93.ひとときの さようなら
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「あぁ……見覚えがある……見た通り……」
入ってすぐの場所に置かれた棚、比古が試作したと思われる陶器の数々。
今すぐ売り物になりそうな見事な器から、多少の歪みやひびが見える器もある。
湯呑み、徳利、お猪口に皿……壺……比古が一通り試した跡が見られた。
「凄い数……比古師匠って実は努力家なんじゃ……」
中には囲炉裏が一つ、布団が畳んで置かれ、一番奥には文机も置かれていた。
四角い盆が幾つか床に置かれ、比古が酒を楽しんだあとが残されている。
「ふふっ、本当にお酒好き……」
足を拭い中に上がると、首を回してもう一度小屋の中を見回した。
ふと入り口のむしろに目が止まる。
「扉じゃないんだっけ……ちょっと怖いな……」
ぼそっと呟いた瞬間、むしろが小屋の中に向かい膨らんだので夢主は声を上げた。
「わぁっ!!」
「おいおい、そんな声を出すなよ、俺だ。水を汲んできたぞ」
「あっ……比古っ新津さん、吃驚しました!だってむしろの扉は、初めてで……」
「そうか。それなりの場所で過ごしてきたんだな」
夢主が頷く間に比古は手桶を置き、自らの足を清めて夢主の向かいに腰を下ろした。
「ほら、昼飯なら出来てる。食え」
比古は早速大きなお椀を手にし、囲炉裏の鍋から野菜と何かの肉をごった煮した物をすくった。
「ありがとうございます……あの、先にお渡ししておきたいものが……」
「何だ」
「こんな物をと思うかもしれませんが……お世話になりますので……」
金などと怒りはしないか、夢主は恐る恐る土方に手渡された小判を三枚差し出した。
「ほぉ、壬生狼にしては気が効くな。金は天下の回りもの、ありがたく頂戴しよう。正直剣客が剣だけで生きていくには面倒な時代でな。しかも俺は自分の腕を金儲けに使うわけにもいかない」
「はい、わかります」
比古の身につけている飛天御剣流は人々の為に振るう剣であり、どこに与してもいけない。
きっと人助けをして施しを受けながら日々生きる、僧のような生活をしていたのだろう。
人々から離れて暮らしたいと願った比古が生活の糧を得る為、懸命に努力した結果が棚に置かれた陶器の数々なのだ。
「よし、今からお前は客人だ。金を受け取ったからには客として持て成そう。何も気にすることは無い、俺は今までも一人で充分やってきたのだからな。余計なことはしなくていいぞ」
比古の意外と現金な一面を見た気がした夢主。
客人として丁重に扱うと言われているのか、面倒だから余計な事はしてくれるなと言われているのか分からないが、素直に頷いた。
「新津……さん、凄いですね」
「その言いにくそうに新津と呼ぶのはもういい、町中で無いなら好きに呼べ」
「いいんですか……」
「あぁ」
「じゃあ……比古師匠っ」
えへへっと恥ずかしがりながら呼ぶと、比古は満更でもない顔で頷いた。
「だが、師匠じゃねぇだろう」
「あっ……比古さん、比古さんは沢山陶器を焼いたんですね。物凄い数……」
「あぁそうさ。相当作ったな。確かに最初は試行錯誤を繰り返したがもう完璧だ」
「本当ですか、凄い!」
「あぁ凄いだろう、俺はやはり天才だな」
「ふふっ、比古さん面白い……」
「笑うんじゃねぇよ」
ごめんなさい……と謝るが、小刻みに震える肩はなかなかおさまらなかった。
入ってすぐの場所に置かれた棚、比古が試作したと思われる陶器の数々。
今すぐ売り物になりそうな見事な器から、多少の歪みやひびが見える器もある。
湯呑み、徳利、お猪口に皿……壺……比古が一通り試した跡が見られた。
「凄い数……比古師匠って実は努力家なんじゃ……」
中には囲炉裏が一つ、布団が畳んで置かれ、一番奥には文机も置かれていた。
四角い盆が幾つか床に置かれ、比古が酒を楽しんだあとが残されている。
「ふふっ、本当にお酒好き……」
足を拭い中に上がると、首を回してもう一度小屋の中を見回した。
ふと入り口のむしろに目が止まる。
「扉じゃないんだっけ……ちょっと怖いな……」
ぼそっと呟いた瞬間、むしろが小屋の中に向かい膨らんだので夢主は声を上げた。
「わぁっ!!」
「おいおい、そんな声を出すなよ、俺だ。水を汲んできたぞ」
「あっ……比古っ新津さん、吃驚しました!だってむしろの扉は、初めてで……」
「そうか。それなりの場所で過ごしてきたんだな」
夢主が頷く間に比古は手桶を置き、自らの足を清めて夢主の向かいに腰を下ろした。
「ほら、昼飯なら出来てる。食え」
比古は早速大きなお椀を手にし、囲炉裏の鍋から野菜と何かの肉をごった煮した物をすくった。
「ありがとうございます……あの、先にお渡ししておきたいものが……」
「何だ」
「こんな物をと思うかもしれませんが……お世話になりますので……」
金などと怒りはしないか、夢主は恐る恐る土方に手渡された小判を三枚差し出した。
「ほぉ、壬生狼にしては気が効くな。金は天下の回りもの、ありがたく頂戴しよう。正直剣客が剣だけで生きていくには面倒な時代でな。しかも俺は自分の腕を金儲けに使うわけにもいかない」
「はい、わかります」
比古の身につけている飛天御剣流は人々の為に振るう剣であり、どこに与してもいけない。
きっと人助けをして施しを受けながら日々生きる、僧のような生活をしていたのだろう。
人々から離れて暮らしたいと願った比古が生活の糧を得る為、懸命に努力した結果が棚に置かれた陶器の数々なのだ。
「よし、今からお前は客人だ。金を受け取ったからには客として持て成そう。何も気にすることは無い、俺は今までも一人で充分やってきたのだからな。余計なことはしなくていいぞ」
比古の意外と現金な一面を見た気がした夢主。
客人として丁重に扱うと言われているのか、面倒だから余計な事はしてくれるなと言われているのか分からないが、素直に頷いた。
「新津……さん、凄いですね」
「その言いにくそうに新津と呼ぶのはもういい、町中で無いなら好きに呼べ」
「いいんですか……」
「あぁ」
「じゃあ……比古師匠っ」
えへへっと恥ずかしがりながら呼ぶと、比古は満更でもない顔で頷いた。
「だが、師匠じゃねぇだろう」
「あっ……比古さん、比古さんは沢山陶器を焼いたんですね。物凄い数……」
「あぁそうさ。相当作ったな。確かに最初は試行錯誤を繰り返したがもう完璧だ」
「本当ですか、凄い!」
「あぁ凄いだろう、俺はやはり天才だな」
「ふふっ、比古さん面白い……」
「笑うんじゃねぇよ」
ごめんなさい……と謝るが、小刻みに震える肩はなかなかおさまらなかった。