92.名残惜しい人
夢主名前設定
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「斎藤さん、」
「まぁ今くらいは許せ」
「……今だけですよ……」
「あぁ。恐らく明日だ、皆の前でお前に言わねばならんからな、しっかり泣いて出て行けよ」
「酷い」
本当はきっともっと良い方法があるはず。夢主は少なからず思っていた。
それでも斎藤が選んだ方法だから従ってみようと受け入れたのだ。
それをおちょくるなんて……夢主は拗ねてしまおうかと一言発した。
「斎藤さん酷いです」
「フフン、嘘だと言っているだろう。酷くないさ」
そう言うと斎藤は夢主の首筋に顔を預けてきた。
熱い息が直に首にかかると嫌でも反応してしまう夢主は、焦って斎藤に離れてくれるよう頼んだ。
「さっ、斎藤さん、駄目ですよ離れて……もぅっ、沖田さんに怒られちゃいますよ」
「気付いていないのか、彼は今部屋を出ているぞ」
「えっ」
体を強張らせる夢主をククッと笑い、斎藤は警戒するなと顔を離してやった。
「安心しろ、すぐ戻るさ。土方さんに呼ばれているだけだ。だから俺も、くっついているだけ……さ」
「……もぅ……本当に今だけですよ」
「あぁ」
再び斎藤が顔を寄せた。
今度はうなだれるように夢主の頭に顔を寄せている。
静かな呼吸に合わせ熱い息が頭にかかる。
すまん……
不意に耳に届いた声にならない声、聞き間違いかと思うほどだった。
夢主はおもむろに体を動かすと斎藤に向き直った。
「斎藤さん、斎藤さんなら大丈夫ですよ、きっとお役目を果たして……斎藤さん?」
「ククッ……いや、悪いな。違うんだよ、何も俺は自分を危ぶんでいる訳ではないさ。ただ暫くお前を揶揄えないし、姿を見れず声も聞けない。考えていたらふと触れたくなっただけだ。犬猫と一緒だな」
「なっ……本当にそれ酷いですっ、そりゃ犬も猫も可愛いですし……大切ですけど……それにしてもっ!猫を可愛がってるつもりだったんですか」
目の前でおどける斎藤を夢主は恨めしげに睨み付けた。
おどけた言葉の裏にある真意になど微塵も分からずに、頬を膨らませる。
「もう……斎藤さんが思い悩んでいるのかと思って損しちゃいました」
「そんな言い方はないだろう」
「斎藤さんこそ、そんな言い方酷いです」
「拗ねるなよ、せっかくの一時だろう」
いつも笑っていて欲しいこの顔を明日は曇らせるのか……
斎藤はフッと笑うと夢主のおでこを小突いてみせた。
「痛っ……またおでこ……」
「ほぅ、よく覚えているな」
「覚えていますよ、斎藤さんにされたことも、言われたことだって全部」
嬉しいことも悲しいことも、全部覚えている。
斎藤から受けた感情は忘れたくても忘れられない。
こうしてたまに触れてくる気まぐれな戯れも、夢主の心には深く刻まれる。
だからあまりして欲しくないはずなのに、期待する自分もいた。
「そこまで気に掛けてくれていたのか、光栄だな」
「違いますっ、記憶が……そうですよ、私きっと記憶力が良いんです」
「ハハッ、まぁ頭が悪いとは言わんが、自分で賢いと言うのは賢くないぞ」
「だって……斎藤さんが揶揄うからですよ……」
すぐに唇に触れられる近さで顔を突き合わせ話していると気付き、夢主は急に我に返って頬を染めた。
「と、とにかくですね……」
顔を逸らして照れを誤魔化すが、しっかりと色付いた頬に斎藤は目を細めた。
先程は遠慮して後ろから体を寄せたが、今度は遠慮せずに正面から体を抱き寄せた。夢主が嫌がれば抜け出せるほどに優しい力で。
「さっ……」
「もう少し近付いてみるか」
「えっ、いぇっ……」
斎藤が夢主の首筋に手を添え誘うように問うので、夢主は慌てて首を振った。
すると、分かっているとばかりに手は離れ、ニヤリと笑う。
またおちょくられたと膨れる顔を斎藤は面白い奴だと含み笑いで眺めた。
「フッ、まぁもうすぐお邪魔虫も戻ってくる頃さ。だからそれまでは……」
「でも」
「黙ってろ」
文句は言えど逃げ出さない体を確認して、斎藤は己を見上げる夢主に笑んで見せた。
真っ直ぐで温かい眼差しに固まりそうになるが、見つめ返してはいけないと夢主は俯く。
反応を確かめた斎藤は小さな体に回した腕に力を加えた。
夢主はビクリとするが、肩の力はすぐに抜ける。
しっかりと抱きしめられて腕を動かせず、抱き返せないのが好都合だったかもしれない。
僅かに動く手を斎藤の胸にそっと添えた。
頬ずりをするように顔も大きな胸に預け、されるがままに体を預けた夢主は、小さくも明るい声で伝えた。
「私も……頑張ります」
