93.ひとときの さようなら
夢主名前設定
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皆から離れた夢主を追った沖田が部屋に戻ると、夢主は自室で小さな風呂敷包みを膝に乗せて座っていた。
心ここにあらず、そんな瞳で愛おしそうに風呂敷を見つめている。
「この風呂敷……斎藤さんからのお土産なんです。役立つ時が来るだろうって……本当に、来ましたね」
「夢主ちゃん……大丈夫?ねぇ、斎藤さんの言ってた……嘘ですよ、あれは……」
夢主は顔を上げ、ゆっくり微笑んで頭を動かした。
もう大丈夫、嘘だと知っていたのですから大丈夫ですと。
「わかっていますよ、わかってるんです……なのにどうしてでしょうね……斎藤さんの言葉を聞いていたら、涙が出てしまって……斎藤さん、怒ってるかな」
沖田は傍まで来て腰を下ろした。
いつも通りの穏やかな笑顔で夢主の様子を窺っている。
斎藤を庇うようで嫌だけど、励まさずにはいられない。
「大丈夫ですよ。あの人なら……でしょう?」
「ふふっ、そうですね……きっと許してくれますよね、渋々……」
「ははっ、確かに渋々かもしれないね」
夢主は吹っ切ったように背筋を伸ばして風呂敷を胸に抱えた。
「沖田さんっ!」
「行きますか……」
「はい!お願いします。私を……連れ出してください」
一番怒っていた原田は憂え気な様子で既にどこかに姿を消した。
他の幹部連中も土方が与えた仕事や、それぞれの持ち場につき、果たすべき任務に集中している。
今ならば誰にも悟られずこの西本願寺の屯所を抜け出せるだろう。
土方の指示により、普段隊士が通らない寺の裏にある出入り口から外に出た。
……もう行こう、斎藤さんの顔を見る前に……
最後に見た厳しい顔は夢主の脳裏に強く残っていた。
それでも優しく触れてくれた斎藤を信じ、彼が無事に大任を終えるまで身を隠そう。
夢主は決意して歩いた。
休息所に着くと沖田が嬉しそうに何かを取り出した。
「何でしょうか……」
「ははっ、お弁当ですよ!お腹空くでしょう、食べて待ちましょう……」
「準備がいいんですね」
「いえ、これは土方さんですよ、抜かりないのは全部あの人の指図ですから、あははっ」
「さすがですねっ」
二人がお腹を満たそうと座った時、力強く土を踏みしめる音が聞こえた。
咄嗟に休息所の入り口に顔を向けると、そこには比古が立っていた。
外からの光を背に受け顔立ちがはっきりと分からないが、この巨体に圧倒的な存在感、見覚えのある白い外套は間違いなく比古清十郎だ。
「悪いが弁当は無しだ。夢主、匿って欲しいならついて来い」
「新津さん!」
「さぁ、さっさとしろ。沖田!」
「はいっ」
沖田は既に立ち上がっていたが、比古に名を呼ばれ姿勢を正した。
「お前はここまでだ、いいな。しっかり預かったと戻って伝えろ。三月経ったらここに連れ戻す。何かあればあの酒屋を使え、分かったな」
「はい、宜しくお願いします!!新津さん!!」
沖田は頭を深々と下げて心から願った。
何よりも大切な人をよろしく頼みますと。
いつもおちゃらけて、真面目に何かを頼んだり謝る姿を見た覚えが無い。夢主はこんなに頭を下げる沖田を初めて見た。
「うむ、任せておけ。夢主、行くぞ」
顔を上げた沖田と夢主の目が合うと、沖田は今までで一番優しい笑顔をくれた。
「夢主ちゃん、行ってらっしゃい」
「はい……行ってきます」
夢主は沖田に深くお辞儀をし、比古の後ろに続いた。
「行っちゃったな……淋しいや、参ったな……」
沖田は残された二つの弁当を眺めて呟き、力なく座り込んだ。
