93.ひとときの さようなら
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「あぁっ!!」
「どうした」
部屋を見回していた夢主が突然声を上げた。
「お布団……そうです、お布団が一組しかないんですよね!!休息所から持ってこないと……」
「おいおい、抱えてここまで来るのか」
「だってまだ夜は寒いですし……」
体の大きな比古と一つの布団に入るのは物理的に無理だろう。
夢主は目の前に座る自分の倍かそれ以上の大きな体を見て呟いた。
「明日俺が取ってきてやるから、今夜は諦めろ」
「でも……」
「大丈夫だ。俺は今夜は窯の火を見て過ごすさ。いつもの事だ、火を入れたら俺は動かん」
「そうなんですか……本当に甘えていいんですか……」
「あぁ、もともと今夜は使わん布団だ。好きにしろ」
「ありがとうございます」
いくら信頼のおける比古でも同じ布団に入るのは抵抗がある。
夢主はほぅっと息を吐いて気を緩めた。
「私、陶芸したこと無いんですけど……やってみたいです」
「陶芸に興味があるのか」
「物を作るのが好きで……陶芸は全く分からないのですが、形を作ったり絵をつけるの、やってみたいです」
「ふむ……まぁ良いだろう。三月もあれば俺が一から作る場面に立ち会える。一緒に土をこねるか」
「はぃ!是非お願いします」
「フッ、変わった女だな」
「そうかもしれません……比古さん、いえ、比古師匠!お昼ご飯頂きます」
「おい、師匠じゃねぇと言っただろう」
「でも陶芸を教えていただくのですから、やっぱり師匠です!」
「それならば新津師匠になるのではないか、比古は御剣流に伝わる名だぞ」
「あっ……」
打ちのめされたように口を開ける夢主の顔に、比古は不覚にも笑ってしまった。
「面白い顔しやがる。そんなに比古師匠と呼びたいなら好きにしろ」
「いいんですか!」
「あぁ。断るのも面倒臭くなってきた」
「ありがとうございます!比古師匠……ご飯、頂きます!」
比古に手渡された椀に入った煮物を口にした。
歩き疲れた体に栄養が一気に行き届く錯覚を感じ、夢主の体は元気を取り戻していった。
「人と飯を食うのはいつぶりか……悪くは……ないな」
「えっ」
「いや、人と関わるのはもうご免と思っているんだがな。誰かと食う飯が美味いと言うのはあながち間違っていないのかもしれない。おかしなものだ」
そう言うと、斎藤や沖田と同じように比古はあっという間に食事を終えて立ち上がった。
「ゆっくり食ってろ、俺は窯の準備をしてくる。食ったらそのまま置いておけ、片付けはするな」
「でもお食事頂いたので……」
「お前は客人だと言っただろう、器は置いておけ。余計なことはするな」
「わかりました……」
下手に触れるなと牽制されたのか、気遣ってくれたのか。どちらか分からないが、大人しく従うべきだろう。
夢主が食事を続ける間、外で比古が動く音が絶えず聞こえていた。
「ご馳走様でした……」
食事を終えた夢主、歩き通し疲れた体から満腹で満たされた体に変わると、強い眠気に襲われた。
ゆっくり器を置き、畳まれた布団にもたれ「少しだけ……」と目を閉じた。
どれだけ試し、焼入れを重ねてきたのか、比古は実に慣れた手つきで次々と作業を進めていた。
火を入れる直前、比古は夢主の薄れる気配に気付き小屋の中を覗いた。
「やれやれ……仕方がないか、女の足であれだけ歩いたんだ」
そう言うと比古は軽く手を洗い、布団を広げて夢主を寝かせてやった。
まだ日は高いがどうせすることも無い。
気が済むまで寝かせてやろうと静かに小屋を出た。
いよいよ窯に火が入ると比古は燃え滾る火を嬉しそうに眺めた。
