92.名残惜しい人
夢主名前設定
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我ながら完璧だと、夢主が自分の狭い部屋に並べた荷物を見回していると、斎藤が戻ってきた。
「荷物は纏まっているか」
「はい!完璧ですっ」
「そうか」
手持ちで夢主自ら運ぶ荷物、沖田に預ける荷物、斎藤に渡す荷物と綺麗に仕分けされている。
荷物を確認すると、斎藤は自分に託されるべき荷を手に再び屯所を出た。
あちこちに用事があるのか、斎藤は丸一日歩き回っている。
屯所に戻ってはすぐに出て行ってしまい、なかなか部屋に腰を据えなかった。
最後の用事を済ませて戻った斎藤が腰を下ろす時、「ふぅ」と息が漏れた。
珍しい場面での溜息に夢主は思わず目を大きく開いて、まじまじと斎藤の顔を覗いた。
「なんだ」
「いえ・・・今日はお忙しそうでしたね、やることが沢山あるんですね・・・ここにいる間に」
伊東と西本願寺を出て行く前に、斎藤は個人的に報告を済ませたり手配すべき件が山ほどあるのだろう。
夢主はそんな誰も知らない斎藤の秘密を知る自分を面白く思っていた。
「まぁな。・・・なんだニヤニヤと」
「ふふっ、ごめんなさい。だって珍しく・・・斎藤さんは疲れ知らずなんでしたよね。でも・・・久しぶりに体ほぐして差し上げましょうか、お嫌でなければ」
「フン、今日は一日動き回ってな、確かに珍しく疲れているかもしれん。気を使うことも多くてな」
斎藤は首を伸ばして肩を解す、あまり見せない仕草をして見せた。
「そうなんですね、斎藤さんも気を使うんですね!大変な一日でしたね、ふふっ」
「おい、喧嘩を売りたいのか」
「冗談ですよっ、ふふふっ」
疲れていると認めない斎藤の性質を知っている夢主は軽く揶揄って笑った。
いつもは斎藤に笑われる自分だが今は逆の立場、そんな状況が面白い。
普段なら揶揄い返すところだが、斎藤は楽しそうな夢主に気を緩めた。鋭い目も僅かに緩む。
「フッ、按摩はいらん。お前は、大丈夫か。誰かお前を訊ねて来たか」
「いえ・・・ただ偶然藤堂さんにお会いしました。お話をして、それから土方さんとも偶然お話を。原田さんもお見かけしたのですが、そのまま行ってしまいました・・・」
原田は何か言いたげな表情だった。
自分の本音を振り切り、夢主を避けて立ち去ったのが分かった。
「そうか。まだお前がどうするか皆は知らない。原田さんは俺と出ていけば危険だと理解しているんだろう。だがお前の気持ちも分かる。お前を思ってくれる原田さんだからこそ、声が掛けられなかったんだろう」
「はい・・・私もそう思います。原田さんはいつでも優しく見守ってくれたから・・・」
いつも励ましてくれた温かい笑顔と同じくらい温かい大きな原田の手を思い出して視線を落とした。
頭に触れる大きな手はいつも元気をくれた。
「今からそんなに淋しがっていては持たんぞ」
「そんなことは・・・きっと出て行ってしまった方が気持ちはすっきり、区切りが付くんだと思うんです。今はつい考えてしまって・・・」
「そうだな、考えても仕方ない」
「わぁ・・・斎藤さん!」
斎藤はニッと薄すら笑うと夢主の後に回り、背後から静かに手を回した。
腕を押さえるように後ろから抱かれて、夢主は恥ずかしがって肩越しに斎藤を見上げた。
「フン・・・考えても仕方ない。暫く離れる分、くっついておくか」
「もぉっ、斎藤さんの冗談はタチが悪いです。土方さんじゃあるまいし」
「ほぅ、土方さんがどうした」
斎藤が覗き込み、夢主は慌てて顔を元に戻した。
今度は熱い息が耳に掛かって擽ったい。
「昼間・・・内緒話だからって土方さんが体を寄せて・・・それだけです。生活費を頂きました・・・」
「成る程な。ならば俺も内緒話だ」
ゆったりと柔らかく夢主を包む斎藤の腕は動かない。夢主は諦めて、もたれるように背中を斎藤の胸に預けた。
それでも今の状況を受け入れきれずにチクリとぼやいた。
「今なら普通に座っていてもお話は漏れませんでしょう、わざわざくっつかなくても・・・」
「いいや、駄目だ」
「・・・珍しいですね」
「そうだな、俺らしくない」
まるで斎藤が夢主に甘えているようだった。