「食べてから戻ろう。二つも……食べられるかな」
静かになった休息所の中で、こつこつと沖田が弁当をつつく音だけが小さく響いた。
心ここにあらず、そんな瞳で愛おしそうに風呂敷を見つめている。
「この風呂敷……斎藤さんからのお土産なんです。役立つ時が来るだろうって……本当に、来ましたね」
「夢主ちゃん……大丈夫?ねぇ、斎藤さんの言ってた……嘘ですよ、あれは……」
夢主は顔を上げ、ゆっくり微笑んで頭を動かした。
もう大丈夫、嘘だと知っていたのですから大丈夫ですと。
「わかっていますよ、わかってるんです……なのにどうしてでしょうね……斎藤さんの言葉を聞いていたら、涙が出てしまって……斎藤さん、怒ってるかな」
沖田は傍まで来て腰を下ろした。
いつも通りの穏やかな笑顔で夢主の様子を窺っている。
斎藤を庇うようで嫌だけど、励まさずにはいられない。
「大丈夫ですよ。あの人なら……でしょう?」
「ふふっ、そうですね……きっと許してくれますよね、渋々……」
「ははっ、確かに渋々かもしれないね」
夢主は吹っ切ったように背筋を伸ばして風呂敷を胸に抱えた。
「沖田さんっ!」
「行きますか……」
「はい!お願いします。私を……連れ出してください」
一番怒っていた原田は憂え気な様子で既にどこかに姿を消した。
他の幹部連中も土方が与えた仕事や、それぞれの持ち場につき、果たすべき任務に集中している。
今ならば誰にも悟られずこの西本願寺の屯所を抜け出せるだろう。
土方の指示により、普段隊士が通らない寺の裏にある出入り口から外に出た。
……もう行こう、斎藤さんの顔を見る前に……
最後に見た厳しい顔は夢主の脳裏に強く残っていた。
それでも優しく触れてくれた斎藤を信じ、彼が無事に大任を終えるまで身を隠そう。
夢主は決意して歩いた。
休息所に着くと沖田が嬉しそうに何かを取り出した。
「何でしょうか……」
「ははっ、お弁当ですよ!お腹空くでしょう、食べて待ちましょう……」
「準備がいいんですね」
「いえ、これは土方さんですよ、抜かりないのは全部あの人の指図ですから、あははっ」
「さすがですねっ」
二人がお腹を満たそうと座った時、力強く土を踏みしめる音が聞こえた。
咄嗟に休息所の入り口に顔を向けると、そこには比古が立っていた。
外からの光を背に受け顔立ちがはっきりと分からないが、この巨体に圧倒的な存在感、見覚えのある白い外套は間違いなく比古清十郎だ。
「悪いが弁当は無しだ。夢主、匿って欲しいならついて来い」
「新津さん!」
「さぁ、さっさとしろ。沖田!」
「はいっ」
沖田は既に立ち上がっていたが、比古に名を呼ばれ姿勢を正した。
「お前はここまでだ、いいな。しっかり預かったと戻って伝えろ。三月経ったらここに連れ戻す。何かあればあの酒屋を使え、分かったな」
「はい、宜しくお願いします!!新津さん!!」
沖田は頭を深々と下げて心から願った。
何よりも大切な人をよろしく頼みますと。
いつもおちゃらけて、真面目に何かを頼んだり謝る姿を見た覚えが無い。夢主はこんなに頭を下げる沖田を初めて見た。
「うむ、任せておけ。夢主、行くぞ」
顔を上げた沖田と夢主の目が合うと、沖田は今までで一番優しい笑顔をくれた。
「夢主ちゃん、行ってらっしゃい」
「はい……行ってきます」
夢主は沖田に深くお辞儀をし、比古の後ろに続いた。
「行っちゃったな……淋しいや、参ったな……」
沖田は残された二つの弁当を眺めて呟き、力なく座り込んだ。
「食べてから戻ろう。二つも……食べられるかな」
静かになった休息所の中で、こつこつと沖田が弁当をつつく音だけが小さく響いた。