93.ひとときの さようなら
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「お前も一杯呑むか」
「お酒は私、呑めないんです」
「あぁ沖田が呑ませるなと言っていた気がするな、いつだったか」
「そんなお話を」
「あぁ、あいつとは夜の京で何度か遭遇した。なかなか鼻の利く男だ、よくまぁ何度も俺を見つけたな」
「そうなんですね……沖田さん凄いなぁ……」
夜目が利き鼻も利くとは……夢主は沖田を思い出しふふっと笑った。
夢主のお椀が空になる頃、比古はふと猪口を差し出した。
「しかし、呑めないなりにも呑み方というものがあるだろう」
「えっ……呑み方……」
「あぁそうだ。どれほど弱い」
「えぇと……普通のお酒ですとまぁ一杯も……」
斎藤相手には警戒する夢主だが、比古が相手だと差し出されたままに猪口を受け取っていた。
普通の猪口と思っていたが、手にしてみると斎藤や沖田と酒を呑んだ時に使った物より大きい作りだ。比古の手の中で小さく見えていたのだろう。
「何だ、それほど弱いのか。しかし新選組の連中は女に酒の呑み方も教えてやれんとは」
やれやれと眉をひそめ、比古はちびちびと夢主の猪口に酒を注いだ。
比古の酌に会釈で応えて猪口に注がれる酒を見つめる。
「頂きます……」
夢主は酒を受けるなり、くいっと酒を口に含もうとした。
「待てっ」
「わっ」
比古が一気に酒を含もうとする夢主の手首を掴んで止めると酒がこぼれそうになり、夢主は変な声を出した。
「馬鹿が、酒に弱いんだろう、一気に流し込む奴があるか。ちびちびとな、舐めるように呑むんだよ」
「舐めるように……」
「あぁ、本当に弱いなら舌先で酒の香を口に運ぶ程度だ。もう少しいけるなら僅かな量を含んで口の中に広げるんだ」
「舌先で……」
そっと口元に猪口を運び言われた通りそっと舌で触れると、確かに酒の香りが口の中に広がった。
僅かだが甘くまろやかな風味があり、確かに美味しいと感じる。
「凄いっ!これなら酔いません……」
舌先がほのかに熱い気がするが、体の火照りは全く感じない。
「フン、そうだ、これが弱い女の酒の呑み方だ」
得意そうに語る比古の顔に、夢主は笑いながら何度も頷いた。
「今晩はもう眠れそうにありませんので、私もお付き合いいたします」
「そうか……寒くは無いか」
「はい」
窯の中では大きな炎がごうごうと燃えている。
少し離れていても充分に熱が伝わり、山の冷たい夜気にも体は冷えない。
「暑いくらいです……」
呟いて、そっと猪口を口に寄せた。
「フッ、斎藤や沖田はわざとお前に酒の呑み方を教えなかったと見えるな」
「えっ、わざと……」
「あぁ。斎藤、特にあの男は何でも知っている顔をしていたじゃないか。それでもお前に呑み方を教えなかったのは、お前の酔う姿が余程お気に入りだったんだろう」
「そんなっ……」
「ははっ、俺はモテるがお前も負けていないようだな」
「ふふっ、比古師匠には敵いませんよっ」
一緒に酒を楽しんだ夜の斎藤の眼差しを思い出して、もう一度酒を口に広げた。
「美味しい……」
斎藤さんの前では今まで通りに呑んでもいいかな……
夢主は燃え盛る火を見ながら、くすくすと笑った。
「お酒は私、呑めないんです」
「あぁ沖田が呑ませるなと言っていた気がするな、いつだったか」
「そんなお話を」
「あぁ、あいつとは夜の京で何度か遭遇した。なかなか鼻の利く男だ、よくまぁ何度も俺を見つけたな」
「そうなんですね……沖田さん凄いなぁ……」
夜目が利き鼻も利くとは……夢主は沖田を思い出しふふっと笑った。
夢主のお椀が空になる頃、比古はふと猪口を差し出した。
「しかし、呑めないなりにも呑み方というものがあるだろう」
「えっ……呑み方……」
「あぁそうだ。どれほど弱い」
「えぇと……普通のお酒ですとまぁ一杯も……」
斎藤相手には警戒する夢主だが、比古が相手だと差し出されたままに猪口を受け取っていた。
普通の猪口と思っていたが、手にしてみると斎藤や沖田と酒を呑んだ時に使った物より大きい作りだ。比古の手の中で小さく見えていたのだろう。
「何だ、それほど弱いのか。しかし新選組の連中は女に酒の呑み方も教えてやれんとは」
やれやれと眉をひそめ、比古はちびちびと夢主の猪口に酒を注いだ。
比古の酌に会釈で応えて猪口に注がれる酒を見つめる。
「頂きます……」
夢主は酒を受けるなり、くいっと酒を口に含もうとした。
「待てっ」
「わっ」
比古が一気に酒を含もうとする夢主の手首を掴んで止めると酒がこぼれそうになり、夢主は変な声を出した。
「馬鹿が、酒に弱いんだろう、一気に流し込む奴があるか。ちびちびとな、舐めるように呑むんだよ」
「舐めるように……」
「あぁ、本当に弱いなら舌先で酒の香を口に運ぶ程度だ。もう少しいけるなら僅かな量を含んで口の中に広げるんだ」
「舌先で……」
そっと口元に猪口を運び言われた通りそっと舌で触れると、確かに酒の香りが口の中に広がった。
僅かだが甘くまろやかな風味があり、確かに美味しいと感じる。
「凄いっ!これなら酔いません……」
舌先がほのかに熱い気がするが、体の火照りは全く感じない。
「フン、そうだ、これが弱い女の酒の呑み方だ」
得意そうに語る比古の顔に、夢主は笑いながら何度も頷いた。
「今晩はもう眠れそうにありませんので、私もお付き合いいたします」
「そうか……寒くは無いか」
「はい」
窯の中では大きな炎がごうごうと燃えている。
少し離れていても充分に熱が伝わり、山の冷たい夜気にも体は冷えない。
「暑いくらいです……」
呟いて、そっと猪口を口に寄せた。
「フッ、斎藤や沖田はわざとお前に酒の呑み方を教えなかったと見えるな」
「えっ、わざと……」
「あぁ。斎藤、特にあの男は何でも知っている顔をしていたじゃないか。それでもお前に呑み方を教えなかったのは、お前の酔う姿が余程お気に入りだったんだろう」
「そんなっ……」
「ははっ、俺はモテるがお前も負けていないようだな」
「ふふっ、比古師匠には敵いませんよっ」
一緒に酒を楽しんだ夜の斎藤の眼差しを思い出して、もう一度酒を口に広げた。
「美味しい……」
斎藤さんの前では今まで通りに呑んでもいいかな……
夢主は燃え盛る火を見ながら、くすくすと笑った。