今朝方取って来たぜ」
「比古師匠早いですね……」
「ふん、やることはさっさと済ましちまわねぇとな」
「ありがとうございます」
布団から出ると何やら漂ういい匂いにつられて囲炉裏に目を向けた。
朝餉になる食べ物が鍋の中でぐつぐつと揺られている。
「わぁ美味しそう!お料理上手なんですね」
「料理なんてもんでもねぇさ、切って放り込んでるだけだ。食材もほとんど山で採れた物だぞ」
「お肉もですかっ?!」
「あぁ、山で獲った鳥の肉だ。そう驚くことでもなかろう、肉は嫌か」
「いいえっ、お肉は好きです……でも凄いですね、ご自分で捌くのですか」
当たり前だ、と比古は頷いた。
「たまに捕らえた獲物を町に持って行き金に変える時もあるな。酒を買うには金が要るからな」
ニッと笑う比古に夢主は少し驚いた顔を見せた。
「そんなに驚く話か」
「いえ……そんな方法があったんだと思って……お金を得るのに」
「刀を振り回しているだけでは食って行けんからな」
現実は厳しいぞ、そんな比古の笑顔に夢主も苦笑いだ。
「でも獣が出るんですか……夜とか平気なんでしょうか、扉も無いし……」
「気にしているな、ははっ。大丈夫さ、確かにここに住み始めた頃は何度か獣がここまでやって来たがな、散々追い払ってやったら今じゃさっぱりさ。ここに来ると怖い思いをすると山の獣達は学んだのだろう」
「そうなのですか……本当に……」
「そんなに不安ならいつも俺の傍にいればいいだろう」
「お邪魔ではありませんか」
「黙っていれば文句は言わん」
夢主は分かりましたと黙って首を縦に振り、比古は堪らず笑い出した。
「はははっ!!お前は素直だな、その通りだが今は普通に話して構わんぞ。そうだな、鍛錬や仕事に集中している時に話し掛けられては迷惑だが、そうでない時なら構わんさ。お前は元々静かな女ではないのか、沖田ほどうるさくは無かろう」
「ふふっ、確かに沖田さんは賑やかです」
「斎藤のように黙りこくられても気まずい、程よく話せ」
「はいっ……ふふっ」
斎藤さんも沖田さんに負けないくらいお話するのに……夢主は心の中で笑っていた。
朝餉を終えるとお椀類を片付けた比古は水を汲みに行くと言い出した。
「私もついて行っていいですか」
「あぁ、水場の位置を覚えておくのは良いだろう。そう遠くないからついて来い」
手桶を持とうとするが、比古にそれは俺の仕事だと止められた。
客人は大人しくしていろ、比古なりのこだわりがあるようだ。
毎日通い、地面が踏み固められて出来た小道を行く。
少し急に下る場所もあるが、おおよそゆったりとした下り坂だ。
「見えたぞ」
穏やかな流水音が聞こえ始めると、すぐに澄んだ流れの小川が見えてきた。
ちょうど川に近付いて手桶を沈めやすい場所がある。
「ここをしばらく遡ると本流につながり、滝がある。水浴びも出来るし、俺はよくそこで体を動かす」
「もしかして傍に大きな岩のような崖が突き出ている……」
「フッ、良く知っているな。お前の話は嘘じゃないと信じざるを得ない」
「そこでお弟子さんの修行も……」
「あぁ。今となっては……昔の話だ」
川の上流に目を向けていた比古は足元に視線を戻して水を掬い上げた。
「川が近いと夏でも涼しい。暑くなったらここに足をつけて過ごすのもいいぞ」
「人は来ないのですか、獣も……」
「ここも獣はめったに見かけんな。人も同じだ。俺の察知能力は半端じゃないぜ、特に町と違い山は大きな気配が限られるからな。そういう意味でも察しやすい。大声を出してくれてもいいが、気配があれば俺なら分かる」
何て自信家なのか……相槌を打つように頷く夢主は、比古はやはり面白い人だと感心した。
「起きたか」
「……比古師匠!」
昨日までと違う目覚めの景色に暫く頭が働かなかった夢主、目の前に現れた比古の姿でようやく現実を思い出した。