「いい火だ」
比古はいつもの酒を手に、窯の前に置かれた丸太に腰掛けた。
「どうした」
部屋を見回していた夢主が突然声を上げた。
「お布団……そうです、お布団が一組しかないんですよね!!休息所から持ってこないと……」
「おいおい、抱えてここまで来るのか」
「だってまだ夜は寒いですし……」
体の大きな比古と一つの布団に入るのは物理的に無理だろう。
夢主は目の前に座る自分の倍かそれ以上の大きな体を見て呟いた。
「明日俺が取ってきてやるから、今夜は諦めろ」
「でも……」
「大丈夫だ。俺は今夜は窯の火を見て過ごすさ。いつもの事だ、火を入れたら俺は動かん」
「そうなんですか……本当に甘えていいんですか……」
「あぁ、もともと今夜は使わん布団だ。好きにしろ」
「ありがとうございます」
いくら信頼のおける比古でも同じ布団に入るのは抵抗がある。
夢主はほぅっと息を吐いて気を緩めた。
「私、陶芸したこと無いんですけど……やってみたいです」
「陶芸に興味があるのか」
「物を作るのが好きで……陶芸は全く分からないのですが、形を作ったり絵をつけるの、やってみたいです」
「ふむ……まぁ良いだろう。三月もあれば俺が一から作る場面に立ち会える。一緒に土をこねるか」
「はぃ!是非お願いします」
「フッ、変わった女だな」
「そうかもしれません……比古さん、いえ、比古師匠!お昼ご飯頂きます」
「おい、師匠じゃねぇと言っただろう」
「でも陶芸を教えていただくのですから、やっぱり師匠です!」
「それならば新津師匠になるのではないか、比古は御剣流に伝わる名だぞ」
「あっ……」
打ちのめされたように口を開ける夢主の顔に、比古は不覚にも笑ってしまった。
「面白い顔しやがる。そんなに比古師匠と呼びたいなら好きにしろ」
「いいんですか!」
「あぁ。断るのも面倒臭くなってきた」
「ありがとうございます!比古師匠……ご飯、頂きます!」
比古に手渡された椀に入った煮物を口にした。
歩き疲れた体に栄養が一気に行き届く錯覚を感じ、夢主の体は元気を取り戻していった。
「人と飯を食うのはいつぶりか……悪くは……ないな」
「えっ」
「いや、人と関わるのはもうご免と思っているんだがな。誰かと食う飯が美味いと言うのはあながち間違っていないのかもしれない。おかしなものだ」
そう言うと、斎藤や沖田と同じように比古はあっという間に食事を終えて立ち上がった。
「ゆっくり食ってろ、俺は窯の準備をしてくる。食ったらそのまま置いておけ、片付けはするな」
「でもお食事頂いたので……」
「お前は客人だと言っただろう、器は置いておけ。余計なことはするな」
「わかりました……」
下手に触れるなと牽制されたのか、気遣ってくれたのか。どちらか分からないが、大人しく従うべきだろう。
夢主が食事を続ける間、外で比古が動く音が絶えず聞こえていた。
「ご馳走様でした……」
食事を終えた夢主、歩き通し疲れた体から満腹で満たされた体に変わると、強い眠気に襲われた。
ゆっくり器を置き、畳まれた布団にもたれ「少しだけ……」と目を閉じた。
どれだけ試し、焼入れを重ねてきたのか、比古は実に慣れた手つきで次々と作業を進めていた。
火を入れる直前、比古は夢主の薄れる気配に気付き小屋の中を覗いた。
「やれやれ……仕方がないか、女の足であれだけ歩いたんだ」
そう言うと比古は軽く手を洗い、布団を広げて夢主を寝かせてやった。
まだ日は高いがどうせすることも無い。
気が済むまで寝かせてやろうと静かに小屋を出た。
いよいよ窯に火が入ると比古は燃え滾る火を嬉しそうに眺めた。
「いい火だ」
比古はいつもの酒を手に、窯の前に置かれた丸太に腰掛けた。