93.ひとときの さようなら
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「夢主、暫く歩くがついて来られるか」
「はい、大丈夫です」
大きな歩幅の速い歩みに懸命について歩きながら答える夢主は、既に余裕が無かった。
京の町外れに辿り着く頃には呼吸が乱れていた。
「夢主、止まれ」
「はっ……はい……」
頑張って大きな声で返事をした。
自分を気遣って立ち止まってくれたのか。比古の顔を見上げるとそうではないようで、一点を見据えて夢主の前に歩み出た。
「誰だ。敵ではないのだな、出て来い」
比古が一言発すると、視線の先から小柄な男が現れた。
「やっ……山崎さんっ!」
夢主は嬉しさと驚きと呆れのような複雑な声を上げた。
「何だ、こいつも壬生の男か」
「はいっ……あの……特にお世話になった方の一人です……山崎さん、もしかして土方さんに……」
比古に説明してから問いかけるが、山崎に答えられないと口を閉ざしたまま、どう行動を取るべきか思案しているようだ。
「男、事情は理解した。だがお前もここまでだ。これ以上ついて来ると言うのなら……俺は容赦しねぇぞ」
比古が解き放った剣気に山崎が一瞬怯むのが夢主にも伝わった。
当たり前だ、沖田ですら剣を抜けなかったのだ。
実戦より情報収集や潜伏、隠密行動に長けている山崎は比古の剣の前では無力に等しい。
「山崎さん、お願いします!もし土方さんが気を利かせてくださったのなら……私は大丈夫です。場所はお伝え出来ないけれど、きっと戻ると伝えてください。山崎さんが個人的に気に掛けてくださっていたのなら……ありがとうございます。私は……大丈夫です」
にこりと向けられた、たおやかな笑顔に山崎は思わずたじろいだ。
力強く頷く夢主に応じて、山崎も無言でゆっくりと頷く。
「あっ……」
頭を下げたと思ったら山崎はすぐに姿を消してしまった。
夢主には捉えられなかった立ち去る姿を、比古はしっかり捉え、目線を動かしていた。
「フン、行くぞ」
山崎の姿が完全に姿が消えたのを確認してから、比古は山を目指して歩き出した。
市中では自分の速度で進んでいた比古だが、山に入るとさすがに夢主の足取りを気にするようになる。
「大丈夫か」
「はい、自分の足で……登れます」
「そうか」
肩にでも抱えて歩いたほうがよっぽど速い。だが比古は夢主の意思を尊重し、自分の足で歩かせた。
屯所を出て一刻は経ったのではないか、そんな感覚になるほど二人は黙って歩いた。
小石の多い坂道を登り切ると開けた土地が見え、比古が自分で建てたと思われる掘っ建て小屋が現れた。
そばには大きな窯が、そして見覚えのある大きな丸太が置かれていた。窯の様子を見ながら比古が酒を味わう場所だ。
「はぁ……着いた……」
夢主は立ち竦み、比古の生活の場を眺めた。
小屋の周りは男一人暮らす割には、小奇麗に片付いている。恐らく小屋の中も整頓されているのだろう。
「もう……動けません……」
「中に入って座っていろ。俺は水を汲んでくる」
「ありがとうございます……でもご飯の用意を……」
「いいから座って待ってろ。手拭いはあるか、入り口の水で足を拭えよ」
そう言い残すと比古は手桶を二つ持ち、沢へ降りていった。
夢主は疲れた足をよろよろと引きずり、小屋に向かい、遠慮なく中に入って再び立ち竦んだ。
感激で動けなくなったのだ。
「はい、大丈夫です」
大きな歩幅の速い歩みに懸命について歩きながら答える夢主は、既に余裕が無かった。
京の町外れに辿り着く頃には呼吸が乱れていた。
「夢主、止まれ」
「はっ……はい……」
頑張って大きな声で返事をした。
自分を気遣って立ち止まってくれたのか。比古の顔を見上げるとそうではないようで、一点を見据えて夢主の前に歩み出た。
「誰だ。敵ではないのだな、出て来い」
比古が一言発すると、視線の先から小柄な男が現れた。
「やっ……山崎さんっ!」
夢主は嬉しさと驚きと呆れのような複雑な声を上げた。
「何だ、こいつも壬生の男か」
「はいっ……あの……特にお世話になった方の一人です……山崎さん、もしかして土方さんに……」
比古に説明してから問いかけるが、山崎に答えられないと口を閉ざしたまま、どう行動を取るべきか思案しているようだ。
「男、事情は理解した。だがお前もここまでだ。これ以上ついて来ると言うのなら……俺は容赦しねぇぞ」
比古が解き放った剣気に山崎が一瞬怯むのが夢主にも伝わった。
当たり前だ、沖田ですら剣を抜けなかったのだ。
実戦より情報収集や潜伏、隠密行動に長けている山崎は比古の剣の前では無力に等しい。
「山崎さん、お願いします!もし土方さんが気を利かせてくださったのなら……私は大丈夫です。場所はお伝え出来ないけれど、きっと戻ると伝えてください。山崎さんが個人的に気に掛けてくださっていたのなら……ありがとうございます。私は……大丈夫です」
にこりと向けられた、たおやかな笑顔に山崎は思わずたじろいだ。
力強く頷く夢主に応じて、山崎も無言でゆっくりと頷く。
「あっ……」
頭を下げたと思ったら山崎はすぐに姿を消してしまった。
夢主には捉えられなかった立ち去る姿を、比古はしっかり捉え、目線を動かしていた。
「フン、行くぞ」
山崎の姿が完全に姿が消えたのを確認してから、比古は山を目指して歩き出した。
市中では自分の速度で進んでいた比古だが、山に入るとさすがに夢主の足取りを気にするようになる。
「大丈夫か」
「はい、自分の足で……登れます」
「そうか」
肩にでも抱えて歩いたほうがよっぽど速い。だが比古は夢主の意思を尊重し、自分の足で歩かせた。
屯所を出て一刻は経ったのではないか、そんな感覚になるほど二人は黙って歩いた。
小石の多い坂道を登り切ると開けた土地が見え、比古が自分で建てたと思われる掘っ建て小屋が現れた。
そばには大きな窯が、そして見覚えのある大きな丸太が置かれていた。窯の様子を見ながら比古が酒を味わう場所だ。
「はぁ……着いた……」
夢主は立ち竦み、比古の生活の場を眺めた。
小屋の周りは男一人暮らす割には、小奇麗に片付いている。恐らく小屋の中も整頓されているのだろう。
「もう……動けません……」
「中に入って座っていろ。俺は水を汲んでくる」
「ありがとうございます……でもご飯の用意を……」
「いいから座って待ってろ。手拭いはあるか、入り口の水で足を拭えよ」
そう言い残すと比古は手桶を二つ持ち、沢へ降りていった。
夢主は疲れた足をよろよろと引きずり、小屋に向かい、遠慮なく中に入って再び立ち竦んだ。
感激で動けなくなったのだ。