力強く抱きしめているわけではないが、決して離そうとはしない。
話しながら、時々後ろから夢主の顔を覗くように顔を動かしているのが伝わる。
「荷物は纏まっているか」
「はい!完璧ですっ」
「そうか」
手持ちで夢主自ら運ぶ荷物、沖田に預ける荷物、斎藤に渡す荷物と綺麗に仕分けされている。
荷物を確認すると、斎藤は自分に託されるべき荷を手に再び屯所を出た。
あちこちに用事があるのか、斎藤は丸一日歩き回っている。
屯所に戻ってはすぐに出て行ってしまい、なかなか部屋に腰を据えなかった。
最後の用事を済ませて戻った斎藤が腰を下ろす時、「ふぅ」と息が漏れた。
珍しい場面での溜息に夢主は思わず目を大きく開いて、まじまじと斎藤の顔を覗いた。
「なんだ」
「いえ・・・今日はお忙しそうでしたね、やることが沢山あるんですね・・・ここにいる間に」
伊東と西本願寺を出て行く前に、斎藤は個人的に報告を済ませたり手配すべき件が山ほどあるのだろう。
夢主はそんな誰も知らない斎藤の秘密を知る自分を面白く思っていた。
「まぁな。・・・なんだニヤニヤと」
「ふふっ、ごめんなさい。だって珍しく・・・斎藤さんは疲れ知らずなんでしたよね。でも・・・久しぶりに体ほぐして差し上げましょうか、お嫌でなければ」
「フン、今日は一日動き回ってな、確かに珍しく疲れているかもしれん。気を使うことも多くてな」
斎藤は首を伸ばして肩を解す、あまり見せない仕草をして見せた。
「そうなんですね、斎藤さんも気を使うんですね!大変な一日でしたね、ふふっ」
「おい、喧嘩を売りたいのか」
「冗談ですよっ、ふふふっ」
疲れていると認めない斎藤の性質を知っている夢主は軽く揶揄って笑った。
いつもは斎藤に笑われる自分だが今は逆の立場、そんな状況が面白い。
普段なら揶揄い返すところだが、斎藤は楽しそうな夢主に気を緩めた。鋭い目も僅かに緩む。
「フッ、按摩はいらん。お前は、大丈夫か。誰かお前を訊ねて来たか」
「いえ・・・ただ偶然藤堂さんにお会いしました。お話をして、それから土方さんとも偶然お話を。原田さんもお見かけしたのですが、そのまま行ってしまいました・・・」
原田は何か言いたげな表情だった。
自分の本音を振り切り、夢主を避けて立ち去ったのが分かった。
「そうか。まだお前がどうするか皆は知らない。原田さんは俺と出ていけば危険だと理解しているんだろう。だがお前の気持ちも分かる。お前を思ってくれる原田さんだからこそ、声が掛けられなかったんだろう」
「はい・・・私もそう思います。原田さんはいつでも優しく見守ってくれたから・・・」
いつも励ましてくれた温かい笑顔と同じくらい温かい大きな原田の手を思い出して視線を落とした。
頭に触れる大きな手はいつも元気をくれた。
「今からそんなに淋しがっていては持たんぞ」
「そんなことは・・・きっと出て行ってしまった方が気持ちはすっきり、区切りが付くんだと思うんです。今はつい考えてしまって・・・」
「そうだな、考えても仕方ない」
「わぁ・・・斎藤さん!」
斎藤はニッと薄すら笑うと夢主の後に回り、背後から静かに手を回した。
腕を押さえるように後ろから抱かれて、夢主は恥ずかしがって肩越しに斎藤を見上げた。
「フン・・・考えても仕方ない。暫く離れる分、くっついておくか」
「もぉっ、斎藤さんの冗談はタチが悪いです。土方さんじゃあるまいし」
「ほぅ、土方さんがどうした」
斎藤が覗き込み、夢主は慌てて顔を元に戻した。
今度は熱い息が耳に掛かって擽ったい。
「昼間・・・内緒話だからって土方さんが体を寄せて・・・それだけです。生活費を頂きました・・・」
「成る程な。ならば俺も内緒話だ」
ゆったりと柔らかく夢主を包む斎藤の腕は動かない。夢主は諦めて、もたれるように背中を斎藤の胸に預けた。
それでも今の状況を受け入れきれずにチクリとぼやいた。
「今なら普通に座っていてもお話は漏れませんでしょう、わざわざくっつかなくても・・・」
「いいや、駄目だ」
「・・・珍しいですね」
「そうだな、俺らしくない」
まるで斎藤が夢主に甘えているようだった。
力強く抱きしめているわけではないが、決して離そうとはしない。
話しながら、時々後ろから夢主の顔を覗くように顔を動かしているのが伝わる。