93.ひとときの さようなら
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「夢主……」
原田が緊迫した空気に固まる姿に気付き、掛けた声で夢主は体の緊張が解れた。
体が動く。一歩二歩と騒ぎに近付いた。
周りにいるのは事情を知る沖田、そしてここに残る原田や永倉といった幹部達、斎藤と共に出て行く男が僅か。
今なのだ。
夢主は斎藤の言葉を待たずに恐る恐る自ら申し出た。
「さ、斎藤さん……私も一緒に行きます。連れて行ってください」
夢主を見守る男達が、やっと言ったか……安堵して胸をなで下ろしたのも束の間、斎藤は間髪入れず断りの言葉を口にした。
「駄目だ」
思いもしない斎藤の返答に、言葉を浴びた夢主本人よりも周りの男達が反応を示してざわつく。
信じられないと目を見開いている。
「ついて来られては迷惑だ。分からんのか、天子様の御陵をお守りする神聖な勤めだ。女がついて来られるものか。身を弁えろ」
「でも……」
斎藤の冷たい目に戸惑うが、このまま引き下がっては不自然……役目を果たす為に食い下がろうとするが、その必要も無いほどすぐに斎藤は言葉を続けた。
「ここに残るなり出て行くなり好きにすればいい。俺はここを出る。だから俺にはもう……お前との関係は、何も無い」
「はっ……」
つぅ……
はい、と答えるつもりで口を開いた。
言葉よりも先に、斎藤を真っ直ぐ見つめる大きな瞳から、一粒の涙が零れ落ちた。
突然美しく流れた雫に斎藤も目を見張った。
涙を流した夢主ですらその理由が分からなかった。
ただ、斎藤の冷たい瞳を見つめ、耳にした言葉に体が反応してしまったのだ。
「とにかく、好きにしろ」
「は……はぃ……」
夢主は泣きながらその場から立ち去った。
……涙は予想外だ……が、まぁ……計画通りか……
思わぬ夢主の涙に動揺していないといえば嘘になるが、事は成功だと斎藤は己に言い聞かせた。
場を去った夢主にほっとして後ろ姿を見送る。
「夢主っ!!おい、斎藤、いいのかよ!!」
「僕が追いますっ、大丈夫!!」
沖田は後を追えと斎藤に怒鳴りつける原田をこのままにしては危険だと、一言残して夢主を追いかけた。
納得いかないのは周りの男達で、原田は怒りを露に斎藤に詰め寄る。
「おい、ふざけんなよ!!何が関係無いだ!本気でそんな風に思ってんのか!!あいつを何だと思ってんだよ!!」
「何とは、ただの居候でしょう。もともとは俺達の妾になるはずの女だったんだ。今までのうのうと暮らせて幸せじゃないですか。俺がアイツに何かしたわけでもない、褒められたとしても怒られる謂れはありませんね」
斎藤が言い終わらないうちに、原田は沸き起こった怒りに任せて渾身の拳を斎藤の顔にぶつけていた。
「本気で思ってんのか!!」
「……痛いですよ」
殴られた斎藤が頬を確かめながら体勢を立て直す傍で、原田は今にも二発目を入れようと構えていた。
「痛いだぁ?!あぁ痛いだろうよ!!夢主の受けた痛みはそんなもんじゃねぇだろう!!」
「いいでしょう、受けて立ちます……」
ポキポキと指を鳴らして拳を作り上げる斎藤に、原田も「いい根性だ!!」とやりあう姿勢を見せた。
斎藤もいつしか頭に血が上ってしまっているようだ。
下がって見ていた土方が、騒ぎが大きくなりそうな為やむを得ず間に入った。
「待て、私闘は禁止のはずだ」
原田が緊迫した空気に固まる姿に気付き、掛けた声で夢主は体の緊張が解れた。
体が動く。一歩二歩と騒ぎに近付いた。
周りにいるのは事情を知る沖田、そしてここに残る原田や永倉といった幹部達、斎藤と共に出て行く男が僅か。
今なのだ。
夢主は斎藤の言葉を待たずに恐る恐る自ら申し出た。
「さ、斎藤さん……私も一緒に行きます。連れて行ってください」
夢主を見守る男達が、やっと言ったか……安堵して胸をなで下ろしたのも束の間、斎藤は間髪入れず断りの言葉を口にした。
「駄目だ」
思いもしない斎藤の返答に、言葉を浴びた夢主本人よりも周りの男達が反応を示してざわつく。
信じられないと目を見開いている。
「ついて来られては迷惑だ。分からんのか、天子様の御陵をお守りする神聖な勤めだ。女がついて来られるものか。身を弁えろ」
「でも……」
斎藤の冷たい目に戸惑うが、このまま引き下がっては不自然……役目を果たす為に食い下がろうとするが、その必要も無いほどすぐに斎藤は言葉を続けた。
「ここに残るなり出て行くなり好きにすればいい。俺はここを出る。だから俺にはもう……お前との関係は、何も無い」
「はっ……」
つぅ……
はい、と答えるつもりで口を開いた。
言葉よりも先に、斎藤を真っ直ぐ見つめる大きな瞳から、一粒の涙が零れ落ちた。
突然美しく流れた雫に斎藤も目を見張った。
涙を流した夢主ですらその理由が分からなかった。
ただ、斎藤の冷たい瞳を見つめ、耳にした言葉に体が反応してしまったのだ。
「とにかく、好きにしろ」
「は……はぃ……」
夢主は泣きながらその場から立ち去った。
……涙は予想外だ……が、まぁ……計画通りか……
思わぬ夢主の涙に動揺していないといえば嘘になるが、事は成功だと斎藤は己に言い聞かせた。
場を去った夢主にほっとして後ろ姿を見送る。
「夢主っ!!おい、斎藤、いいのかよ!!」
「僕が追いますっ、大丈夫!!」
沖田は後を追えと斎藤に怒鳴りつける原田をこのままにしては危険だと、一言残して夢主を追いかけた。
納得いかないのは周りの男達で、原田は怒りを露に斎藤に詰め寄る。
「おい、ふざけんなよ!!何が関係無いだ!本気でそんな風に思ってんのか!!あいつを何だと思ってんだよ!!」
「何とは、ただの居候でしょう。もともとは俺達の妾になるはずの女だったんだ。今までのうのうと暮らせて幸せじゃないですか。俺がアイツに何かしたわけでもない、褒められたとしても怒られる謂れはありませんね」
斎藤が言い終わらないうちに、原田は沸き起こった怒りに任せて渾身の拳を斎藤の顔にぶつけていた。
「本気で思ってんのか!!」
「……痛いですよ」
殴られた斎藤が頬を確かめながら体勢を立て直す傍で、原田は今にも二発目を入れようと構えていた。
「痛いだぁ?!あぁ痛いだろうよ!!夢主の受けた痛みはそんなもんじゃねぇだろう!!」
「いいでしょう、受けて立ちます……」
ポキポキと指を鳴らして拳を作り上げる斎藤に、原田も「いい根性だ!!」とやりあう姿勢を見せた。
斎藤もいつしか頭に血が上ってしまっているようだ。
下がって見ていた土方が、騒ぎが大きくなりそうな為やむを得ず間に入った。
「待て、私闘は禁止のはずだ」