「あぁ」
頑張れよ……耳元で囁かれた言葉に、夢主はふふっ……と笑った。
「まぁ今くらいは許せ」
「……今だけですよ……」
「あぁ。恐らく明日だ、皆の前でお前に言わねばならんからな、しっかり泣いて出て行けよ」
「酷い」
本当はきっともっと良い方法があるはず。夢主は少なからず思っていた。
それでも斎藤が選んだ方法だから従ってみようと受け入れたのだ。
それをおちょくるなんて……夢主は拗ねてしまおうかと一言発した。
「斎藤さん酷いです」
「フフン、嘘だと言っているだろう。酷くないさ」
そう言うと斎藤は夢主の首筋に顔を預けてきた。
熱い息が直に首にかかると嫌でも反応してしまう夢主は、焦って斎藤に離れてくれるよう頼んだ。
「さっ、斎藤さん、駄目ですよ離れて……もぅっ、沖田さんに怒られちゃいますよ」
「気付いていないのか、彼は今部屋を出ているぞ」
「えっ」
体を強張らせる夢主をククッと笑い、斎藤は警戒するなと顔を離してやった。
「安心しろ、すぐ戻るさ。土方さんに呼ばれているだけだ。だから俺も、くっついているだけ……さ」
「……もぅ……本当に今だけですよ」
「あぁ」
再び斎藤が顔を寄せた。
今度はうなだれるように夢主の頭に顔を寄せている。
静かな呼吸に合わせ熱い息が頭にかかる。
すまん……
不意に耳に届いた声にならない声、聞き間違いかと思うほどだった。
夢主はおもむろに体を動かすと斎藤に向き直った。
「斎藤さん、斎藤さんなら大丈夫ですよ、きっとお役目を果たして……斎藤さん?」
「ククッ……いや、悪いな。違うんだよ、何も俺は自分を危ぶんでいる訳ではないさ。ただ暫くお前を揶揄えないし、姿を見れず声も聞けない。考えていたらふと触れたくなっただけだ。犬猫と一緒だな」
「なっ……本当にそれ酷いですっ、そりゃ犬も猫も可愛いですし……大切ですけど……それにしてもっ!猫を可愛がってるつもりだったんですか」
目の前でおどける斎藤を夢主は恨めしげに睨み付けた。
おどけた言葉の裏にある真意になど微塵も分からずに、頬を膨らませる。
「もう……斎藤さんが思い悩んでいるのかと思って損しちゃいました」
「そんな言い方はないだろう」
「斎藤さんこそ、そんな言い方酷いです」
「拗ねるなよ、せっかくの一時だろう」
いつも笑っていて欲しいこの顔を明日は曇らせるのか……
斎藤はフッと笑うと夢主のおでこを小突いてみせた。
「痛っ……またおでこ……」
「ほぅ、よく覚えているな」
「覚えていますよ、斎藤さんにされたことも、言われたことだって全部」
嬉しいことも悲しいことも、全部覚えている。
斎藤から受けた感情は忘れたくても忘れられない。
こうしてたまに触れてくる気まぐれな戯れも、夢主の心には深く刻まれる。
だからあまりして欲しくないはずなのに、期待する自分もいた。
「そこまで気に掛けてくれていたのか、光栄だな」
「違いますっ、記憶が……そうですよ、私きっと記憶力が良いんです」
「ハハッ、まぁ頭が悪いとは言わんが、自分で賢いと言うのは賢くないぞ」
「だって……斎藤さんが揶揄うからですよ……」
すぐに唇に触れられる近さで顔を突き合わせ話していると気付き、夢主は急に我に返って頬を染めた。
「と、とにかくですね……」
顔を逸らして照れを誤魔化すが、しっかりと色付いた頬に斎藤は目を細めた。
先程は遠慮して後ろから体を寄せたが、今度は遠慮せずに正面から体を抱き寄せた。夢主が嫌がれば抜け出せるほどに優しい力で。
「さっ……」
「もう少し近付いてみるか」
「えっ、いぇっ……」
斎藤が夢主の首筋に手を添え誘うように問うので、夢主は慌てて首を振った。
すると、分かっているとばかりに手は離れ、ニヤリと笑う。
またおちょくられたと膨れる顔を斎藤は面白い奴だと含み笑いで眺めた。
「フッ、まぁもうすぐお邪魔虫も戻ってくる頃さ。だからそれまでは……」
「でも」
「黙ってろ」
文句は言えど逃げ出さない体を確認して、斎藤は己を見上げる夢主に笑んで見せた。
真っ直ぐで温かい眼差しに固まりそうになるが、見つめ返してはいけないと夢主は俯く。
反応を確かめた斎藤は小さな体に回した腕に力を加えた。
夢主はビクリとするが、肩の力はすぐに抜ける。
しっかりと抱きしめられて腕を動かせず、抱き返せないのが好都合だったかもしれない。
僅かに動く手を斎藤の胸にそっと添えた。
頬ずりをするように顔も大きな胸に預け、されるがままに体を預けた夢主は、小さくも明るい声で伝えた。
「私も……頑張ります」
「あぁ」
頑張れよ……耳元で囁かれた言葉に、夢主はふふっ……と笑った。