「あぁっ、もう一組のお布団!」
「あぁ、今朝方取って来たぜ」
「比古師匠早いですね……」
「ふん、やることはさっさと済ましちまわねぇとな」
「ありがとうございます」
布団から出ると何やら漂ういい匂いにつられて囲炉裏に目を向けた。
朝餉になる食べ物が鍋の中でぐつぐつと揺られている。
「わぁ美味しそう!お料理上手なんですね」
「料理なんてもんでもねぇさ、切って放り込んでるだけだ。食材もほとんど山で採れた物だぞ」
「お肉もですかっ?!」
「あぁ、山で獲った鳥の肉だ。そう驚くことでもなかろう、肉は嫌か」
「いいえっ、お肉は好きです……でも凄いですね、ご自分で捌くのですか」
当たり前だ、と比古は頷いた。
「たまに捕らえた獲物を町に持って行き金に変える時もあるな。酒を買うには金が要るからな」
ニッと笑う比古に夢主は少し驚いた顔を見せた。
「そんなに驚く話か」
「いえ……そんな方法があったんだと思って……お金を得るのに」
「刀を振り回しているだけでは食って行けんからな」
現実は厳しいぞ、そんな比古の笑顔に夢主も苦笑いだ。
「でも獣が出るんですか……夜とか平気なんでしょうか、扉も無いし……」
「気にしているな、ははっ。大丈夫さ、確かにここに住み始めた頃は何度か獣がここまでやって来たがな、散々追い払ってやったら今じゃさっぱりさ。ここに来ると怖い思いをすると山の獣達は学んだのだろう」
「そうなのですか……本当に……」
「そんなに不安ならいつも俺の傍にいればいいだろう」
「お邪魔ではありませんか」
「黙っていれば文句は言わん」
夢主は分かりましたと黙って首を縦に振り、比古は堪らず笑い出した。
「はははっ!!お前は素直だな、その通りだが今は普通に話して構わんぞ。そうだな、鍛錬や仕事に集中している時に話し掛けられては迷惑だが、そうでない時なら構わんさ。お前は元々静かな女ではないのか、沖田ほどうるさくは無かろう」
「ふふっ、確かに沖田さんは賑やかです」
「斎藤のように黙りこくられても気まずい、程よく話せ」
「はいっ……ふふっ」
斎藤さんも沖田さんに負けないくらいお話するのに……夢主は心の中で笑っていた。
朝餉を終えるとお椀類を片付けた比古は水を汲みに行くと言い出した。
「私もついて行っていいですか」
「あぁ、水場の位置を覚えておくのは良いだろう。そう遠くないからついて来い」
手桶を持とうとするが、比古にそれは俺の仕事だと止められた。
客人は大人しくしていろ、比古なりのこだわりがあるようだ。
毎日通い、地面が踏み固められて出来た小道を行く。
少し急に下る場所もあるが、おおよそゆったりとした下り坂だ。
「見えたぞ」
穏やかな流水音が聞こえ始めると、すぐに澄んだ流れの小川が見えてきた。
ちょうど川に近付いて手桶を沈めやすい場所がある。
「ここをしばらく遡ると本流につながり、滝がある。水浴びも出来るし、俺はよくそこで体を動かす」
「もしかして傍に大きな岩のような崖が突き出ている……」
「フッ、良く知っているな。お前の話は嘘じゃないと信じざるを得ない」
「そこでお弟子さんの修行も……」
「あぁ。今となっては……昔の話だ」
川の上流に目を向けていた比古は足元に視線を戻して水を掬い上げた。
「川が近いと夏でも涼しい。暑くなったらここに足をつけて過ごすのもいいぞ」
「人は来ないのですか、獣も……」
「ここも獣はめったに見かけんな。人も同じだ。俺の察知能力は半端じゃないぜ、特に町と違い山は大きな気配が限られるからな。そういう意味でも察しやすい。大声を出してくれてもいいが、気配があれば俺なら分かる」
何て自信家なのか……相槌を打つように頷く夢主は、比古はやはり面白い人だと感心した。